第3話 ゴーレム、名前を与えられる
ご来店いただき誠にありがとうございます。
「ゴーレムぅ!?え、え、全然ゴーレムとか、え、ゴーレムって岩とか鉄とかで、お姉さんみたいな綺麗な人が……あ、でもあのお人形の姿だったなら納得できるかも?」
褒められてドヤったり、人形といわれて不満の目を向けたり忙しくしながら、そういえばとばかりにスマホを取り出し木葉に返す。
「お借りしました。これで現代の情報を集め、至高の私にふさわしい姿をとっているのです。さあ、納得していなくても納得しなさい。マスターあなたにはするべき重大な使命があります」
メイドの言葉に木葉は、愛読している小説サイトであるような展開を想像し、主人公のような活躍や乗り越える困難を思い浮かべ顔を百面相させる。
木葉の想像が青いタヌキが出した蕪を割って出てきたカレーを食べてるあたりで、勿体ぶって溜めていたメイドが木葉を指さし告げる。
「マスターの使命とはずばり!至高の私にふさわしい、最高の名前を付けることです!」
ババーーンと告げるメイドに、肩透かしを食らった木葉は呆けるが、その様子を見たメイドが憤慨する。呆けている木葉は、直前に想像していた言葉がするりと出てしまった。
「ーーーカレーは?」
「この下等生物は至高の私の名前が、排泄物とすら形容される料理の名前だというのですか!?」
「カレー馬鹿にすんなゴラぁ!」
「ひぃっ」
直前の妄想から思わずカレーの名前を言ってしまったが、メイドに貶されてヤンキーのごとくキレてしまった。あまり、生活が豊かでない木葉にとって、カレーはごちそうなのだ。
穏やかな木葉が唐突にキレ散らかしたことで、油断していたメイドは思わず悲鳴を上げた。
「こほん。カレーを貶したことは百歩譲って、訂正してあげなくもありません」
まったく、謝罪になっていないことをほざきつつメイドは続ける。
「マスターが私を汚した時にマスターの魔力紋が登録されて、貴女ははマスターとなりました。これは魔術契約であり、最後の仕上が命名です。----ですので、至高の私に相応しい最高の名前を付けてください。さあ、さあ」
木葉は内心(言い方ぁ~)と思いながら、出会ってまだわずかな時間ながら珍しいメイドの真面目な姿に真剣に名前を考え始める。
「ぎん、たま、ぽち、ハチ、めがね、、、、市松、ドラ○もん、赤べこ、ゴレ子、、、」
はじめは期待した目で見ていたメイドだが、木葉のつぶやきを聞くにつれ絶望の顔になっていき、やがて死んだ目で見続けていた。
「、、、、、柘榴」
死んだ目になっていたメイドはその名が出たときに、くわッと目を開き叫ぶ。
「柘榴で!凡庸な名ではありますが、及第点を差し上げます。ですので柘榴でお願いします」
必死に、しかし上から目線を忘れずにメイドは木葉に訴える。
そんなメイドの様子に気づかずに、木葉はのほほんと話す。
「そっか。ドラ○もんもいいかと思うんだけど」
「よりによってそれですか!危険な名前を出さないでください!この至高の私のどこにタヌキ要素があるのですか」
「それもそうだね~。柘榴はお姉さんの目の色が綺麗だったから思いついたんだよ」
唯我独尊なメイドを焦らせるという偉業を成し遂げた木葉に向き直り、メイドーーー柘榴は宣言する。
「私の名は柘榴。御身より授けられたこの名を刻み、御身をマスターと認め、御身と共にありましょう」
膝を突き頭を垂れた柘榴と、そんな柘榴を見つめている木葉の額に一瞬花のような文様が浮かび消えた。
文様が消えると柘榴は余韻などなく立ち上がり、木葉に向けて言い放つ。
「形式上、これでマスターとの間に契約は結ばれました。……が、マスターのような下等生物様が至高の私の主となるなど相応しくありません」
「うん、そうだよね……」
しょんぼりした木葉を見て、一瞬口元が動きかけるが、一瞬目を閉じ言葉を続ける。
ゴーレムの特性として契約を行うと契約者が主、ゴーレムが従となる。それによる擬似人格回路への影響は柘榴にも発生している。なんと下等生物<様>と呼ぶようになっているのだ。ほとんど変わっていない気がするが……。
「ええ、そうです。容姿と私に絶対服従な性格は認めてあげることもやぶさかではありませんが、ーーーー」
「え、絶対服従ってなに……」
調子に乗ってしゃべっている柘榴は、木葉の突っ込みをスルーする。
「----しかしながら、知性と戦闘能力においては落第しすぎていて、地獄に落ちています」
「え、そこまで……たしかに、学校の成績も赤点ぎりぎりだけど」
あんまりな評価にショックを受ける木葉の様子もスルーする。
因みにであるが、木葉の成績に関しては情報収集時に確認済みである。
「ですので、この至高の私に相応しいマスターになれるように調k……調教してあげましょう」
「言い直してないっ!?」
調教されることが(勝手に)決定した木葉が茫然としている、横で柘榴がスカートの中から片眼鏡を取り出し装着する。
「わー。柘榴、よく似合ってるよ。かっこいい」
木葉の素直な誉め言葉に、少し顔を赤くしつつツンとして「当然です」と返す。意外と表情豊かなゴーレムである。
「では、この鑑定眼鏡でマスターの能力を調べて、育成方針を考えましょう」
そう言い、木葉を鑑定した結果をまたもスカートから取り出した紙に記入する。
咲乃木葉
16歳
クラス:斥候
レベル:5
魔力:13
スキル:生存本能 生活魔法
従魔:柘榴
《生存本能》生命の危機に陥った時に最適な行動を取りやすくなる。
その結果に柘榴は何かを我慢するように口を噛みしめ…我慢するように、
「戦闘力たったの5か、ゴミめ」
我慢できなかった。
「ひどいっ!?しょうがないじゃない。ダンジョンは16歳からだから、まだ半年しか潜っていないんだよ」
「ダンジョンに入場して、おおよそ1か月位でレベル10程度にはなるのが平均のようですが?」
「はうっ」
言いつのる木葉に、柘榴が容赦なく指摘すると木葉は膝から崩れ落ちた。
「ですが安心してください、この至高の私は育成も至高。そのための資料は閲覧しており、既に教育方針は策定しております。雑魚マスターでも立派な兵士になることでしょう」
その言葉に、木葉は兵士?と思いながら希望に目を輝かせ柘榴を見ると、自信たっぷりの顔でうなずく。このメイドはいつも自信満々であるが。
「では、、、、今からは話しかけられた時だけ口を開きなさい。口からク○をt--」
「ちょっと待って柘榴」
セリフを途中でさえぎられた柘榴は、不満の表情で木葉を見る。
「あの、ね。柘榴が見た資料って何かな?」
「フルメ○ルジャ○ットです。これは最高の教本と一部界隈で評判です」
「それは特殊な界隈だけだよねっ!?」
木葉の必死の説得に柘榴も反論するが、死にかけた時よりも必死な姿にドン引きして海兵隊式訓練をあきらめることにした。木葉の愛読書の中に海兵隊式訓練の話もあるので、自分がされるとなると必死にもなる。
「ふう。私の完璧なプランがとん挫するとは、マスターの腰抜けっぷりには脱帽です」
「もうそれでいいよ……」
「それでは、代案として魔力操作から始めましょう。普通過ぎて詰まりませんが……」
「普通でいいよ!普通最高!ーーーでも、魔力って魔法を使うときに使うものでしょう」
世間の常識を述べる木葉に、無駄に芝居ぶってやれやれといわんばかりの仕草をする。
「これだから下等生物様は、困ったものですね。魔法などという原始時代の技術を使っているとは。いいですか、魔法は魔法スキルという型に材料となる魔力を流し込むだけのもの。形は常に同じです。しかし、魔術は望む形に魔力を造形する技術です。このように、魔法なら火球を飛ばすことしかできなくても、魔術ならこのようなことができます。火球ー咬牙」
そう言って柘榴が魔術を発動すると、炎の球は上下に裂け、噛みつくように目標を燃やす。
それを見る木葉の目は、驚きと期待に満ちていた。
「すごい!すごいよ柘榴。てっきり口が悪くて性格も悪いナルシストなだけかと思っていたよ」
「やっぱり、海兵隊式にした方がよろしいでしょうか」
木葉の散々な評価(間違っていない)に、据わった目で真剣に検討を始めた。
それを聞いた木葉は慌てて話を逸らそうと試みる。
「だけど、あたしは一応前衛職だからあまり必要なくない?」
「もう少し知恵を使って戦術を考えてください。といいたいところですがマスターはアレですから、知性も今後は鍛えていくとして……。でしたら、こういった魔術はいかがですか?」
そういって、スカートからリンゴを取り出した柘榴はそれを木葉に持たせ、その腕に魔術を使う。
「強化ー腕力。さあマスター、リンゴを握ってください」
そう言うと柘榴は、木葉の後ろに下がる。
「え?うん。分かったよ。----ぶえっ」
木葉がリンゴを持つ手に力を入れると、リンゴが握りつぶされ、果汁が飛び散り木葉はまともに汁を浴びた。
しかし、それを予測していた柘榴は、ちゃっかり木葉を盾にしていたため無傷であった。
柘榴は自身が創造主メイアリスの宝物庫であり、番人です。
自らの内にある異空間より収められた物品を取り出せます。つまりはドラ○もん。
自身の体が出入口となるので、やろうと思えば頭のてっぺんでも口からでも出せます。
今話と矛盾があったので、前話を一箇所修正しました。
特に話の流れは変わっていません。