第28話 閑話・商談
ご来店いただき誠にありがとうございます。
「トイレを売りたいのです」
柘榴からの唐突な話に吉祥院麗華は目を白黒させる。
「あのホイポ○カプセルのようなトイレのこと?価格は?量産はできるのかしら?」
動画を観た息子から連絡がありその存在は知っていたが、製品とするなら確認しなければいけないことを聞く。
しかし、柘榴も携帯トイレの話題に食いついた鷹柳の勢いと剣幕に割とビビり散らしていたので必死であった。単純に実力で言えば鷹柳では柘榴の足元にも及ばないが、怖いものは怖い。
「価格は素材次第ですので私の渡す設計図を基に仕様を決めてください。量産に関しても設計図通りの完成品に私が魔術を付与するだけの工程をとればそれなりの数は量産可能です」
「どんな素材でも製作できるのかしら?」
「基本的には可能です。布でもポリエチレンでも作れますが、私が使ったのはアダマンタイトですので魔物に攻撃されても大丈夫な代物です」
「そんな未発見の鉱物では買える人間なんかいないわ。でもそうね、初心者でも無理をすれば買える安めのテント生地製と上級探索者用のマナメタル製で価格帯を大きく別けましょうか」
麗華は柘榴の過保護に苦笑しながら、現実的なスペックに落とし込んでいく。そこから先は息子の吉祥院誠一に任せようと考えていた。
「改めて、柘榴さんの依頼受領を仮決定させてもらうわ。正式な受領は現社長に話を通してからだけど、こんな話を断ることはないでしょうね」
「それを聞いて安心しました」
「では大事なお話として、柘榴さんへのお支払価格はどうしましょうか?」
「これは西田中を紹介してもらった鷹柳への借りを返す意味もあるので、ギルドと商談をして決めていただいて構いません」
木葉の生活に関わるので金銭にまったく頓着しないわけではないが、意外と義理堅さを見せる柘榴の返答に麗華は感心したそぶりを見せた。
「あら。信用をしてもらえてると考えていいのかしら。それならば、応えなくてはいけないわね」
「それであればトイレの件は、これで一応落着と考えても良さそうですね。鷹柳も下層まで行ける探索者として、遠征したときは苦労したようですから、血走った目で迫られて思わず殴り飛ばしそうになりました」
「確かにダンジョンの中にはインフラがないからアウトドアが基本だものね。時に柘榴さん、この携帯できるインフラは他に作れるものがあるのかしら?」
トイレが作れるのならばと、麗華は試しに聞いてみることにした。
「大まかな設備だとキッチン、バス、洗濯そして小屋あたりですか。キッチンは野営で十分でしょうし、バスと洗濯は対象を浄化すればよいので設備としては不要ではないですか?」
「確かにそうね、さすがにダンジョン内で手の込んだ料理をわざわざ作る必要はないわね。その後に言っていた浄化?というのはどのようなものかしら」
問われた柘榴は配信の中でも見せたカードを取り出した。そしてさらに、初めて会った時に剥いた後で回収した木葉の服の残骸を取り出して置く。
服の残骸に向けてカードを放ち着弾のタイミングでワードを唱える。
「起動」
柘榴がワードを唱えるとカードが分解され、込められていた魔術が発動する。
魔術の燐光が服を包み、治まったころには破れはそのままだが血や土汚れなどが無くなった服がそこにあった。
「このクラフトソーサリーの見本もかねて浄化を使用しましたが、こちらの感想もしてくれていいのですよ」
「浄化の効果は分かったわ。人体には害はないのね」
「ええ、弱めで魔術を組んでいますので入浴と同程度に汚れと雑菌を消します。浄化の強度を上げると体内菌なども全滅します」
人体は菌との共生で成り立っているので全滅は拙いが、入浴と同程度の効果であれば需要はかなり見込めるだろう。
「今の浄化を発動するときに使ったカード。それがクラフトソーサリーなの?」
麗華の問いに頷くと、数枚のカードを取り出して見せる。
「トレントとウィス草から作った紙に魔術を刻んだものです。使い捨てですが発動させるだけの魔力があれば誰でも発動が出来るものです」
麗華自身は探索者ではないので魔力を持っておらず発動することが出来ないので、柘榴は威力が弱めの水球の魔術を込めた札で実演する。因みに柘榴たちがいる場所は西風荘の敷地内であり、平日であるので住民(咲乃家のみ)は誰もいない。
「これは……素晴らしいものね。でもこれは込める魔術によっては凶器になりかねないものだから一企業では扱わない方がよさそうね。ギルドに持ち掛けた方が良いと思うわよ」
「ふむ、なるほど。分かりました。助言に感謝しましょう」
「あとは小屋ね。それは見本はあるのかしら」
「私が作ったものはありませんので説明だけですが、トイレと同じで基本的に空間圧縮した小屋やテントというだけです。これも素材次第でいかようにも出来ますが、売るのであれば上級者だけにした方が良いでしょうね」
「あら、どうしてかしら?」
柘榴の忠言に麗華は首をひねり問いかける。
「私は人間の生態に詳しくありませんが、ダンジョンでのマスターを見ていると無駄なところで気を張りつめていて、ふとした時に気が抜けていました。同じようなことが初心者では起こると考えると……」
「簡単にテントや小屋を持ち運べるようにすると、初心者だけで日を跨ぐ探索をして事故が起こってしまうという訳ね」
柘榴の話を察した麗華が言葉を続ける。
「それは普通のテントでも起こりうることだけど、回収できる素材が通常のテントを持ち運ぶよりもはるかに増えると考えると……そうね、これは持ち帰って検討させてもらいますね」
「ええ、そうしてください」
話を終えた麗華はすぐに息子の誠一と連絡を取り、携帯トイレの資料を渡したら異例のスピードで稟議決裁がおりて商品情報が開示された。
情報開示からの反響がすさまじく、急いで予約募集をしたところ予約開始からわずかな時間でサイトが落ちるほど予約が殺到し順番待ちの状態となった。
この後予約数を聞いた某ゴーレムは人類が中級魔術を覚えるまで、待たせればよかったと大いに後悔していた。
トイレ話ばっかりの作品です




