第50話 ゴーレム、超越存在に思いを馳せる
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レベルが上がることでなぜ身体能力などが上がるのか、それは世界中で研究されている課題の1つであるが、とある一つの信じられている学説がある。
それは大まかに言うと、生物や魔物に固有魔力と浮遊魔力があり、魔法や一部のスキルを使って一時的な効果を出すのは浮遊魔力で、身体能力を上げる等恒常的に効果をあらわすのは固有魔力であるという説だ。探索者も一般人も遺伝的には変わりがないのであれば、原因は未だ未知の部分が多い要素の魔力であると考えるのは自然なことであった。
そして、レベルとは固有魔力の保有量を目安としているのではないかといわれている。生物や魔物が死んだときに固有魔力が浮遊魔力へと変化して、それを倒したものが取り込み自らの固有魔力へ変質することでレベルアップが起こるという説であった。
ただしいくつか例外があり、浮遊魔力の取り込み自体は常に微々たる量が取り込まれているのではないかともいわれている。探索者を引退した者も何年かしてレベルが上がっていることが確認されていたからだ。しかし、引退した者は素の身体能力や技術が下がっているためレベル相応の強さではなかったらしいが。
また、圧倒的な強敵と闘ったときに相手を倒せなくても大幅にレベルが上がっていた例も確認されている。それは、探索者が圧倒的な強敵を倒すために本能的に浮遊魔力を大量に取り込んで自らを強化しているからだと云われている。それには事例が少ないため未だ証明はされていないが、まさに今回柘榴と闘った鮫羅木がその状況に酷似しており、推測を結びつけるのは容易であった。
柘榴と闘うことで急速なレベルアップができると広まれば、挑戦者が増えるかもしれない。しかし、その時に相手を死なせずに終わらせるだろうか?
今の他者に関心のない柘榴ではそのうち相手を殺めてしまうかもしれない。そう考えるとこんなことは広められない。もっともあえて広めるつもりもないが、噂というのはどこから広がるか分からないので木葉たちの気も重くなっていた。
「ただいま戻りました、マスター。おや?どうされたのですか?」
そんな4人のもとに修練場の修理を終えた柘榴が戻ってきて、様子のおかしい4人に問いかける。
「おかえり柘榴。なんでもないよ」
「そうですか?疲れているように見えたのですが……」
木葉が誤魔化すと柘榴もそれ以上は追求せずに、黙って木葉の後ろに控えた。
そこにギルドの測定器でレベル測定をした鮫羅木が戻ってきた。
「マジだった」
鑑定眼鏡の故障であればよかったが、間違いでもなかったのでがっくりする木葉たちに意味が分からない柘榴は不思議そうにする。
とはいえ、あまり柘榴に勘繰られても都合が悪いので、阿吽の呼吸で話を逸らすことを試みるというか元に戻す。
「今、都斗さんと鮫羅木さんの鑑定をしていてね。効果が分からないスキルがあるから教えてほしいんだ」
「そうですか、分かりました。どのようなスキルですか?」
当初の目的の1つなので自然に話を誘導して……いるつもりの木葉に、とりあえず誤魔化されることを受け入れて願いを聞き入れる。
「わっちはやっぱ聖刻眼っすね」
都斗はやはり自分の人生を大きく捻じ曲げたスキルの正体を知りたかったようで、期待半分諦観半分で柘榴に問うた。
「聖刻眼ですか、トトの眼とも言いますが、ボ〇ンゴみたいに予言が出来る………というものではなく」
長年の悩みの種の正体がわかる。と期待したところをすかされて半眼になって柘榴を睨む。
「地球の記憶を見ることが出来ます」
「は?」
「もう少し詳しく言うと、生物が関係したこと限定ですが、この星で起こったことを知ることが出来ます。ただし、人の頭ではスペック不足ですので、あまり古いことを知ろうとするとパーンします」
「パーン?」
「はい。パーンと破裂します」
「超厄ネタじゃないっすか。メリットよりもリスクが大きい気がするっすよ!?」
身体的なリスクもある上に黒いことに手を染めていそうな人にばれたら、海に沈められそうな能力に涙目になる。
これは誰にも話せないと思ったところで今いる場所を思い出して、慌てて周囲を見まわすと光の幕のようなものが周囲を覆っていた。
「周囲から空間を遮断する結界の魔術です。感謝しなさい。それで、このスキルの使い方を知ることを望みますか?」
それを聞いて一先ず第3者に聞かれなかったことが分かりホッとしたところで、柘榴から聖刻眼を使うか聞かれて、どうするかを考える。正直厄ネタでしかないスキルなので使いたくはない。しかし、使い方も知らなければ悪いタイミングで発動してしまうことも考えられる。で、あるならば、
「使い方を知りたいっす。どうか、教えてくださいっす」
都斗の決意に柘榴は一つ頷くと、木葉を指さした。
「え?あたし?」
木葉が訳が分からず戸惑うが、スルーをして都斗に指示をする。
「使い方は簡単です。例えばマスターを見ながら、1日前の行動を見ようと思いながら眼に魔力を巡らせてください」
都斗が言われたとおり眼に魔力を巡らせると瞳の中の文字が動き回り、都斗の脳裏に過去の情景が浮かぶ。
その中では木葉が授業中に鼻提灯を膨らまして、よだれを垂らしながら舟を漕いでいる光景が浮かんだ。
「木葉ちゃん。乙女が鼻提灯はどうかと思うっす」
「うそっ?鼻提灯なんてしないよっ!?」
「してたわよ」
木葉が必死に否定をするが、ばっちり目撃していた依和那の証言をされて撃沈する。
「ほんとに過去を見れるんすね。なんでこんなスキルが生えちゃったんすかね……」
「スキルは行動によっても獲得しますが、コレの場合は……もしかしたらトト神の加護という可能性がありますね。同じ名前で親近感でも湧いたのでしょうか?」
確信はないので柘榴にしては珍しく歯切れの悪い答えであるが、木葉たちはそれよりも柘榴の言葉に驚いてそれでころではなかった。
「加護って……地球に神なんて存在がいるんすか?」
「ええ、ああ、はい。地球の神は神域に籠っているようですので、生物に干渉することは今までなかったと思いますが………他にもこうして地上に干渉している者はいるのでしょうか?」
神族や悪魔などの超越存在と生物が近しい世界もあるので、加護や寵愛があっても不思議ではないが現代の情報を調べたときに、地球の神は地上に干渉していないだろうと思っていたので柘榴も戸惑っていた。
(さすがに直接の降臨はないと思いますが……)
地上の魔力が薄いから出てこられないのは地球の神も同じであるが、神域にいながら地上に干渉できるのは、さすが永きに渡りこの世界に名を伝えられる神というだけあるのだろう。
「何はともあれ、存在するからといって何かを期待しないことです。人の世界は人がまわし、護らなければいけません。お節介な超越存在がいたら、その時はありがたく力を借りればいいのです。そうっ!この至高の私に感謝と尊敬を捧げてもよいのですっ!」
急にテンションを上げて恩着せがましく演説を始めるゴーレムに、一同はテンションを下げてげんなりした顔をしており、ひっそりと立っていた濡鴉は先輩ゴーレムの奇行に顔を手で覆っていた。
「あーー、俺のスキルも聞いていいか?」
いたたまれない空気を感じて、せっかくだからと鮫羅木が話題を変えるべく己のスキルを尋ねる。
木葉達からの扱いが最近雑に感じるので、見返すための悪だくみを心の中で決めて取り合えず鮫羅木に答える。
「まあ、いいでしょう。それで、どれでしょう?」
「闇夜の灯と根性と気合だな。最初のは普通に意味が分からんし、根性と気合はどうとでも取れそうでよく分からん。闇夜の灯と根性はさっき生えてたんだ」
「闇夜の灯は窮地を切り抜ける閃きを導くスキルです。根性は精神で肉体の限界を超えるスキルですね。最後の気合は文字通り気合を込めて攻撃すると威力が上がるものです。まるでバトル漫画のようなキャラ性ですね」
少年漫画の主人公のように閃きで窮地を脱して、根性でボロボロの身体を動かして、気合を入れて攻撃すると相手に通じる。悪徳クランのチンピラなのに………まあ、ヤンキーものの主人公のようではあるが。
「キャラ性とかいうんじゃねえよ。っつか、さっきお前と闘ってた時に取るべき道筋が浮かんだのはそれか。強敵と闘うときにしか役に立たねえな」
鮫羅木は口では悪態をつきながらも凶悪なにやけ面を晒していた。それを目の当たりにして、凶悪な魔物と対峙したことはあっても、凶悪そうな顔のチンピラと対峙したことはないので木葉と依和那、そして元お姫様のセレスタは怯えていた。
(マスターを怯えさせるこの男を〆るべきか………ああ、でも怯えるマスターも可愛いですね。もう少し……)
「………柘榴、何考えてるの?」
「プルプル震えるポメラニアンがかわ……いえ、この男を今すぐ〆なくてはと考えていましたよ」
無表情でよからぬことを考える柘榴の思考を察した木葉がジト目で呼びかけると、とっさに本心が出かけたが苦心の末に隠すことが出来……手遅れだった。
普段のお返しとばかりに木葉が、柘榴をにゅーんとしていると慌てたギルド職員が駆けてきた。結界は内緒話が終わったときに解いているので、足音に気づいた皆の視線が職員に集まっていた。
「皆さんにご依頼したいことがあるので、至急支部長室までおいで下さい」
衆目のあるところで詳細を言うつもりがないのだろう。只ならぬことが起こっていると感じ、緊張しながらも了承して職員の後についていく。鮫羅木も面倒くさそうだったが、従妹が行くので仕方なくついていく。
職員がノックをすると中から返事が返ってから室内に入ると、鷹柳の他にも何人か探索者が室内におり、以前柘榴にぶっ飛ばされた竜崎もその中にいた。
木葉達が部屋に入り扉を閉めると、緊張した面持ちの鷹柳が前置きをする時間も惜しいとばかりに口火を切る。
「川崎ダンジョンでダンジョンブレイクが起きました」
設定の吐出しと、2章最後のエピソード導入です。




