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第53話 ゴーレム、エリート浪人達と会う

ご来店いただきまして誠にありがとうございます。

 田中一浪という男を語る上で一番に挙げられるのはS級探索者であるということだ。それも、WER(World Explorer Ranking)において10位に位置している。


 二番目に挙げられるのが浪人生であるということだ。それも国内最高峰に挑み12浪ーーー否、今年も受験失敗して13浪目に突入している。


 田中の実家は自営業の喫茶店を営業しており、繁盛はしているものの裕福というわけでもない。そのため、田中は一人暮らしを始めて生活費と受験費用を稼ぐために探索者を始めたら、たまたま才能がありS級まで昇りつめてしまった。


 それが故に忙殺されることとなり受験勉強の時間を捻出することが出来ず、時には受験の日に応援要請が入り受験すらできなかったこともある。


 しかし、そんな環境でも腐らずにいることが出来るゆえに人格も認められてS級となっているのだが、そんな田中が浪人生、ひいては受験をしたいが裕福でないため諦めざるを得なかった者達が費用を稼ぐための手段と出来る様に立ち上げたのがクラン<浪人業の館>である。ひどい名前だ。浪人を(なりわい)にしてどうする。


 そんなクラン浪人業の館の中核メンバーであるエリートパーティの浪人グ石達が今、木葉達の前にいた。エリートだけど浪人。意味が分からない。


「お久しぶりです。いつも忙しそうですね」


「柘榴さんには西風荘の改装の時にあったけれど、木葉ちゃんは久しぶりだね。木葉ちゃん達の最近の活躍は小生の方にも聞こえていたよ」


 そう、田中が浪人してから一人暮らしを始めたのが、まさに咲乃家の住む西風荘であった。田中自身は忙しくしているためなかなか帰ることが出来ず顔を合わせることは少ないとはいえ、実はご近所さんなのだ。


 その田中は三十路になっていると思えない若い容姿をしており、切れ長の目で黒縁眼鏡を掛けて七三に分けた髪型をしていた。今は大正の軍服のような装備を身にまとっている。


 名前関係は完全に色物であるが見た目はエリートイケメンの為、実はかなり人気がある。


「活躍……今は殆ど柘榴のおかげです。だけど、あたしも頑張ってお父さんみたいな立派な探索者になるんです」


「ふふっ、やはり至高のわた「柘榴は黙ってて」……はい」


「木葉ちゃんの夢を小生も応援しているよ。今回は共にこの危機を乗り越えよう」


「はいっ!」


「田中様、そろそろ作戦会議を始めましょう。そちらの……ゴーレム?の方もお願いします」


 木葉と田中が談笑していたところにスーツの女性が口をはさみ、川崎ギルドの会議室を示す。その際に、木葉をじろりと木葉に視線を向けてひとしきり眺めるとすぐに顔を逸らした。


「あ、はい。引き止めちゃってごめんなさい」


「私はマスター達に渡すものがありますので、先に行っていなさい」


「…!貴女っ!」


「まあまあ。それでは小生たちは先に行っているよ」


「くっ」


 田中になだめられた女性は悔しそうにしながらも、田中を先導して会議室に向かった。


「う、なんか気に障ることをしちゃったかな?」


「マスターはいつも通り愛らしいですよ。ただの嫉妬でしょう。そうっ!この至高の私を従えるマスターに身の程知らずにも嫉妬をしているのですっ!」


「まあ、対象は違うと思うけど嫉妬ってのはあながち間違いでもないと思うわ。あの人はずっと田中さんに尊敬の目を向けていたし」


『そうですわ。故郷でも族長のお父様に過剰な敬意を向ける方がおりましたが、あの方もそのように見えますわ』


 初対面の女性にそっけない態度をとられてしょんぼりしていると、ここ何話か存在感を薄れさせていた依和那とセレスタが慰める。いつも通りの柘榴は途中からスルーされていた。因みにであるが、鮫羅木は川崎に着いたときに都斗のことを頼んで、自らは集まっていた黒龍の牙メンバーのもとに向かっていてこの場にはいない。


『それで柘榴さん。渡すものというのはなんでしょうか?』


 装備や消耗品は既に受け取っているので思い当たるものがなく、首をかしげながらセレスタが聞く。


「ひとつは……マスター、失礼しますよ」


 そういうと柘榴は木葉のマジックバッグを漁るとあるものを取り出した。


「げ」


 それを見た木葉が嫌そうな声を上げる。それはかつて木葉が初めてボスを倒したときに手に入れた呪物ーーーではなく、身代わり人形であった。手に入れたときに色々あってギルドに報告するのを忘れて、マジックバッグにしまわれたままになっていた。


「今回は普通の探索ではなく戦闘がメインになる上に私がついていられないので、こちらを装備しておいてください」


 ベルトに吊るされた藁人形が異彩を放っており、木葉はすごく嫌そうな顔になった。


「これってどうしてもつけなきゃダメ?」


「ダメです」


 依和那達はその様子を見ながら身代わり人形が1個しかないことにホッとしていると、木葉に身代わり人形を装備させ終えた柘榴の首がぐるんと向けられた。


 そして、依和那達の方へ向き直るとスカートの中に手を入れて、取り出したときには両手に2個ずつで、計4個の身代わり人形を持っていた。


「『「ひぃぃぃ」』」「wooood!?」


 にやりと笑う柘榴に詰め寄られて、悲鳴を上げる3人と1体はこの後しっかりと装備させられた。


 濡鴉に至っては頭の一本角にまたがる形で固定されて、表情が分からないながらも黄昏た雰囲気を醸し出していた。


 満足げな顔をして会議室の方に歩いていく柘榴を見送った4人と1体は顔を見合わせて、心配してくれるのはありがたいがそれはそれとして仕返しを決意していた。


「あの子たちなんで藁人形なんかつけているのかしら?」

「丑の刻参りにでも行くのか?」

「あれって宝箱からたまに出るハズレのやつじゃないか?」

「せっかく可愛いのに趣味が悪いわね」


 ダンジョンブレイク対策のため、普段よりも人が多いギルドロビーで人目に晒されることに耐えられなくなって、木葉達はこそこそと隅の方に移動した。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 会議場に入ると田中達浪人グ石達と剣崎がコの字に並べられた席に座っていた。柘榴は入ってすぐの壁際で立つことにした。元々の川崎の支部長は既に更迭されているので、この場に姿はない。


「?柘榴さんも座ったらどうかな?」


 事情を知らない田中が遠慮など端から欠片もない柘榴が遠慮をしているのかと思って、席を勧めるが首を横に振って否定を示した。


「柘榴はああ見えて体が金属製なんで重量があるのでな。椅子が持たんからって、いつもああして立っているんだ」


「なるほど。見た目は人間にしか見えませんが、本当にゴーレムなんだね」


 剣崎が説明をすると、田中は感心したように感想を漏らした。ほかのメンバー達も目を疑うように柘榴に注目をしていた。


「さて、川崎ダンジョンのブレイク攻略会議を始めようか。とは、いっても取れる手段など1つだがな」


 逸れようとしていた話を引き戻すべく剣崎が会議の開始を宣言すると、室内の面々の顔つきが真剣なものになった。


「そうだね。ここにきている探索者の皆で魔物を地上に出さない様に防衛している間に小生たちがブレイクの原因を排除する。言葉にするのは簡単だけど、そもそも原因が不明。もし、例のエゴの仕業とするならば、川崎ダンジョンの最深部が分からない上にたどり着けるかも分からない。楽観的観測をするならば魔物が増えすぎていて、間引きをすれば解消するというのが望ましいけれどね」


 田中が作戦とも言えないような作戦を口にするが、ダンジョンで無人偵察などが出来るものであればとっくにやっているし、情報がなく原因が不明なのであれば、もはや足で捜索をするしかない。


「柘榴、ブレイクの原因を推測できるか?」


「私はまだこのダンジョンに足を踏み入れてもいないのですから無茶を言わないことです」


「それもそうだな。すまん許せ。ところで、鷹柳からまたお前がトンデモアイテムを出したと聞いたが?」


 剣崎の無茶ぶりをさっくり切り捨てると剣崎もそれを認め、今回の作戦に柘榴が加わる要のアイテムの話に移る。事前に知らされていない田中達は疑問顔で成り行きを眺めていた。


「ええ、一先ず上層から下層のボス部屋前に仕掛ける片割れを設置しますので、場所を教えてください」


「分かった。案内させよう」


 そう言った剣崎に呼び出された職員が柘榴を伴って部屋を出るのを見送ると田中達に向き直る。


「あいつは魔術を伝えたのもそうだが、この世界にない技術や道具を数多く保有している。今回使うのはワープポータル。探索者にとっては夢のような道具だぞ」


 そういって威厳のある顔を悪戯でもするように楽し気に緩めながら、田中達に道具の詳細と柘榴の事情を話すと百戦錬磨のS級探索者達からも驚きの声が上がった。



田中が西風荘に住んでいること自体は当初から考えていたのですが、当初は出演をさせる予定はありませんでした。

初期の容姿はザ昭和の浪人生だったのですが、都斗と被るので書生+軍人風にしました。

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