第20話 ゴーレム、渋々配信者を救う
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一夜明けて、先日と同じ時間くらいにギルドで合流した一行は、早速ダンジョンに入場しようとすると職員が話しかけてきた。
「すいませんが、昨日から何組か予定時間を過ぎても帰ってこないパーティがいることと、普段より魔物の数が多かったという報告が届いております。もし異変を感じたら無理はせずに、帰還をするようにしてください」
「ありがとよ。魔物の数が多いことは俺も感じていた。未帰還のパーティがいるっていうのはキナ臭いな。ってなことらしいから、いつもより気を付けて行くぞ嬢ちゃん達」
「「はいっ」」
職員の警告に気を引き締め直して一行は改めて入場手続きをとり、ダンジョンに入場した。
上層では木葉を先頭に、次が西田中、依和那、柘榴という隊列で進む。
「やっぱ、なんか魔物が多い気がするな?」
「そうね、たしかに以前より多い気がするわ」
「え、そう?」
西田中が怪訝そうに言うのに依和那も同意する。木葉はあまり長く探索したことがなかったので、あまり違いが分からないようだ。
「なにが起こってるか分からねえから注意して進むぞ。万が一スタンピートの予兆みたいな異変があったらすぐ引き返す」
「異存はないわ」
「うん、分かったよ」
このあたりは経験の長い西田中の判断に任せた方がいいと判断して、依和那も木葉も同意する。柘榴も特に反論はない……というか、西田中の斥候教室中はあまり口を出す気はない。
それはたいていの事には対処が出来る自信と確信から、主に格好いい所を見せようと企んでいる為でもある。
それから、一行はいつもより接敵回数が増えたところで、もはや上層の敵程度であれば苦戦することもなく倒せるようになり、早々に10層までたどり着きボスを討伐した。
柘榴が取り出したランチに3人が舌鼓を打ち、ダンジョン探索ってこんなんだっけと頭をひねっていたが、木葉がふと思いついたように柘榴に尋ねる。
「そういえばあたしは今回のご褒美で魔術の知識をお願いするつもりなんだけど、それってどうやって渡すの?なんか魔術でぶわーっとやるのかな」
その言葉に西田中と依和那の意識が会話に向く。それは2人にとっても気になっていたことでもある。
「ぶわーですか?いえ、普通に本を渡しますので鍛錬とお勉強してください」
無慈悲な言葉に木葉の表情は虚無になった。依和那はともかく勉強嫌いのおっさんもチベスナ顔になった。
そんな面々に柘榴は呆れた顔をして、人差し指をたて嘆息しながら説明する。
「いいですか、魔法スキルがスタンプを突くようなものだとしたら、魔術は絵を描くようなものです。才能があればいきなり描ける天才もいるかもしれませんが、基本的には学びと練習です。ただし絵の違って魔術は習熟によって完成速度を限りなく早めることが出来るので、戦闘行為中でも発動が出来ます」
そう言って柘榴は昨日見せた刺の魔術を瞬時に発動して見せた。
四方八方から金属のような刺が出る様は、JK+おっさんの厨二心を大いにくすぐった。
「因みに受け渡しが本なのは、マスターの家にパソコンがないからです」
「「あー」」
本である理由に木葉と依和那はそろって納得の声を上げる。木葉の家にはゲーム機すらなかったので、木葉が触れるデジタル端末はスマホくらいしかなかった。 木葉の家庭事情を知らない西田中はそうなのか程度に思っていた。
皆が納得したところで刺を消し給仕に戻り、しばらく休憩をして中層に進む。
「今日は汚名挽回するよっ!」
「早速挽回しましたね。ベタすぎますよ、マスター」
「え?」
ある意味初手から躓いたが今日は油断なく進み、見落としそうな罠を西田中が指摘して着実に成長しつつダンジョンの奥に進んでいく。
この探索で成長しているのは木葉だけではなく、依和那も今までは一時的にパーティを組むことはあったが基本的にソロだったので、パーティの立ち回りを覚えているところであった。
西田中はベテランなだけあって、教えるのも上手く柘榴は満足げにしている。
(やはり私の考えは間違っていませんでしたね。この男を紹介した鷹柳にもちょっとしたご褒美をあげてもいいかもしれませんね)
14層まで辿り着きオークとクーシーの混成を倒し終えたところで、どこかからか悲鳴が聞こえてきた。
「きゃぁああああああっ!」
ハッとした一行は声の出所を探すが、柘榴は木葉達に向かって告げる。
「さて面倒そうなので今日は帰りましょうか」
「何言ってるのっ!危ない目に遭ってる人がいるなら助けなきゃ」
「そうだぜっ。探索者は自分が助けられることもあるんだから、自分の出来る限りでは他者を助けることは必要だ」
依和那も口には出していないが同じ気持ちなのか、柘榴を強いまなざしで見つめている。
「悲鳴と共に聞こえてきたトラツグミのような声が聞こえてきました。相手はおそらく鵺です。下層の魔物ですが行くのですか?」
柘榴の言葉に木葉達は一瞬ひるむ。特に下層の魔物に瀕死の重傷を負わされたことのある木葉は体が震えてくる。……が、うつむいた顔を上げ真っすぐ柘榴を見つめる。
「ごめんね柘榴。柘榴が心配してくれるのは分かってるんだけど、それでもあたしは危険な目に遭っている人がいるなら助けたい。でも、あたしじゃ助けられないから柘榴を頼らせて!」
「ダンジョンに来ること自体が危険なのですから、自ら危険な場所に飛び込んでおいて。という気はしますが、マスターが頼ってくれることも珍しいですから良いでしょう」
柘榴の返答に途中までで顔を曇らせるが、引き受けてくれることを聞き木葉の顔に希望が宿る。
「ありがとよ柘榴さん。少し時間食っちまったから急がねえとな」
「まだ大丈夫ですよ。鵺は残虐な知性がありますから、もうしばらくは獲物を嬲っているでしょう」
「いやいや、駄目でしょ、急がないと。ってどっち行けばいい?」
何処までも他人に無関心な柘榴に依和那が突っ込みを入れると、柘榴が指で方向を示す。
示された報告に向けて、一行は小走りで走る。全速力では着くときに体力が尽きてしまうので逸る心を押さえる。
「まったく、そろってお人好しですね」
呆れたように呟き、柘榴も一行の後を追った。
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池野ほとりは探tuberとして活動をしている。
知名度は中堅にも届いていない程度で、多くの配信者の中では埋もれがちな方であるが、重戦士のクラスについている小柄な体躯の少女(26)が大斧で豪快に戦う姿が受けてじわじわと人気を上げている。
レベルは72で中層であれば不足なく活動できる力量を持っており、今日も罠を漢解除しながら豪快に進み15層まで探索する予定であった。
しかし、順調に進んでいた探索はいつもより多めの魔物と戦いあと数匹のクーシーを残すだけとなった時にソイツは現れた。
猿の顔を持ち獣の胴体、虎の足で蛇の尾を持ったソイツは残っていたクーシーを踏みつぶしほとりの前に降り立つとにぃやりと嗤った。
:なんだコイツ?
:あきらかに危ないやつだよ
:ほとりちゃん逃げて
:こいつゲームで見た。鵺じゃないか
:だれか陰陽師よんでこい
ドローンカメラに映るソイツーーー鵺の脅威を感じリスナーのコメントに焦りが混じり始める。
ほとりは一目見てこいつには敵わないと悟り逃げようとするが、後退しようとしたところで鵺の息を吹きかけられ体が痺れ自由に動かなくなる。
体の自由が利かないほとりに見せつけるように、鵺はゆっくり前足を上げる。
「ひっ」
怯えるほとりを嬲るように、前足を横薙ぎに振りぬき吹き飛ばす。
「きゃぁああああああっ!」
意識を失わぬように手加減されており、地面に転がるほとりに見せつけるようにのそのそと近づいてくる。
:こいつ甚振ることを楽しんでやがる
:ほとりちゃんほとりちゃんほとりちゃん
:誰か、ほとりちゃんを助けてくれ!
:中層探索している程度の奴じゃ返り討ちだろ
:ギルドに通報した
:A級呼んでも間に合うかよ
:死亡配信はここでいいの~?
:でたよクソハイエナ
「あ、うう……」
目に絶望を映し涙を流しながら見上げるほとりに、鵺は力を加減した前足を振り下ろす何度も何度も、時に爪を立てじわじわと傷つけ弱らせていく。
やがて全身が切創と打撲だらけになり、ほとんど身じろぎもしなくなったほとりに大きく口を開けた鵺が迫る。
「や……ぃやあ」
微かな呻きを漏らすことしかできなくなったほとりに、鵺の牙が触れたその時。
「そお~れぃ」
どむっ
気の抜けた声と共に鈍い音が響き、鵺の気配が遠ざかった。
残った力を振り絞り目を向けたほとりの目に、ダンジョンにいるはずがないメイドが映った。
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「あ」
「ぜひーぜひーこふっ、ざぐろどぶじだの?」
最後尾を走る柘榴が声を上げた事が、気になり息絶え絶えの木葉が聞く。
「襲われている人物が死にそうですね」
「ちょっ、大変じゃないっ!もっと急がないとっ!」
「今のペースだと間に合わないですね」
慌てる依和那に柘榴がのんきに返す。柘榴としては己の意思でダンジョンに入ったものがどうなろうとどうでもいい。主達が助けに向かっているから、ついて行っているだけなのである。
しかし、柘榴の唯一の外付け良心はその考えを許容しない。
「柘榴、先に行って!柘榴だけならもっと早く行けるでしょ!」
「それは命令ですか?」
「お願いだよ。あたしは柘榴に人を見捨ててほしくない」
「甘々ですね。……いいでしょう。その代わり、私は時間稼ぎだけします。力は貸しますので鵺はマスター達で倒してください。その後は私がやりましょう」
「分かったよ!……後?」
柘榴の言葉に引っかかりを覚えた木葉だが、言質を取った柘榴はもはや気にしていない。
「強化ー脚力ー加速」
魔術で移動速度を強化した柘榴はあっという間に木葉達を置き去りにして走り去り、曲がり角では壁を駆け上がりスピードを落とすことなく目的地に向かい、倒れた女性に今まさに喰らいつこうとしている鵺を見つけた。
「そお~れぃ」
駆け付けた勢いそのままで鵺の側面に回り込み、その腹を蹴り飛ばした。




