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第21話 ゴーレム、主達の戦いを見守る

ご来店いただき誠にありがとうございます。

 蹴り飛ばされた鵺は蹴られたダメージが残っているのか、よろめきながら立ち上がり自身を蹴り飛ばした存在を睨みつけ唸る。


「付与ー重力ー加重。あまり痛めつけすぎてもマスターの為になりませんから、重力を3倍くらいのハンデを負ってもらいましょうか。結界ー障壁ー監獄。では、マスター達が来るまで寛いでいてください」


 飛び掛かろうとした鵺は急に身体が重くなり、跳躍が出来なくなったことに驚いたが、ならばと突進したら半透明の壁にぶつかり前に進むことが出来なかった。


 障壁にぶつかった鵺は困惑して周囲を見回すと、自身の周囲が半透明の壁に覆われていることに気づき重い体を無理矢理動かし障壁に爪を立てるが歯が立たず、ブレスを吐いても障壁の中に広がるだけであった。


 鵺は己をこのような目に遭わせている不埒者に報いを受けさせるために、暴れまわり続けた。


「さて、とりあえず鵺はこれでいいとして、これをどうしましょうか?辛うじて生きていますが、かなり出血していますから放っておいたら死にそうですね」


 呟きながらうつ伏せの体を、足で仰向けにひっくり返す。


「うっ……うぅ、た……すけ…」


 柘榴は瀕死のほとりを冷徹な目で見ており、そんな様子を映しているドローンの向こうでは最初の登場時から一転して柘榴に対して批判や罵詈雑言が飛び交っている。


「はぁ、着いた時には死んでました。と、言えればいいのですが、あいにく目撃者が多いですからね」


 ドローンを一瞥して、嘆息しながら上級ポーションの小瓶を取り出し、ほとりの口元に瓶を近づける。


「死にたくなければ飲みなさい。私の見立てでは内臓までダメージがありそうですから、かけるより飲んだ方がよさそうです」


 意識が朦朧としているほとりは、もうまともに体を動かす力もないようで唇が震えるばかりであり、ポーションを垂らしても流れ落ちるばかりであった。


「まったく、手間を掛けさせる」


 心底面倒くさそうに、ほとりの頭を持ち上げるとポーションを口に含み、口移しで飲ませる。


 すると巻き戻るようにほとりの身体から傷が無くなり、力が入るようになり始めた。多量の出血のため、まだ体をうまく動かすことはできないが自分の死が遠ざかったことをほとりは感じとり、目の前に整った顔があることにまず心底驚いた。


 そして、ドローンの向こうではてえてえ祭りが起きていた。


 そんな混沌な状況の中で木葉達が到着した。まず鵺を警戒してみたら閉じ込められているようなので、柘榴の方を向くとKISSをしていたので大口を開けて驚いていた。


「な、な、な、何やってんの柘榴っ!?」


 木葉の声に反応した柘榴が、ほとりをパッと放し振り向く。地面にゴチンと落ちた頭を抱えてほとりが悶絶している様を西田中は気の毒そうに見ている。


「一応人命救助だったのですが、見捨てた方が良かったでしょうか?」


「そうじゃないけど!なんでちゅーしてるの!?」


 木葉の反応に面白いものを見つけた表情になった、柘榴はにまにましながら話しかける。


「私の口は生体ではないので、口の形をしていますが漏斗と変わりませんよ。それとも、マスターもしてほしいんですか?」


 唇をなぞりながら問いかけると、木葉は林檎より赤くなる。


「ぴっ、あうあうあうあう…………それじゃ、おーー」


「はいはい、木葉を揶揄うのもそこまでにしてよ。まだ、敵はいるでしょ」


 障壁を破れないでいるとはいえ、鵺をほったらかして戯れる柘榴に呆れて依和那が口を挟む。


 もう少し楽しみたかったが、一応満足した柘榴は木葉達にスタミナポーションを渡して告げる。


「それを飲んで体力を回復したら、アレと戦ってもらいます。もちろんそのままでは今のマスター達には100%勝ち目がありませんので、アレには重力3倍の付与、マスター達には状態異常耐性の付与をして挑んでいただきましょう。鵺は状態異常のブレスと蛇の毒が最大の脅威ですが、それを封じた上でのハンディキャップ戦になりますので勝ち目は十分あります。ただし、重力の影響で攻撃の重さは増していますので、軽装の皆様では致命傷になりかねませんので気を付けてください。それでは下層の魔物ですから、鵺の方がやや強いと思いますが、頑張ってくださいね」


「え?」


「付与ー無効ー異常ー身体。それでは開始です」


 西田中の「お前は戦わないの?」という視線を完全に無視し、身体異常無効の魔術を掛けて、ほとりのベルトを掴んで持ち上げて壁際まで後退する。


 運ばれているほとりは呆けていたが、無意識に画になりそうだと感じドローンを木葉達の方に向ける。


 柘榴はそれを見て止めるか考えたが、この後を思えば都合がいいと思いそのままにすることにした。


「うう…あいつと同じ下層の魔物……」


「これ以上は手伝ってくれなさそうだし、やるしかないわね」


「ったく、仕方ねえ。やるか」


 元々柘榴が先行する際に、鵺と戦うことを条件づけられていたので、自分たちだけでやるしかないと悟った3人は、敵に向き直り武器を構える。


 用意が整ったと判断した柘榴は指を鳴らし、鵺の周りの障壁を解除した。


 邪魔な障害物が無くなり動けるようになった鵺は、己に屈辱を与えた柘榴を食いちぎろうと重さにより自由にならない身体を無理矢理動かし走るが、別の人間どもが武器を己の体に突き立てようとする。


 しかし、動きは遅くなっていても防御が弱くなっているわけではないので、その人間の持つ武器では己を傷つけることなどできない。


 とはいえ、脆弱な人間などが己を傷つけようとしたことを腹立たしく思ったので、先にこちらを食い殺すことにする。


「堅ってぇ!マナメタルの武器程度じゃ傷もつけられねぇってか」


「木葉のミスリルナイフならば斬れる可能性があるわ。わたし達は牽制しつつ目とか刃が通りそうな場所を狙いをしましょ」


「それしかねえな。ってなわけだ。嬢ちゃん、頼んだぜ」


「へあっ!?責任重大!?ーーーあたしを殺しかけたオピオタウロスと同じ下層の魔物……怖い……怖いよ……。それでもっ!それでも、柘榴と約束したんだから頑張るんだよっ!絶対、お父さんみたいな探索者になるんだからっ!」


 かつてのトラウマから震える脚を叩き、気合を入れなおして鵺に向かって走る。


「身体強化発動っ!」


 籠手の能力を発動した、木葉は依和那に注意が向いている鵺に横手から鵺の前足と後足の間を潜り抜けすれ違いざまに腹を斬る。


 ミスリルの刃は鵺の毛皮を斬り裂き内臓までは届かなかったが、確かに肉を断ち紫色をした血を流させた。


「効いたのは良いんだが、比較的柔らかそうな腹でも致命傷にならねえか。嬢ちゃんの強化が切れたらじり貧になっちまうし、こりゃ短期決戦でいくしかないな」


 その言葉を皮切りに3人は幾度となく鵺に斬撃や魔法を浴びせるが、下層の魔物の防御を突破することが出来ずに浅い傷を増やすのみという結果であった。


 その最中には木葉達も鵺の爪や蛇の尾が躱すのがギリギリになったり掠ったりする場面があり、見ている柘榴は飛び出しかけたり手がわきわき動いていたりして心配をしているようであった。


「ちくしょうめ。急所はうまく避けやがるぜ。柘榴さんもついでに防御も下げておいてくれたらよかったんだがなぁ」


 西田中がぼやいていると、とるに足らない人間ごときにいいようにされていることに腹を立てた鵺に、近くにいたことで標的にされて状態異常のブレスを吐きかけられる。


「ぶわっ、臭っせえ」


 状態異常はバフのおかげで効かないが、普通に臭かったので西田中は涙目になっていた。


「ちくしょうめ、おっさんの本気を見せてやる!コイツをくれてやるよ!んでもって、ミラージュ!」


 西田中が投げた小袋が鵺の鼻先で開き中身が振り撒かれる。中身が撒かれたタイミングで、スキルを使い実体のない分身を出現させた。


「ヒョッ!?ヒョォオオオオオオッ!」


 鼻先で巻き散らかされた赤い粉ーーーハバネロの粉末をまともに食らい鵺がもだえ苦しむ。


 鼻が使えず目にも刺激を受けて偽物の西田中を見分けることが出来ず、もだえながらも片っ端から爪を振るうが本物をとらえることが出来ずに爪が空を切る。


 切り裂かれて消えゆく幻影の陰から剣を構えた依和那が現れる。


 腕を振り切って体勢を崩している鵺は、迎撃のためとっさに依和那に伸ばして噛みつこうとする蛇の尻尾を木葉が、ナイフで大きく開いた口に刃を当て、そのまま上下に割り裂いていく。


「これでっ!」


 蛇を木葉に任せた依和那は真っすぐ鵺の目を目掛けて剣を突き、それは狙い過たず眼球を潰しながら突き入れられた。


「ヒョギィヤアアアアッ!!!」


 鵺が滅茶苦茶に首を振り回し依和那も引きずられるが、頭の振りに動きを合わせて剣を放さぬように自身も動く。


 依和那に向けて爪を振るわれるも間に入った木葉がナイフで受け止め、そのまま吹き飛ばされる。


「うあっ」


 木葉が作ってくれたチャンスを見逃さず、依和那は剣に魔力を注ぎ魔法を発動させる。


「レイジングウインドッ!いっけぇーーー!!」


 発動された魔法は剣を通して、発動される。すなわち鵺の頭蓋の中で荒れ狂う風が吹き荒れ、()()をかき回し、眼球が飛び出し孔と言う孔から血や脳漿が噴き出す。


 これまでの鵺に振り回されて傷んだところに無理な魔法発動をしたせいで、剣は砕けて魔法の反動により依和那は吹き飛ばされる。


「ぐっ」


 腕を痛めたため受身を取れなかった依和那が地に叩きつけられる。


 なんとか体を起こした依和那と吹き飛ばされたまま地に伏せた木葉、依和那が失敗したときに退避させるために動いていた西田中が息を呑み顔中から液体を垂れ流す鵺を見つめる。


 やがて鵺はぐらりと体勢を崩し、そのまま倒れ二度と起き上がることはなかった。


 それを見届けた3人は勝利を実感して、顔に笑顔が浮かぶ。


「やったか?」


「だからなんでフラグを立てるっ!?」


 いつの間にか近づいて横から口を挟んだ柘榴に、西田中が突っ込む。


「何はともあれ下層の魔物の討伐を成し遂げましたね。反省点はあれど、即興のパーティとしては及第点だったと思います。おめでとうございます」


「やったあ!」「下層の魔物を倒したのね!」「やったぜ!」


 柘榴によって鵺の討伐が断言されると、3人は手放しで喜びを表し、体の痛みも忘れて木葉と依和那は抱き合い、西田中は座り込んで天を仰いだ。


 3人は鵺が柘榴のお膳立てによって中層程度の力しか発揮できていなかったことには気づいているので、決して慢心などはしないが今は素直に喜ぶことにしたのだ。


「さて、先ほど話した通りこの後のことは私にお任せください」


 そう言って柘榴が3人の前に立った時、鵺の亡骸を中心に床が光り部屋全体が包まれた。


木葉が探索者を目指した理由などは次章で。

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