第29話 閑話・黒竜の牙
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「………………………………………………えええぇぇぇ」
それが、とあるパーティの映った動画を観た<黒竜の牙>クランマスターの鮫羅木武雄の第一声であった。
顔も目を見開いて鼻水が垂れており、強面感が台無しである。
「これ、仕掛けたら俺らヤバくね?」
口調も小物感が漂ってしまっており、普段の粗暴な雰囲気がみじんも感じられない。<力>を信奉して、その信念のもとA級になる程に力をつけて、クランものし上がらせてきた鮫羅木にとって柘榴の見せた<力>は自身のキャラを見失わせるほどに衝撃であった。
「おい、片山。搦め手でコイツをなんとかできると思うか?」
キャラ崩壊していた鮫羅木を見ても、眉ひとつ動かさず控えていた片山に意見を求める。
「さて、国内や海外の裏組織や工作員も監視をしていますが、強硬な手段を取ろうとした者達は皆消されています。咲乃嬢の家族を狙えば小さな人形のようなものに撃退されるという話も聞きますし、あのゴーレムの仕業としか考えられません。経済的な圧力に関しても我々より経済力があるKISSYOやおそらくギルドもあちらに味方をするでしょう。力は言わずもがなでございましょう」
「……つまり?」
片山が言葉を重ねるごとに、眉間のしわが深くなる鮫羅木が結論を求める。
「手詰まり……という事でございます」
結論まで聞いた鮫羅木は椅子にソファに体重を預け、天を仰ぐ。
「そうだよなぁ」
常に威圧を放っている鮫羅木にしては気負いのない声で片山の出した結論を受け入れている。
「俺の勘も仕掛けたら負けるってガンガン警告を鳴らしやがる。とはいえ、黙って引き下がることは面子にかけて出来ねぇ」
鮫羅木は苦悩するように吐き出すと頬杖を突き、強い眼光で片山を見据える。
「さて、どうするか?」
「それでは1つ案がございます」
目を閉じて考え込む鮫羅木に、片山が感情を出さない表情で語りかける。
「なんだ?言ってみろ」
「それではーーーーー」
片山の案を聞いた鮫羅木は目を丸くして驚いた顔を見せるが、やがて肩を震わせて笑い始めた。
「くくくくっ、それは俺が死ぬんじゃねえか?」
「前提を整えればその可能性は限りなく低く出来るかと。それに………本当はこういった方がお好みでしょう?」
「……………ああ、そうだ!そうだったな!俺はそういうやつだった」
先ほどまで………さらに言えば、ここ何年かぶりに自らの信じるものを思い出した鮫羅木は憑き物が落ちたように濁りのない覇気を漲らせており、それを見る片山も少し口元が上がっていた。
「藤堂は性格が屑だったが、初期からクランを支えてきたやつだ。ついでに落とし前に必ず一矢報いてやるか。ちょうどいいから、都斗も連れて行くぞ。そっちはまあ、うまくいけばってとこだがな」
「ほうっ!それはよろしいかと思います。今日はこちらに居たかと思いますので、呼んでまいりましょう」
そう言って片山が部屋を出て行ったのを見送った鮫羅木は、動画の中で例のゴーレムが振るった力を思い返し口元に笑みを浮かべつつ身震いをした。
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クラン<黒竜の牙>の訓練所の片隅には、資料室も備えられている。あまり柄が良くないクランではあるがダンジョンの情報は重要であるし、魔法職などの後衛職の為もあり資料室はある。
その資料室に来た片山はソファにテーブルに前のめりになり、タブレットを見ている女性に声を掛けた。
「都斗、少しよろしいでしょうか」
片山の呼びかけに都斗と呼ばれた女性は顔を上げた。ぼさぼさの髪に今時どこで買えるんだという瓶底丸眼鏡をしており、ジャージを押し上げる装甲を持っているが全体的にだらしなさが目立つのであまり意味をなしていない。
置かれたタブレットには柘榴が初めてギルドで魔術を見せた場面が映されていた。
「片山さんじゃないでゲスか?わっちに用事でゲスか?」
都斗の第一声にあまり表情の変化がない片山がこめかみを抑える。
「その話し方はなんですか?」
「いやー。わっちはなかなか地味なんで、ちょっとキャラを立たせようかと思いまして……でゲス」
少し照れくさそうに言う都斗に、片山は口元だけの笑みを深くする。
「十分キャラ立ちしていますのでそのような口調は不要ですよ。ええ、十分です」
(才能はあるのですが、マイペースで今いち掴みにくい人ですね)
「そうっすか?わっちはどんな感じのキャラっすか?」
「苅野○三」
「浪人生は田中だけでいいっす!!」
わくわくしながら聞いたところへの回答にショックを受けた都斗の流れ弾が、本人の知らないところで最強の浪人生を撃ち抜いていた。
「都斗のキャラなどはどうでもいいのですがーーー」
「良くないっす。真剣に悩んでいるっす」
「鮫羅木様が咲乃嬢達に仕掛ける際に貴女を同行させるとのことです」
主張を流された都斗は不満そうな顔をしたが、続く言葉にキョトンとした。
「鮫羅木さん、死ぬんじゃないっすか?わっちは巻き添えは御免なんすけど」
次第に嫌そうな表情になった都斗は、片山に至極真っ当に断りを入れる。
「そこは考えがあります。おそらくあのゴーレムに藤堂一行が殺されていますので、黙って静観をすることはできない状況です」
「あー………あの人、胡散臭い雰囲気で、内面も屑でしたから。あの人犯罪の類はおおよそやってるじゃないっすか。いつか刺されても不思議じゃないって思ってましたけど、自分の実力越える相手に手を出すとかアホッすか」
死して尚も迷惑を残した嫌いな相手に対して辛辣な評価をする都斗に内心で苦笑する。
「これは貴女にとっても良い機会だと思いますよ。魔術の講座予約が取れなかったと落ち込んでいたでしょう」
一瞬ハッとするがすぐ思い直して首を振り、眼鏡の奥で片山を睨みつける。
「いやいや、予約の前に命取られるじゃないっすか」
「ふふっ、今回仕掛ける目的はーーーです」
「えっ!?」
片山から聞いた内容を整理して、頭の中で未来予想を組み立てる。いくつもの未来パターンを予想して行動を決定づけた都斗は片山と目を合わせる。
「分かったっす。その任受けるっすよ」
「有難うございます。それではマスター室に行きましょう。そこで作戦について説明いたします」
そう告げて出口に歩き始めた片山の後を、一つ頷いて都斗がついていった。
当話の次から第2章です。
次話は木曜日が空いて14日になります。




