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第48話 ゴーレム、すねる

ご来店いただきまして誠にありがとうございます。

 戦闘訓練という名の決闘に決着がつくと、木葉は観覧席から修練場の舞台に降りて柘榴の背中に声をかける。


「柘榴………?」


 身じろぎしない柘榴を訝しんで、恐る恐る声をかけるとぷくーっと頬を膨らませた柘榴が振り向いた。


「何故あのチンピラが英雄のように持て囃されているのでいるのですか!?マスターも途中あのチンピラを応援していましたよね」


「ゔっ」


 それはあまりに鮫羅木に勝ち筋を見出すことが出来ず、必死に戦う姿に思わず応援をしてしまった。いわゆる判官贔屓である。観客が巻き添えになるような攻撃をしようとしてたりするのであるが、柘榴が防いでいたので気づいている者はあまり多くなかった。


「これはいけない!すぐヒーラーを呼んでください!それとポーションも!」


 木葉がすねた柘榴に責められていると、鮫羅木の状態を見ていた鷹柳が焦りを表した声を上げた。


 相手の状態を把握している柘榴は、上級ポーションを取り出すと鷹柳に向かって投げた。


「それを使いなさい。その程度の怪我であれば後遺症も残りません。ーーーそういうルールでしたでしょう?」


「感謝します!」


 はっとした鷹柳は急ぎ瓶を開けて鮫羅木に飲ませる。鮫羅木は気合のみで意識を保っていたので、スムーズに飲ませることが出来た。鷹×鮫は発生していないので、一部職員は残念そうだ。


 ポーションを飲んだ鮫羅木の体はすぐさま治癒が始まり、ぐしゃぐしゃになった腕も窪んでいた左半身も最初から傷などなかったように治った。


「これが、上級ポーションか。すげえな」


「おー、すごいっすね。あの傷がこんなにすぐ治るんすね」


 鮫羅木を心配そうに見ていた都斗も感心したような驚いたような様子で、鮫羅木の傷があった場所をペタペタと触っていた。


 すっかり傷が治った鮫羅木は立ち上がり最後まで握っていた柄と鎧を見下ろして眉を下げる。


「こりゃもう使えねえな。ハルバートは柄を替えりゃ何とかなるか?」


 柄を見ながら悩んでいる鮫羅木のもとに、木葉と柘榴が歩いてきた。木葉の頬がわずかに赤みを帯びているのはまたにゅーんとされたようだった。


 柘榴に目を向ける鮫羅木との間に、拾ってきた緋色の板を突き立てる。


それは剣というにはあまりにも大きーーーーー


「おいバカ!やめろっつってんだろうが!」


 天丼ネタをかます柘榴を鮫羅木は必死に止めると柘榴をねめつけたが、表情も変わらない柘榴にため息をついた。


「それにしても、随分手加減されていたようだったな」


「あれは深層深部にいる魔物くらいの身体能力にしていました。そんなにご希望でしたら本来の性能を見せて差し上げましょう♪」


 木葉が応援してくれなかったことに不満な柘榴は、チャンスとばかりに木葉にかっこいいところを見せたくて話を強引に進めて少し距離をとった。


「あぁん?」


 それでも勘かその闘争本能ゆえか訳が分からぬままでも、体は勝手に目の前の怪物に対して構えをとり(柘榴)を見据えた。


「それでは行きますよ。保護ー生命ー極限」


 木葉をチラチラ見ながら鮫羅木に魔術をかけてから、ボクサーのようなポーズをとる。木葉はいつもながらではあるが、柘榴の唐突な行動に嫌な予感を募らせながら慌てていた。


「あわわわ。止める。止めなきゃ。止めますん」


「ではでは、ていっ。ギャラクティカなんちゃら」


 ボッ…………ズドンッ!!!


 空気を切り裂く音がしたかと思えば鮫羅木の姿が消えて、轟音が響いた方を見ると壁から鮫羅木の下半身が生えていた。


「鮫羅木さーーーーーん!」「にいちゃーーーーーん!」


 木葉と都斗がドヤ顔をしている柘榴を無視して、鮫羅木(下半身)に向かって駆けていく。都斗は運動が苦手なのか歩くのとあまり変わらないような速度であった。


 木葉と都斗が涙目で下半身をペシペシ叩くとビクンッと大きく動いて、地面に足をつけると壁から上半身を引き抜いた。


「あれ生きてる?」「無傷っすか?」


 2人の見たままの無傷の鮫羅木は不思議そうに首を振ると次第に顔を青くして、


「オロロロロロロロォッ」


吐いた。


 ・

 ・

 ・


 ひとしきり吐いた鮫羅木は地面に座り込みまだ気持ち悪そうにしている。


 その前では柘榴が木葉に延々と説教をされていた。一連の騒動を目撃した探索者たちは柘榴の傍若無人ぶりを恐れ、戦闘訓練の時とは比べ物にならない速さを恐れ、それを正座させて説教をする小型犬にほっこりした。


「鮫羅木さん、柘榴がごめんなさい」


 一先ず説教を終えた木葉は鮫羅木に腰を直角に折り謝った。


「ああ、いや。どうやら魔術で護られていたみてぇだからな。別に構わねぇ。っつーか、いいもんが見れた。いや………見えなかった。多分殴られたんだと思うが、気づいたら壁に突っ込んでいやがった。これがあいつの本当の力か……おもしれえ。」


 そう言って鮫羅木は獰猛に笑った。吐いたのは、急なGに酔ったからというだけだったようだ。


「ふぅむ。力の差を見せつけたはずですが、これで心が折れないのですか。悪くありませんよ。先ほど話途中でありましたが、私に勝利した賞品としてあれを進呈しましょう」


 最後にそう言って地面に突き立てた板を柘榴が指さすと鮫羅木は微妙な顔になった。


「いや、おれはジョブが重槍剛士だから大剣?は使わねえんだが」


「あれ剣ではありません」


「え?」


 そもそも武器のように見えず、鈍器のようであるが、あえて言うなら大剣と思っていたがどうやら違うようであった。


「これはただのヒヒイロカネの板です。一切機能とかありませんし、板状に加工しただけの素材のままです」


 柘榴の言葉を聞き鮫羅木は耳を疑った。地球ではダンジョンが出来てから発見された金属は大まかに魔鉄とミスリルのみである。それなのに未知の金属が目の前にある。それも神話で聞くような金属が…である。


 鮫羅木はヒヒイロカネから目を離さず、柘榴に確認をする。


「いいんだな?返さねえぞ」


「はい。手加減していたとはいえ、ええ、手加減していたとはいえ貴方は勝利条件を満たしました。上位者としては褒美くらい授けてやるくらいの度量を示すべきでしょう………それに人類全体の底上げは必須のようですしね(ボソッ)」


 言い訳がましく手加減を主張しつつ自分を上げるいつもの柘榴に成り行きを見守っていた面々が白けた顔をするが、そのようなことは一切気にせず胸を張る。最後の言葉は誰にも聞かれなかったようだ。


「もっとも、挑んでくるというならこの男のように命を捨てる覚悟で来なさい」


 これに味を占めて挑んでくるような者が出ない様に、辺りを見回し釘を刺すと幾人かは目を逸らしていた。


「そんじゃ、遠慮なく貰うぜ。うおおおおっ!重っ!」


 気合を入れて持ち上げようとした鮫羅木は想定外の重さに驚き手を放す。


「そうなんすか?確かに重そうっすけど……ぐぴぃ!こ、腰が…」


 珍しいもの見たさに試してみた都斗が腰にダメージを負っていた。


「それは2トン近くありますから、腰を痛めますよ」


「「早く言えっ(す)!」」


 柘榴が後からしれっとした警告に腰を痛めた2人がツッコむ。


「まあ、現代技術なら単純な加工は出来るでしょう。マジックバッグを出しなさい。貴方達なら持っているでしょう?」


「お、おう」


 鮫羅木が腰のあたりをまさぐってマジックバッグを取り出し口を開けると、柘榴が板を持ち上げて入れる。


「ぬ、さすがに重量が増したな」


 鮫羅木の持つマジックバッグは重量軽減の効果はあるようだが、さすがに2トン近いものを入れると重みが増したようで少し顔を顰めていた。


「お話は終わりましたか?」


 いつの間にか近寄っていた鷹柳が、鮫羅木との話が終わったのを見計らってにこやかに話しかけてくる。


「ええ、彼女のことは依和那達と合流した後で聞くことにします」


「それはよかった。それではこちらをご査収ください」


 鷹柳から柘榴と鮫羅木に紙片が手渡されて見てみると請求書と書かれていた。


「あ~~~~」


「……………………」


 鷹柳の顔をよく見ると目は笑っておらず、口元はひくついていた。


 柘榴は無言で修練場を見ると、壁の鮫羅木が飛ばした礫をはじいた場所が穴だらけになっており、泥団子を飛ばしたところは泥まみれ、挙句に鮫羅木が飛ばされた場所に大穴が開いており奥まで崩れていた。


 請求書を見て停止した柘榴を不思議に思い、手元を覗き込んだ木葉は金額を見て倒れた。


「マスターーーーーッ!?」


 結局この後に柘榴が修理することで許してもらった。


ヒヒイロカネは特性として金より少し軽いというものがあります。比重的に金は鉄の約2.5倍なのでハルバートが3kgほどとすると約7kgほどなので探索者なら軽く振り回します。

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