第56話 ゴーレム、推測する
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都斗の実家は会社員の父親が30年ローンで購入したごく普通の一軒家である。都斗の部屋もごくごく標準的な大きさの部屋であるので、少女たちが4人も入ると大分余裕がなくなる。しかも、今まで誰かが家に来ることを想定されていなかった(涙)ので、多人数で囲めるテーブルなどはない。で、あるので、少女たちは車座になって作戦会議をしていた。
「わっちは信頼できる友達がいなかったから、こうしてガールズトークってやつが出来るのが嬉しいっすよ」
「それで、都斗さんこういう時って何を話すのかしら?」
聖刻眼を気味悪がられてショックを受けた過去がある都斗がお泊り会にテンションを上げていると、木葉の世話に学業と割とストイックに生きてきて松本ダンジョンの時しか女子会をしたことがない依和那が尋ねる。
「それは……こういう時にはコイバナっていう決まりがあるっす」
「コイバナですか……そういった経験はないわね」
「あ、あたしもちょっと前まで生活も大変だったから恋愛とかする余裕がなかったかな」
「……友達すら遠ざけてたわっちもなかったっす。あ、じゃあ、セレスタさんはどうっすか?」
さらりと告げる依和那はともかく、やや重めな事情の木葉と自分のせいで醸し出される瀕死の空気に耐えきれず都斗はセレスタに話を振る。
『わたくしは婚約者がいたのですが、おそらくもう………』
特級の地雷が踏み抜かれて瀕死だった空気さんは無事に昇天された。
「そ、そうだ!そういえばセレスタさん4月からうちの学校に入るんだよね」
『ええ、色々取り計らっていただいて、木葉さんと同じクラスになるようですわ!』
逝ってしまった空気さんを蘇生させるべく木葉がセレスタの編入の話をだすと、セレスタも助かったとばかりに話に乗る。
「いきなり高校生で大丈夫なんすか?勉強とか10年分くらいあるっすよね」
『そうですね、やはり多少は遅れが出てしまいます。ですが、柘榴さんは性格はアレですがやはり優秀でして、もうわたくしの言葉や文字を覚えていました。そして、その言葉でこちらの勉学を教えていただいています。さらに、』
セレスタは一度言葉を区切るとペンダント型魔道具を外した。
「並行してこちラの言葉ヲ教えていただいテいますノ」
やや発音がおぼつかない部分はあるが、セレスタが確かに日本語を話すのを聞いて3人が驚いたのを見ていたずらが成功したような顔をした。
それにより弛緩した空気により自然な会話が始まり、気のすむまでガールズトークを続けてほんの少しの作戦会議をこなして皆が互いを呼び捨てで話せるようになるころには夢の世界に旅立った。
因みに書ノ上家に着いたときから、濡鴉はずっと玄関で置物になっている。濡鴉の造形に少年心を刺激された都斗の父親がポーズを取らせて写真を撮っていたりした。
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早朝ーーー日が昇る前から浪人達は起きだして、柘榴が用意していた朝食を平らげると素早く身支度を整えて小屋を出た。
「田中さん。今度はわたし達に戦わせてください」
柘榴が小屋を片付けてポータルを設置していると、薬師寺が田中にボス戦を希望している声が聞こえてきた。他のメンバーも頷いて肯定をしているようだった。
田中としても上層とはいえ元々自分もしたことなので、イレギュラーが出ない限りは大丈夫だろうとみなして許可を出した。
そんな彼らのボス戦であるが、完全に一方的な展開であった。元々が格下であったので、完全に新技の馴らしの場にされていた。まず、ボスのサバギンロードと取巻きのサバギンファイターを尼子が結界で分断した。
そこを小林が魔力弾の連射で仕留めていく傍ら、サバギンロードの槍を金田が盾で魔闘術リアクティブアーマーを使いダメージを与えつつ弾いて体勢を崩す、そこに薬師寺が踏込みを爆発させつつ槍に螺旋状に魔力を込めて突く。
薬師寺の突きを受けたサバギンロードはあっさりと胸に大穴を開けて倒れて消えていった。ボスが倒れたことで残ったサバギンファイターも消えていきボス戦は瞬殺といってもいい早さで終結した。
「これはいいわね。自由度は魔術に劣るし効果自体はスキルに劣るけど、応用がきくしスキルと重ねられるわ」
「魔弾も威力の調整で消耗が抑えられるな。魔〇光殺砲や気〇斬みたいに出来たりするかな?」
「うちも結界魔術を使えば支援の幅を広げられそうよ」
「じ……「今度は警察ロボのマネですか、まとまりのない男ですね」」
「………(´;ω;`)」
「しかし、その成長は褒めてあげましょう」
「(人''▽`)☆」
浪人達4人が口々に手応えを確かめたところで、田中が下層の探索について方針を開陳した。
とはいっても、水中という最大の危険ポイントがそこら中にある水棲エリアなので前衛を前後に分けて、不意打ちに警戒して小林を中心に迎撃しながら進もうといった大まかなものではあるが。
「進行に時間が掛かってしまい申し訳ないが、柘榴さんも頼んだよ」
「ええ、ここで出しゃばっては貴方達とともに来た意味はありませんから貴方達に任せます。ただし、長くなりそうなら時々は帰らせてもらいますよ。それに……おそらくですが、ここまでの様子から考えるにダンジョンブレイクについてはそこまで警戒する必要もないのではないかと思っています」
「?……どういうことだい?」
「以前私が倒した天使のことは知っていますか?」
「ええ、貴女の力を盛大に知らしめたあの事件ね」
「なるほど。もしかしてっ!」
柘榴が言い出した楽観的な考えに対して誰何の声を上げた田中に対して出したヒントに、何かを思いあたった小林が声を上げた。
「半兵衛、どういうことよ?」
「あんときは天使の元には大量の下層魔物がいただろ。何者かが意図をもってダンジョンブレイクを起こそうとすんなら深い階層の魔物から順に増やして、増えた魔物に一気に上を目指させるってのがセオリーってことなんじゃないか?なのに、今回中層では下層の魔物を全く見かけなかった。増加しているのは上層と中層の魔物だけじゃねえのかってことだ」
「ならこれは誰かの意思が介在しないダンジョンブレイクーーーつまりただの間引き不足ってこと?」
「いいえ、それにしては過疎ダンジョンでもないのに上層と中層の魔物が多すぎます。しかし意図は分かりませんが、地上が危険にさらされる可能性は低いと推測できます。ただ、魔物が多くなればイレギュラーも発生しやすくなりますから、トラブルを呼び込む体質のマスターが心配です」
((((え!?この人が呼び込んでるんじゃ?))))
木葉の身を案じる柘榴に浪人達が共通の思いを持つが、このゴーレムはトラブルを作るのであって、呼び込むのはどちらかといえば木葉であった。はた迷惑な主従である。
「そうか。しかし、それは状況からの推測でしかないからね。無理はせず急いで進みながら原因を探っていこうか。要はブレイクの原因を探りながら下を目指そうってことだよ」
田中の結論に柘榴は何か言いたげにしたが結局口を噤み、他の誰も異論をはさむことはなかった。ボス戦自体はすぐ終わったので、特に休憩することなく下層へと進む。
川崎ダンジョンの下層は中層までが陸地3割と海と川が7割でできていたが、下層は陸地が1割にも満たず殆どが海というエリアであった。さらに、下層からは階層型ではなくフィールド型となっており、ゴール地点が不明となっているエリアでもある。
「一先ず、陸地づたいに進んでいこうか。小生が前に行くから蒼君と金田君は背後を頼む」
わずか数歩進んだところで水面が盛り上がり、スズキンナイト、スズキンランサー、スズキンハンターが10を超える群れで現れた。
「蒼君、行くぞ。金田君は周囲を警戒して2人の護衛だ。半兵衛君は魔弾でハンターを、桃花君も周囲を警戒だ」
いうや否や田中は群れの真ん中に躍り込み手近な1匹の首を刎ねた。そのまま敵をかく乱しながら、1匹1匹倒していき、薬師寺も田中に気を取られているスズキンを始末していく。小林もライフルウオを構えたスズキンハンターを倒して最後の1匹を倒した時点で無傷の勝利であった。
「下層でも十分行けそうだな」
「油断してはだめだよ。今のサハギン?も不意打ちをされればもっと苦戦しただろうからね」
「うぃーっす」
思ったよりも楽に倒せたので小林が調子のいいことを言って、田中がたしなめるのはいつもの光景なのだろうと思わせる慣れた様子だった。
スズキンのドロップを拾うと探索を続ける。
下層は海が多いだけあって陸地は狭い道のようになっているが真っ直ぐではなく曲がりくねっており、見た目以上に距離があった。
その間にも幾度もスズキンやイクテュオケンタウロスやリトルクラーケンといった魔物に襲撃されたが、浪人達はいずれも大した傷を負うこともなく討伐することが出来た。
「普段がどの程度かは分からないが小生が感じる限りでは、他のダンジョンの下層とエンカウント率はあまり変わらないように感じるな」
「そうですね。しかし、まだ下層に来て1日目ですから結論を出すには早いかと」
「蒼君の言うとおりだね。さて、もう少し……ん、全員警戒っ!」
話をしながら周囲を警戒していた田中が、大きく波打つ海面に気づき警戒を促す。徐々に波が大きくなり海面が盛り上がって、中からそいつが姿を現した。
それは鰐のような顔と胴体にヒレの手足を持つ全長20mにも及ぶ巨体を待つ生物。その姿はまるで白亜紀に存在したとされる魚竜モササウルスであった。




