第47話 ゴーレム、決闘(戦闘訓練)する
ご来店いただきまして誠にありがとうございます。
鷹柳に訓練所に案内される道中で、鮫羅木は柘榴に問いかける。
「なあ、俺から挑んでおいてなんだが、なんで決闘を受けてくれたんだ?初めから断ることも出来ただろうに」
「貴方が正面から来なかったからですよ」
「あん?正面から挑んだと思ったんだが?」
「それは経済封鎖、闇討ち、誘拐など全ての手段を検討して最終的に生存確率が高い手段を取っただけでしょう?」
「………バレてたのかよ。確かに検討はしたな。検討して全て俺らが壊滅する結果しか見えなかったぜ。そのおかげで、初心ってやつを思い出したんだがな。ガキの頃に見た夢だがな」
自重しながらもすっきりとした顔で話す鮫羅木に、顔を向けていつもの無表情ながらも称賛のこもった声で話す。
「それでいいのです。圧倒的格上に対して矜持や正々堂々など傲慢にもほどがあります。全てを、それこそ己の持つ能力、技術、本能、運、生への執着全てを込めてあらゆる手段を使って勝ちに行くべきです。同じ人間でも敗者には徹底的な弾圧があるのです。人間ではない相手が人の尊厳など考慮するなど期待をしないことです」
「……そうか」
「ええ、だから貴方が私に対して全てを使って挑んでくることを評価します。まあ、マスターやその周辺に手を出していたら地獄が生ぬるいと思える目にあわせていましたが」
「……………………そうか」
最後の言葉にやらなくてよかったーと思いながら、鷹柳の背を観ながら付いていき修練所に到着した。
「さて、ルールを決めていませんでしたね。戦闘訓練とは言ってもやりすぎない様にルールは必要でしょう」
鷹柳が2人に向けて話かける。
「まず、大前提として相手を殺さないこと。次に後遺症が残るような行為も禁止です。最後に大規模破壊攻撃は禁止とします。というところでどうですか?」
殆ど柘榴に向けていたが、概ね常識の範囲のルールであるので特に鮫羅木に異論はなかったが、
「ひとつ追加を。そちらのチンピラは私に1度でも攻撃を触れさせたら勝利としましょう」
あまりにも舐めたルールの追加に鮫羅木が激怒する………ことはなかった。
「なあ、お前もしかして俺の名前覚えてねえのか?」
「覚える以前に名乗られていませんが」
「……………………そうか。鮫羅木だ。鮫羅木武雄だ。覚えとけ」
鮫羅木としては柘榴を格上として挑んでいる認識があるので、舐められたところで怒りなどしない。むしろ怒りで視野を狭くするほうが悪手だ。粗暴ながらもここまで生き残り探索者の上澄みのレベルまで来れたのは、戦闘時には冷静さを保つことができるからという面もある。その分、私生活では我慢をしないのでチンピラそのものであるが。
「記憶しました。それでは始めましょうか」
それだけ言うと柘榴は宝物庫からソレを取り出した。集まってきていた観客たちがソレを見て驚愕してざわつく。
それは剣というにはあまりにも大きすーーーー
「すとーーーーっぷ!変なモノローグすんな!それ以上は拙い気がするぞ!」
「ちっ」
口でモノローグをしかけていた柘榴が舌打ちをして、取り出したソレを肩に担ぐ。
それは全長2m程幅は50cmで厚みも10cmほどもある緋色の板に持ち手がついただけの剣とも呼べない物体だった。近いものを挙げると羽根つきに使う羽子板が近いかもしれない。
その場いいる人間が皆、柘榴が人間ではないことを知っているが、若い女性に見える存在が巨大な金属の塊を片手で持っている光景に絶句していた。
「先手は譲ってあげましょう。さあ、来なさい」
板を肩に担いだまま空いた左手で手招きをすると、我を取り戻した鮫羅木が冷や汗を流しながら不敵な笑みを浮かべる。
「へっ、それじゃあ有難くいかせてもらうぜっ!」
手加減も様子見もなく、ハルバートの穂先を下段に構えたまま柘榴に向けて突撃して、柘榴の前で勢いをそのままに横手に逸れ、穂先を薙ぎ払う。
しかし、圧倒的な速さで振り回された板に体ごと弾かれる。
払われた方向に向けて跳んで衝撃を逃がしたが、手首に痺れが残っていた。
「俺が回り込んだ時にはまだ担いでいただろうがよ。技術ってわけでもなく、ただ反応しただけかよ。つまりは速さで圧倒的に負けてるってことか……。だがよ、これならどうだっ!」
鮫羅木は先ほどと同様に突撃してハルバートの間合いまで入ったところで体を沈ませ脚を狙って薙いだ。
跳んで躱した柘榴に対して、手を滑らせて石突を掴むと払いの勢いのまま回転してきた柄を掴み、石突を突き出す。
「槍技ー重撃」
刺突の威力を上げる槍のスキルを使い柘榴を狙うが、板を盾にして阻まれた。しかし、鮫羅木はそれを予測していたので、再び穂先を回転させて板の下に潜り込ませると全力で克ちあげた。
「うおらああああああああっ!」
板の重量に勢いが止まりかけたが、気合で力を込めて何とか克ちあげたおかげで柘榴は板を振り上げたような状態で宙に浮いていた。
「斧技ー速断」
穂先を強引に軌道修正すると、柘榴の胴を切り払う角度で攻撃速度を上げるスキルを使う。
「柘榴っ!」
観戦の木葉が悲鳴を上げるが、柘榴は自らの胴に迫るハルバートの斧刃の平を蹴りとばした。
「ぐおっ」
蹴られた勢いに引っ張られて体勢を崩すが2、3歩後退して持ち直すと、柘榴の方も既に構えなおしていた。
「はあっ…はあっ……はあっ」
わずかな攻防で乱れた息を整えて、動く様子のない柘榴を見据えて構える。
(何をしても反応されやがるな。クソッ!奴の速さについていけねえからといって、力で押し切ることもできねえ。なら……躱せない様にするだけだ)
「剛槍技ー剛重爆撃・破砕」
鮫羅木がその場で地面を削るようにスキルを放つと、ハルバートを受けた地面が爆発したように砕けて大小の破片がすさまじい勢いで柘榴の方に飛んでいく。
「ふんっ、小癪な真似をしますね」
スキルが放たれた時点で柘榴は前に出ており、破片の範囲が広がる前に板の腹で打ち払った。
「ぎゃああああああああああああっ!!」
打ち払われた破片の方向にいた鷹柳が悲鳴を上げながら逃げ惑う。
「気に食わないですが、良い判断です。あの位置では……後ろにマスターがいるあの位置では、私に躱すという選択は取れない」
「駆け出しにするような褒め方すんじゃねえよ。環境すべてを使って戦うなんざ探索者の基本だ」
柘榴の掛け値なしの称賛に何ともないことのように言い捨てると、楽しそうに笑う。
「では、もう少し段階を上げましょうか。ここからは私からも攻撃をしますし、魔術も使いますので」
そういうと柘榴は一足で距離を詰め板を横振りに振るう。それを屈んで躱して突きの為に踏み出したところで、遠心力に体が振られながらも柘榴の左手が自分に向いていることに気づいた。
「クソッ」
「火球ー咬牙」
獣の口のように開いた火球が放たれて、躱すことができずとっさに左手で受けた。
「ぐぁぁぁああああああああっ!!」
自分の肉が焼ける臭いに苦悶の声が漏れるが、慌てて火球を受けた手甲を外して捨てる。それでも、左腕は焼きただれて力が入らなくなっていた。
そこへ遠心力のままに板を振り回していた柘榴の追撃が左半身に直撃した。
「ぐぼあっ!!!」
とっさに受けたハルバートの柄も折れて、左腕を砕き胴体にめり込みながら振りぬかれる。
大きく吹き飛ばされた鮫羅木は幾度か地面をバウンドして止まった。
「ぐ…………ぐあ……ごぼっ」
折れた骨が内臓を傷つけたのか、喀血しながらもよろよろと立ち上がる。
「これは、ここまでにーーー「まだだっ!!」」
左腕はぐしゃぐしゃになり左半身が窪んでいるような状態の鮫羅木の負傷具合を見て止めようとする鷹柳を制して、鮫羅木はさらに闘志を燃やす。
「しかし、それ以上ダメージを受けると死んでしまうかもしれませんよ」
「死なねえよ。とりあえず一矢くらいは報いてやるって決めてんだ」
そういって精彩の欠いた足取りで柘榴に向かう。
(とは言ったものの、きっちぃなこりゃ。武器も折れちまったしな)
そして鮫羅木は最後の力を振り絞って走る。
「泥塊ー射出ー広域」
鮫羅木に向けて柘榴は魔術を放ち、無数の泥団子が鮫羅木に放たれる。
意外と痛いそれを急所だけ右手に残った柄で防御して走る。
「ここだっ!瞬足」
鮫羅木が持つ重戦士職では珍しい移動スキルを使い、柘榴の背後に回る。
柘榴が板を捨てて振り向きざまに右拳を打つその瞬間に、鮫羅木は地を蹴りその攻撃に身を晒す。
頬を打つ軌道だった拳は鮫羅木が跳んだことで着弾位置がずれる。
すなわち骨が折れ内臓まで傷ついた胴体に。
柘榴はとっさに拳を止めて、鎧を掴み放り投げた。
「ぐあっ」
放り投げられた鮫羅木は地面に仰向けに転がり、今度こそ立つことが出来ない。それどころか、気を抜けば意識が飛びそうであった。
「げほっ…だが、まあ、俺の勝ちでいいんだよな」
「ちっ。ええ、そうですね。至高の私は約束を違えませんので……だいたいは」
鮫羅木は拳を止めた瞬間にハルバートの柄を柘榴の肩口に当てていた。もちろんダメージなどは皆無であるが、一撃を入れるという勝利条件は達成していた。
探索者たちが固唾をのんで観ていた為、静まり返っていた修練場ではその会話もよく聞こえた。
そして、鷹柳が勝者を発表すると、修練場が割れんばかりの歓声が上がった。
かませ犬ムーブを出して手を抜いた挙句にしっかりと負ける主人公。
黒龍の牙は藤堂のせいで悪徳ギルドそのもので、鮫羅木本人はチンピラなのに主人公感出してるし。
最後の魔術が泥団子なのは石などにすると生命に関わるからですが、善意とかではなくルールだからという理由。




