第30話 ゴーレム、焼餅を焼く
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木葉達が世界初のダンジョン攻略をしてから3か月が経った。
名古屋第2ダンジョンを攻略してから木葉達はバリバリ各地のダンジョンを攻略していた………という事もなく、週末に名古屋第2ダンジョンか名古屋第1ダンジョンで探索をしていた。
木葉と依和那は専業の探索者ではなくまだ学生なので時間に制約があることと、2人と同程度の能力に合わせた柘榴の3人では実力が不足している為、パーティメンバーを探しつつ経験を重ねているところである。
パーティメンバーは募集はしていないのに自薦も他薦も殺到したが、柘榴狙いの者を締めだすと殆ど残りはなく、残りの者も新しい中級魔術公開というプレッシャーに耐えられず結局メンバーは増えていない。
そのため未だ中層を攻略は出来ておらず、中層の中程までが木葉達の最前線であった。
しかし、日頃の基礎鍛錬とレベルアップ、そして柘榴が見た他の探索者達の技術を教えて2人は着実に実力を上げていた。探索者のランクも木葉がE級に上がっていた。依和那はレベルが50になればC級昇格試験を受けることが出来る。
そんな2人であるが、今日は迫る期末テストの為、木葉の家で試験勉強をしていた。
カリカリカリカリ……トントントン…カリカリカリ……トントン…カリ…ゴシゴシ
2人ともリビングで黙々と勉強していた。一時期は勉強をすることに意義を見出せなくて成績が低迷していた木葉であるが柘榴に勉強をすることの理由を教えられてからは、きちんと基礎鍛錬の一環として勉強と向き合い、依和那と柘榴から教わり中間試験ではかなり持ち直していた。依和那も木葉のついでとして柘榴から教わり、元々優秀であったが全国でも競えるレベルになっていた。
やがて勉強をしていた木葉の集中力が切れた時に、柘榴がトレイに飲み物を乗せて部屋に入ってきた。
「マスター、依和那、一度休憩にいたしましょう」
そう言うと柘榴は2人の前にコップとお菓子を置く。
「ありがとう、柘榴。もぐもぐ」
「ありがと、柘榴。仄かな酸味とあっさりとした甘みでこのジュース美味しいわね。なんのジュースなの?」
早速お菓子を食べ始める木葉を微笑ましそうに見ながらジュースを一口飲んで今まで経験したことのない味に目を見張り、柘榴に尋ねる。
「ポケケチガヂットという魔物の果汁です」
柘榴はそう言うと柘榴アイでみか○星人のようなポケケチガヂットを映す。
「ブーーーーーーーッ」
「ニギャアッ!目がっ、目が~~!」
飲み物の正体を聞いて、依和那が吹きだして正面の木葉に直撃した。目に入った木葉は某大佐のごとく悶絶している。
「ゴホッ、ゴホッ、貴女ねぇ、よく分からないモノ飲ませないでよ」
「とある世界のどこかの国の王族御用達ですが。口に合いませんでしたか?」
「とある世界って………。美味しかったけど、美味しかったけどぉ~」
さらっとこの世界ではない場所の宮廷料理で出るようなものを出されて、美味しかったけどいまいち納得できないが、反論も出来ない依和那はむっつりしながらジュースを飲む。
「それでは休憩がてら探索の作戦会議と致します」
そんな依和那や、まだ悶絶している木葉をスルーして柘榴が唐突に宣言する。
「作戦会議?急にどうしたのよ」
「最近マスターは西田中から教わった技術を伸ばして、それなりに頼もしくなってきました。………しかしっ!今マスターを戦術を構成するものは西田中から教わったものばかりなのです。それはすなわち、マスターがおっさん色に染められているという事です!これは事案ですよ」
クワッと目を見開き力説する柘榴を依和那は冷めた目で見ていた。
「西田中さんはあんたが手配したんでしょうが。ふぅん………つまりは、焼餅ってことね」
「焼餅ではありません」速攻で否定した。
無表情の柘榴を依和那はニヤニヤしながら眺めて、復活した木葉は不思議そうに2人の様子を見ていた。
「ふぅ、どうやら依和那は勘違いしているようです。これは決してズルいとか思ってではありません。小型犬のようなマスターがくたびれた老犬のようなのようなおっさんに影響されてくたびれた小型犬になってはいけないと思ってーーー」
「むっ、西田中さんは頼りがいあるし、いい人だよ。そんな風に言っちゃだめだよ」
「むきぃっ!」
やたら早口で言い訳する柘榴に木葉が追い打ちをかけると猿の様に発狂した。
依和那は普段は振り回す側の柘榴が振り回されているのをつまみに、異世界王族御用達のジュースをちびちび飲んでいた。
一通りドタバタとして落ち着いた柘榴は、改めて2人に向き直るとスカートから数枚の幾何学模様が描かれたカードを取り出してテーブルに置いた。
「本題から逸れましたが、そろそろマスターと依和那に魔術と魔道具を取り入れた戦術を組んでいただこうかと思いまして」
「いきなり脱線したのは柘榴じゃないかしら?」
「これって、天使に使ってたヤツだよね」
「ええ、これはクラフトソーサリーと言いまして魔力を込めてキーワードを唱えるだけで封入された魔術が使用できます」
柘榴が白色のカードを1枚を選んで手渡すと木葉がそれをまじまじと眺め、横から依和那も観察する。
「それではマスター、それに魔力を込めてください」
「分かったよ」
木葉は了承すると、この3ヵ月で覚えた魔力操作でカードに魔力を込める。
「これでいいの?」
「ええ、十分です。それでは『起動』」
「へ?えええええぇっ!」
唐突に起動させられて驚いた木葉は驚いてわたわたとカードを遠ざけようとするが、遠ざけるより早くカードに込められた魔術が発動する。
きゅっと目を瞑った木葉はいつまでたっても衝撃が来ない……どころか、なんだかすっきりした気がして恐る恐るめを開けると、いつも通りで特に荒れていない室内であった。
「あれ?」
「今のカードは込めた魔術は浄化ですから、体がすっきりしたのではありませんか」
キョトンとした木葉に柘榴が得意げに語ると、揶揄われたことに気づいた木葉の頬が膨らむ。
「それで、これを私たちに使わせてくれるってことよね。最近の訓練にトランプを投げるメニューを入れたのもこれの為でしょ」
またいつものが始まったと言わんばかりに、じゃれ合いをスルーして依和那が尋ねる。
「はい。次の探索で実戦で使いこなせるか試してみましょう。使えるようなら手札をかなり増やせることでしょう」
「そうね。早く中層を突破しなきゃいけないし、強くなれるなら有難いわね」
「うんそうだよね。早くしないとね」
意気込む依和那に木葉が同調するが、それを聞いた柘榴が少し渋い顔になったことに2人は気づく。
「柘榴はあたしたちが強くなると嬉しくないの?」
「………至高の私に相応しい主になって欲しいのは確かですが、マスターと依和那が人の未来なんかを背負い込んで急いで強くなる必要はないと思いますよ」
「でもーーー」
「そもそもこの世界の者が使うことが出来る技術であるならば、本来はこの世界の者が見出し進歩させるのが正道です」
使命感で動こうとしている木葉と依和那に、柘榴は正道を語り釘を刺す。
「そのあたりは鷹柳や剱崎なら分かっていると思いますが、エゴの存在があることによって時間的猶予がないかもしれないという状況ですので近道に頼っているのです」
「そうかもしれないけど………」
それでも言いつのる木葉達にため息をひとつ吐き、置いてあったタブレットを手に取りある画面を開いて2人に見せる。
「これを見てください。初級講座がまだ半年先まで埋まっています。受けることが出来た者もまだ初級を使いこなせていないでしょうし、今中級を出しても、まだ取り掛かれないと思いますよ?」
「「あ!」」
よく考えれば誰よりも早く教えてもらっている自分たちも、まだ魔力感知と操作を覚えて何とか身体強化が使えるようになった程度であった。よっぽど才能のあるものでなければ、まだ初級を学んでいるところであろう。
もっとも魔力感知と操作の部分が一番大変なので、そこを越えれば適性の方向はあれど、ある程度まではスムーズに進めることはできるだろうが。
「確かにそうだね。ダンジョンの事を聞いてから、あたしにも何かできないかって焦ってたんだ」
「それはわたしもね」
柘榴に諭されてしょんぼりしてしまった2人に、自身はあまりその心を理解できないが2人の性格上そういうこともあるかと理解し、それならばと役割を与えてみることにする。
「このクラフトソーサリーはギルドで販売することになっているのですが、プロモーション映像用にマスター達がこれを使って戦っているところの動画を撮りましょう」
「「ゑ?」」
なんだか思っていたのと違う方向の話になって2人の目は点になった。
トレイとトイレを3回打ち間違えた。




