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第32話 ゴーレム、カメラを止めない

ご来店いただき誠にありがとうございます。

 松本ダンジョンに入場すると、そこはギルドの外と同じような景色ーーー山であった。


 松本ダンジョンはフィールドダンジョンで、構造は単純に山頂が最深部となっているが、このダンジョンの厄介なところは階層の変化が分かりにくいところで、うっかりと自分の実力を越える階層に入ってしまい未帰還になるといった事故も発生している。


 名古屋のダンジョンは2つとも洞窟型となっており、木葉と依和那はフィールド型は初体験であるので少し緊張を滲ませながら周囲を見回していた。


「ふわー、名古屋のダンジョンとは全然違うんだねぇ」


「あ、一応道みたいなのはあるんだ」


「その道は中層エリアくらいまでのようですね。そこから先は道なき道というやつらしいですよ」


 木葉達が入場の手続きをしているときに買った松本ダンジョンの情報を見ながら柘榴が依和那の独り言に答えを返す。配信者の動画である程度情報を得ていたが、目的がある時にはギルドで買った方が手っ取り早いため今回は購入の許可を木葉から貰っていた。因みに柘榴は基本的に自分の現金を持っていないので、何かを購入するときは咲乃家から財布を預かるか物々交換である。


「ウィス草の情報は無いようですが、以前見た動画に映っていたのでここにはあるはずです。一先ず、トレントを目指して道沿いに行きましょうか」


「分かったよ。それにしても障害物が多いから索敵や罠の察知も勝手が違いそうだね」


「ええ、ですので今日は慣れるために上層をゆっくり進むことを推奨しますよ。クラフトソーサリーを使用した戦闘も試していただきたいですし」


 少し尻込みしている木葉に焦らないようにと言うと柘榴は宙を浮かぶ板と大型のカメラを取り出して、板に乗りカメラを構えて自在なカメラワークをしていた。柘榴は生物ではないので身体の固定が自力で出来るため固定台などは不要なのだ。


「な、なんか思ったよりガチなんだけど……」


 空中を自在に動きながら様々なカットを試していたが、ふと失念していたことを思い出し木葉達の前に降りてきた。


「こちらを渡すのを忘れていました」


 そういうと柘榴は2人にベルトに着けられる手のひらサイズのポーチを差し出した。


 ボタンをはずしてカバーを開けると中は5つの部屋になっており、それぞれが斜めに倒せるようになっていた。そして、それぞれの部屋に色の違うクラフトソーサリーが入っていた。


「わあ。使うカードを取り出しやすい仕掛けがしてあるんだね」


「これならカードの配置を覚えておけば、ポーチを見なくても取り出せるわね」


 2人が礼を言って腰にポーチを装着して準備を整えると、中身の説明をして柘榴は再び空中に戻っていった。


「うーん、ここまで来ておいて今更だけど、本当に撮影するの?」


「何を今更、ギルド側も賛成していたではないですか。2人とも美少女なのですから映えますよ」


「えへへ、そうかな~」


「素直に褒められると嬉しいわね」


 ストレートに褒められて木葉と依和那は照れて頬を赤くしてそっぽを向いたところで、


「私ほどではありませんが」


 いつものヤツであった。今日も柘榴の自己肯定感は絶好調だ。


「ぬあっ、柘榴の元はデッサン人形じゃん」


「このっ、100%造り物のくせにぃ。降りてきなさいーいっ」


「シンプルなラインに機能的な姿。元の私も至高に美しいですよ」


 上げて落とされた2人が非難の声を上げるが、もちろんどこ吹く風である。


「さて、戯れていないで遅くなる前に進みますよ」


「誰のせいだよぉ~~」


 不満そうな主達を無視して、先を促して進ませる。


 渋々上層エリアを進みだすと、やはり洞窟型とは勝手が違うためところどころでミスがあるが、上層エリアでは危機に陥る程の魔物も罠もないので、西田中から教わった基本を思い出しながら慎重に進んでいく。


 見通しが悪いながらも注意深く観察しながら進んでいくが、ふと足を止めて依和那にハンドサインを送り身を隠させる。


 上層エリアはダンジョンバインやウォークウィードといった植物の魔物がうろついており、今まさに10体ばかりの集団でいるのを発見した。


「ちょうどいいからアレでクラフトソーサリーを試してみたいと思うんだけどどうかな?」


「そうね。奥に行く前に一度試してみましょうか。木葉、今持っているのは戻しましょうか」


「え?」


「赤のカードは火魔術でしょう!山火事起こす気なの?」


 依和那に指摘されて気づいた木葉は慌てて、風魔術のカードを取り出す。今回用意されているクラフトソーサリーは火と風の刃と障壁、虫よけに浄化なので攻撃に使えるものは火と風しかない。


 同じ属性でも木葉と依和那のものは効果が違うものが供与されており、木葉の火は火炎放射で風は刃を飛ばすものとなっている。


「起動」


 気を取り直して改めて、木葉がクラフトソーサリーを魔物の集団に投擲して発動させると、風の刃が魔物達を斬り裂き2,3体ほどをまとめて倒していた。


「起動」


 不意打ちを受けて慌てる魔物達に走り寄り依和那は火のカードを使い、剣に火を付与して魔物を焼き切っていく。火の付与は炎が噴き出るものではなく、刃が赤熱して熱量を蓄える効果なので、ダンジョンの植物なら枯れ木でなければそこまで火事の心配もしなくていい。


 元々格下であるので、数がいるといっても今の2人ならすぐに全滅させることが出来た。


「おつかれ~。やっぱり遠距離で範囲攻撃できると便利だね。使い方もそれほど難しくないのがいいね」


「お疲れ様。そうね、わたしの方も風以外の属性が使えるなんて、少し前まで考えてもいなかったわ」


 戦闘を終えて各々クラフトソーサリーの使用感を述べる。おおよそ好感触のようであった。


 そのまま2人はさらに奥へと進んで行くと何となく場の雰囲気が変わり、川が見えてきた。


「ちょうどいいからここで少し休憩しましょうか。木葉、川には魔物がいるから近づいては駄目よ」


「分かったよ。おーい。柘榴もおりてきて。休憩にしよー」


 2人が川原に降りながら柘榴に呼びかけると、柘榴がスーッと寄ってくる。


「ちょうどいいので、ここで複合魔術を使ってみましょう。これから私が魔物をおびき寄せますので、アレを使ってみてください」


「ああ、なるほどね。分かったわ」


 返事を聞いた柘榴は川の方に飛んでいき、川を眺めてあたりをつけると徐に魔術を放つ。


「投射ー礫弾」


 大粒の岩が川に着弾して大きな水しぶきが上がり、しぶきが落ちる前に川の中から何かが飛び出してきた。


「ワニッ!?松本ってワニがいるの?」


 飛び出してきたランドモササウルスに驚きながらも、成長した木葉はカードをきちんとカードを構える。ランドモササウルスーーー陸のモササウルスーーーワニで良くないかという評判である。


「「起動」」


 木葉の火炎放射を依和那の風が巻き込み炎の竜巻を作り出してワニを飲み込んだ。


「GYAAAAAAAAAAAAA!」


 炎に飲み込まれたワニが悲鳴を上げるが、やがてか細くなり途絶えたところで炎が消えた。


 後には丸焦げのワニだったものが現れ、直に消えてドロップアイテムの皮だけが残された。


「うわ………」


「すご………」


 自分たちの起こした事象が思っていたよりも、強力であったことに茫然としていたがダンジョンでは大きな隙となる。


 草むらからウォークウィードが飛び出してきていたのに気づくの遅れて、依和那は体当たりを受けて弾き飛ばされていた。


「あぐっ」


「依和那ちゃんっ!起動!」


 大したダメージにはなっていないが倒れたところに、ウォークウィードが追撃の体当たりを仕掛けていたので、木葉が障壁のカードを使って体当たりを防いだ。


「ありがとっ!はあぁぁっl」


 弾かれたウォークウィードを依和那が急いで体勢を立て直して切り捨てた。


「ふぅっ。油断したわ」


「あたしもだよ。ごめんね依和那ちゃん、索敵はあたしの役目なのに」


 ウォークウィードだから転んだ時の擦り傷ぐらいで済んだが、もう少し強い魔物であったら大怪我をしていたかもしれないので、斥候の木葉はしょんぼりしていた。


「いいわよ、わたしも油断してたんだから。次は気をつけましょう。それより、柘榴なら気づいていたんじゃないの?」


 柘榴が手を出さなかったのだから大したことにならないという事だろうとは思ったが、一言モノ申したかったのでジト目で柘榴に話しかける。


「弱い敵で油断するとどうなるかが経験できて、よかったではないですか。危ない相手ならきちんと助けましたよ」


 依和那に非難されて降りてきた柘榴がいけしゃあしゃあとのたまった。


「そうだとは思ったけどね。なんか納得いかないなぁ」


 依和那と柘榴がそんなやり取りをしている間、木葉はダンジョンの奥の方をぼんやり見ていた。


「マスター、どうかしましたか?」


 そんな木葉の様子に気づいた柘榴が問いかけると、はっとした木葉が首を振り柘榴たちに意識を戻す。


「何でもないよ。ただ、あっちの方が気になって………」


 そういうとぼんやり見ていた方を指さした。柘榴は木葉と指をさされた方を見てしばらく思案していたが、やがて結論を出す。


「マスター。予定を変更して、マスターが気になった方に行ってみましょう」


「ええっ、なんとなく気になっただけだよ!?」


「少し確かめたいことがあります。依和那もよろしいですか?」


「わたしはいいけど……」


「それでは、マスターの気になった場所に案内してください」


「う、うん。分かったよ。その前に休憩しよ。さすがに疲れたよ」


「すみません、そうでしたね。すぐにご用意します」


 木葉の言葉に気が急いていたことに気づいた柘榴はいつのも休憩セットをすぐ用意した。


(マスターの勘は私の隠し部屋を見つけました。この『何となく』の結果を確認した方がよさそうですね)


 木葉達の世話を焼きながら、柘榴はそんなことを考えていた。


ギリギリ書きあがりました。

モンスターの名前を考えるのが大変ですね。

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