第54話 ゴーレム、牽引する
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ギルド側のワープポータルを設置して田中達と合流すると会議自体はそれで終わって、田中一行+1は川崎ダンジョンに入場した。柘榴は胸元を少し開けてこのはちゃんを入れており、木葉の分身であるこのはちゃんは初めて来る川崎ダンジョンを興味深そうに眺めていた。同時期に本体も同じようにしていたりする。
浪人グ石達のメンバーは全部で5人のパーティだ。田中が魔剣豪という魔剣士の上級職でレベルが178で、他のメンバーは金田宙という男性が鋼鉄人という上級盾職でレベル162、小林半兵衛という男性が学術士という攻撃から補助まで使えて鑑定もできる上級魔法職でレベルは165、尼子桃花という女性が治癒師という治癒士の上級職でレベル158、最後が田中を呼びに来た女性で名前は薬師寺蒼といい薙御前という上級槍職でレベル170。
現在S級にあるのは田中と薬師寺のみであるが、メンバー全員がいつS級になってもおかしくはないといわれている。ただし、全員浪人である。探索者の才能を持ってしまったことと、人格者であることが災いしているが全員浪人である。
そんな国内最高峰クラスパーティとの調査探索であるが、
「柘榴さんといいましたか?どこまで本当か分かりませんがあなたの噂は聞いています。ギルドの要請なので連れて行きますが、こと急を要する事態です。遅れないようについてきなさい」
「……黙りなさい、メス豚。この至高の私に命令できるのはマスターだけです」
「なっ!?」
入場して早々険悪になっていた。
これは遅かれ早かれ起こりえたことではあるが、あまりに早すぎた。薬師寺は柘榴が魔術という驚異的な力を持っているのは知っているが、敬愛する田中に気安いことが気に入らない。柘榴は木葉と長時間離れなければいけない状況にフラストレーションを抱えており、その木葉をしょげさせた目の前の女が偉そうに己を下に見るなどという愚行をしたのだから、その煽りに乗ってやろうという意気である。
しかし、肩に乗せているこのはちゃんが柘榴の頬をぺしぺしとして気を引くとしぶしぶ矛を収めてそっぽを向いた。
この一連の出来事を見て田中は柘榴との協調を諦めた。柘榴は人の道理に縛られない。言葉を話して意思の疎通をできるが、決して人の倫理感には染まらない。今は木葉のおかげで人の輪の中に入っているだけだから、失敗すれば多くの人間が犠牲になる作戦の中でも我を通す。それを悟って、エゴも人の道理では交渉が出来そうもないな。と、今回の裏にいるかもしれない存在に思いを馳せた。
しかし、田中は柘榴が望んでいることは何かを考えて共闘をする方法を考える。これまで、柘榴は木葉の願いとはいえ人を救い、時に宝物といえるものを与えることがあったとも聞く。
もちろん遜られることも嫌いではなさそうだが、それよりも………。
「ふむ。薬師寺君、柘榴さんはあくまで協力者であって部下ではない。客人にするように接しなければ失礼というものだよ。そして、柘榴さんもあまりこのようなことに時間を使っていては木葉ちゃんの元に戻れるのが遅くなってしまうのではないかい?」
「は、はい。失礼を致しました。申し訳ありません」
「もっともですね。少し我慢をして早く済ませることにしましょう。それに、田中の言は無下にできません」
薬師寺は一度冷静さを取り戻させれば理性的に行動できるだろう。柘榴が目覚めるまでで咲乃家に助力をしたことがあるので、本人の言う通りこの程度のことであれば田中の言うことを聞いてくれる。柘榴とは西風荘の改装時に1度あっただけであるが、色々事情を知っていそうであるのでそこを利用させてもらう。
もっとも、綱渡りの状況だったのにやっていることがまるで小学校の先生のようだと田中は内心苦笑していた。
「はーーーーっ。蒼さん、ハラハラさせないでくださいよ。あの黒龍の牙の鮫羅木を殴り殺したっていうゴーレムに喧嘩を売るなんて」
「殺していませんが?」
「ごめんなさい。彼女のように忠誠心の強い魔物の前で主を貶すなんて悪手だったわ」
「忠誠心じゃありませんが?」
「ほんとさっさと告っちゃえばいいのによ」
「告っ……って!?そんなんじゃありません!!」
「アオハルは余所でやってください」
「じぶ……」
「ジー〇だか2〇号だか分からない者は黙りなさい」
「……(´;ω;`)」
少し派手目な尼子とチャラい小林が剣呑な雰囲気が霧散したことで軽口を叩き、続こうとした金田が冷たくあしらわれてしょんぼりする。柘榴のツッコミは総スルーされた。
「さて、柘榴さん。ダンジョンの中に入ったけれど異変を感知できたりはするかい?」
「いいえ。そのような機能はありません。しかし、」
田中の疑問に否定を返すと、そこらに落ちていた石を勢いよくダンジョンの奥に投げた。すると、遠くから濁った悲鳴が聞こえてきた。
「今のは事前に調べていた情報では1層にいないはずのシートードのようでした。やはり、魔物がのぼってきていることは事実のようです」
柘榴が告げた内容に全員が顔を引き締めて、事態に対する警戒を強める。
「提案ですが」
「なんだい?」
おそらくダンジョンを世界の誰よりも知っているであろう柘榴からの提案だ。一考の余地があるだろうと耳を傾ける。
「中層までの魔物であればここにいる探索者達で対処できるでしょう。ならば、私が牽引しますので下層に急行した方がよいと考えます。下層を調査して異常が無いようなら改めて中層から戻ればいいでしょう?」
「なるほど。早期に鎮圧できれば、それだけ探索者たちの負担も減るだろう。よし、採用しよう。しかし、牽引とはどうやってやるんだい」
田中が即決して方法を尋ねると、柘榴はスカートから絨毯を取り出した。
「それってまさか……!!」
それを見て尼子がファンタジーの定番のアレかと思って目を輝かせた。
「空飛ぶ絨毯です。畳もありますが日本人ならそちらの方がいいですか?」
「畳っ!?空飛ぶ畳ってシュール過ぎない!?」
尼子はそう突っ込んでいそいそと絨毯に乗り込むと、他のメンバーを急かして呼んだ。ほかの面々も恐る恐る、あるいは興味深そうに全員乗り込むとふわりと宙に浮かび上がりおおよそ目線辺りで停止した。
「それでは、行きます」
宣言するや柘榴は身体強化こそかけないもののかなりのスピードで駆ける。絨毯は自動的に柘榴の速さに合わせて追尾して進むので見失うことはないようだ。このはちゃんは柘榴の胸元に入れられており、谷間から顔だけ出しているような状態になっている。
川崎ダンジョンは川と海のダンジョンで土地は陸地より川や海の方が多く、出現する魔物はほぼ水棲となる。その僅かな陸地を疾走する途中でサハギンやシートード、ミドルクラブなどを1打で地面の染みにしながら走り抜けると1時間も経たないうちに上層ボス部屋の前にたどり着いた。
田中以外は上層とはいえ魔物を歯牙にもかけない戦いを観て、途中までは柘榴の強さに喧嘩を売りかけたことに今更ながらに恐れ青くなっていたが、しばらくすると環境に慣れて揺れない絨毯の上で各々勉強を始めたので、さすがに柘榴もえっマジかこいつらという顔になった。何気にどちらも癖が強い。
ボス部屋の前で絨毯から降りた田中がウォームアップを始めた。
「上層ですが、戦ってみますか?」
「ああ、小生も少しは働かないとね」
「おっ、そんじゃ俺らもいいとこ見せないとな」
「いや、ここは小生に任せてほしい。試してみたい事があるんだ」
絨毯から降りて体を解しながら、小林達が続こうとするのを止める。
「え?まあ、リーダーなら上層ボスくらいなら1人でも簡単だとは思うけど……」
「まあ、見ててくれ」
怪訝そうにする小林に笑って軽く返して、サーベルを抜いてボス部屋に入る。
他の面々も一緒に部屋に入り、入口付近で田中が奥へ歩いていくのを眺める。
田中が中程まで進むと床が光り、上層ボスのビッグクラブが現れた。ビッグクラブは本蟹の大きさからすると子供くらいの取巻きを連れて、鋏を振り回して威嚇する。
「うん。丁度いいくらいかな」
田中はそう呟くと、その場でサーベルを横薙ぎにする。到底蟹達に届くはずのない斬撃は蟹の群れを切り裂き、吹き飛ばした。
「えっ?」
見慣れたリーダーの見たことのない攻撃に薬師寺達は目を見張り、驚きの声が漏れる。
続いて田中が地を蹴ると、蹴った地面が爆発したように抉れジェット噴射でもしている様な加速で蟹との間を詰めて、サーベルで突くとくり貫いたような様な孔が空き蟹が崩れ落ちる。
更には振り下ろされる鋏に裏拳を併せると、鋏は破裂した様に吹き飛び、お返しとばかりに一刀両断にする。
そうして皆が唖然とする中を田中が蟹達を蹂躙して、残りはビッグクラブだけになった。田中はビッグクラブの正面に立つと幾多もの剣線を閃かせて距離をとった。
相手が下がったことで勢いづいたのか、ビッグクラブが田中を追って突進すると丁度剣を振るったあたりを通り過ぎたところで停止した。それを見ていた田中が鞘に納めたサーベルで地面を突くとビッグクラブはバラバラになって地に落ちた。
「やはり練度がまだまだの様だね。最初の一撃も斬ったつもりが吹き飛んでしまったな」
上層とはいえボス戦を終えて、汗の一滴もかかずに一行の元へ戻ってきた。
「ステキ♡」
柘榴も含めた皆が唖然としたままの中、薬師寺だけが目をハートにしていた。




