第34話 ゴーレム、第1村人を連れ帰る
ご来店いただき誠にありがとうございます。
結晶に包まれる人ーーー推定エルフーーーを見た木葉と依和那は興奮が止まらず、不用心に結晶に駆け寄るが、柘榴はエルフを見てため息を吐いた。
「ハズレですね。Rです。帰りましょうか」
「ちょ、ちょ、ちょっとっ!?」
「柘榴!?エルフさんだよ!?」
がっかりした感を出して引き返そうとする柘榴を、2人が慌てて引き留める。
「ただのエルフですね。大したものでもありませんし、売りますか?」
「人・身・売・買!?」
「売らないわよっ!ちょっと待ってってば!」
柘榴のテンションの低さに疑問に思いながらも、こんなところに放置していくのはこのエルフ?が気の毒だと思い必死に柘榴を引き留める。
「えー」
「他の人に発見されたら解剖とかされちゃうかもだし、ずっとこんなとこに1人でいて可哀そうだよ。エルフさんの様式は知らないけどせめて埋葬してあげようよ」
「………ああ、死んでいると思っているのですか。いいですね。それでは埋葬してしまいましょうか」
木葉は途端に乗り気になった柘榴を奇妙に思い、その言葉を思い返してみた。
「………もしかして、このエルフさん生きてるの?なんか琥珀化石みたいだし、亡くなっているのかと思ったんだけど」
「ぶっふーーっ、いいですね。そういうことにして、すぐ隠滅しましょう」
化石扱いに噴き出した柘榴は勢いに任せて隠滅を図る方に持っていこうとするが、柘榴の外付け良心がそんなことを許すはずもない。
「そんなこと駄目だよ。なんで、そんなに助けるのを嫌がるの!?」
心の中では外付け良心の意見に賛同したいと思っているが、なんとなく柘榴の考えが理解できた依和那はさすがに害そうとしない限りはと思って、黙って成り行きをを見守っていた。しかし、木葉が強情で埒が明かなそうなので口を挟むことにする。
「柘榴が心配しているのは、たぶんエルフなんて存在を連れて行って、その後が平穏に治まることはないだろうってことじゃないかな?多分すっごく大騒ぎになると思うよ。その時、木葉はそのヒトを周囲の悪意や好奇心から守れるの?」
「そ、それは………柘榴の時も大丈夫だったし」
「柘榴は自分で自分を守れるからでしょ。でも、そのヒトはそうじゃないかもしれない。そうしたら少なくとも全て人間の思惑の中で生きなくちゃいけなくなっちゃうよ」
「でも……でも……!」
(なんだか捨て猫を連れて帰ったら返してきなさいって叱られてる子供と母親みたいですね)
反論の言葉を持たないが、それでも感情が納得しない木葉が必死に反論を探すが、どう考えても依和那の予想の方に近いことが起きるだろう。
「私は単にマッパであざといポーズしているような痴女を持ち帰りたくなかっただけですが」
「柘榴は黙ってて」
7割ほどの本心を吐露したがピシャリと封じられてしまった。2割ほどは確かに連れ帰った時の騒動で木葉が傷つくのでないかと心配していたが……。残り1割はどこかに旅に出た。
それからも訴える相手を柘榴から依和那に代えて、木葉はエルフを助けることを主張する。
延々と続きそうな議論に柘榴はどうしたものかと考え、そういえばと木葉について考察をした。
「だからっーーーー」
「分からずやっーーーー」
「ふむ、いいでしょう」
すでにただの喧嘩になりつつある議論に今度は柘榴が口を挟むと、2人の視線が集まった。
「柘榴?」
依和那が本当にいいのという意思を込めて柘榴の名を呼ぶと、しかと頷いてみせる。
「まだ2例だけですが、おそらくマスターには異界の存在を感じとる能力があるのかもしれません。ただし、ダンジョンに取り込まれていない存在に限るのでしょうが」
「!!柘榴とそのエルフを木葉が感知したってこと?」
依和那の問いに柘榴が頷く。
「ですので、より多くのダンジョンを周ってコレのような存在を見つけましょう。そうすればコレも多少は珍しくなくなるでしょう。それにしてもまさか、生命を封印することで世界の崩壊を乗り越えるとは、中々面白いことを考えたものです。誰かに見つけられなければ永遠にこのままでしょうに」
「封印……?」
木葉が自分の無自覚な能力を教えられて茫然としていたが、エルフの状態にかかわるワードが出て反応を示す。
「はい、そうです。そろそろいい時間ですので、決めたらさっさと封印を解いて宿へ行きましょう。夕食に遅れてしまいますよ。どうしますか?」
「もちろん、助けるよ。柘榴、お願い」
勢い込んで願う木葉に、諦めたように肩をすくめた依和那は柘榴に1つだけ質問する。
「はぁ、ホントこういう時は強情なんだから。柘榴、他の異世界人は本当にいると思うの?」
「確実とは言えませんが、こうして生き延びる方法があるのであれば、生き汚い人類の事です。こうした封印という手もあれば、他の方法でも生存している者がいるのではないですか?」
「生き汚いって……」
依和那が何とも言えない顔をするが、生命が生きようとすることは特に不思議な事ではないので、その中でも諦めなかった者は生存の目があるかもしれない。柘榴は自らが存在する世界の滅びへも抗う生命への執着に感心もしていた。
ともかく、決めてしまえば後は実行するだけなので、素早く封印されたエルフに近づいて前に立った。
「解放ー封印ー解除ー始動」
柘榴が魔術を使い、閉鎖と停止の封印を解いていく。その効果はすぐさま表れ、琥珀のような結晶がガラスの様に砕け空中に消えていき、中のエルフが解き放たれて落下してくる。
それを見ていてなんだか嫌な予感がした木葉が走り寄ると、案の定落ちるままに任せて柘榴が手を出そうとしないのでさらに加速して下に滑り込んで木葉がエルフを受け止める。
「むぎゅっ」
エルフの下敷きになって木葉は変な声を漏らすが、何とか間に合ってほっとした。
「おや、メスですね」
封印から解かれたエルフは外見中学生くらいの金髪でスレンダーで美形というテンプレな容姿をしていた。
「そろそろ野生動物扱いはやめてあげなさい。もしかして異世界ではエルフたちって人扱いされてなかったりするの?」
助けることを決めたのであれば、本心では助けたいと思っていた依和那はきちんと保護対象としての扱いをすると決めている。
なので、未だにエルフを人扱いをしないことを窘め、よくある物語みたいに亜人差別などがあったのか尋ねた。
「それは世界ごとの情勢によるのではないでしょうか。そういう所もあるかもしれませんね。しかしっ!この至高の私に掛かればすべて等しく下ですっ!」
「あ……そう」
柘榴が天を仰ぐようなポーズで答えるのを聞いて依和那は虚無顔になった。
「遊んでないで何か着るものをちょうだいよ~」
木葉とエルフを挟んでのやり取りに焦れた木葉が叫ぶと、柘榴に頭と腕の所だけ穴をあけたズタ袋を渡された。
主の頼みなので一応助けはするが、主に有用かどうかが未知数で今のところは害しかない為、好意的に接する必要性を見いだせず十把一絡げに対する扱いとしていた。
「これは……さすがに子供みたいな見た目の子をこんな格好させて担いでいたらおまわりさんに捕まっちゃうよ」
柘榴取扱免許仮免の木葉が(あ、基本スタンスの柘榴だ)と気づき、情ではなく世間一般の常識で説得をする。木葉としては柘榴に思いやりを持ってほしいのだが、良心回路のないキカ○ダーのような相手に日々悪戦苦闘しているところで、努力はまだ実ってはいない。
仕方なしに適当なワンピースを取り出して着せる。周りでこれだけ騒いでも目を覚まさないほど深い眠りに入っているようだ。
「さてと、遅くなっちゃったから急いでもどろ。もう怖い方法はヤだからね。ね!」
「ハ、ハイカシコマリマシタ」
主の圧に屈してこくこくと頷き、竹とんぼのようなものを取り出した。
「ふんっ!!」
しかし、すぐに木葉に叩き落されてしまった。
「柘榴、危険なものを出さないで。真面目にやって」
「ハ、ハイカシコマリマシタ」
先ほどより圧が増して、汗をかかないはずなのに冷汗をかいている心地になった柘榴は今度こそはとそりを出した。
「そり?」
「はい。赤い服を着たジジイが乗っていた空飛ぶそりです。倒して手に入れました」
「サンタクロース!?倒しちゃったの!?良い子の皆が泣いちゃうよ!?っていうかホントにいたの!?」
「はあ。返り血塗れで斧を両手に村々を襲っていて虐殺していたのですが、良い子というのは変わったものが好きなのですね」
「それはファンタジーな通り魔だよ!紛らわしい言い方しないで!」
ツッコミ疲れて息を切らす木葉と、苦笑しながらエルフを抱いた依和那が乗ったことを確認した柘榴は血塗れ爺のそり(仮)を発進させてダンジョンの入口まで一気に飛んで行った。
世界が崩壊すると物理的にも概念的にも死亡するので、何らかの方法で回避しない限りは崩壊の瞬間に消滅します。
封印が世界のダンジョン化したエリア以外にあったら、封印もろとも消滅していたので運があったという事になります。




