第2話 ゴーレム、底辺探索者を助ける
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起動した人形は、赤く光る眼を動かない木葉に向ける。
『マスター心肺停止、生体反応微弱、23秒後に生体反応が完全に消失と予測。このような下等生物がマスターとなってしまうとは。なぜ、創造主様は至高の私にかような試練をお与えになるのか!』
やたら人間臭いしぐさで、おかしなことを言いだした人形は木葉を瀕死にした元凶の方に向き直る。
『さて、あと21秒でマスターが蘇生不能状態となるので、嫌々ですが、治療をしなければいけません。ですので、家畜もどき風情が邪魔をすることは許しません』
「ヴオオァァァァァァァ」
オピオタウロスは自分を見下しきった人形に怒ったのか、咆哮をあげ向かってくるのを人形はただ拳を握って待つ。
向かってきた勢いそのままに振り下ろされる前足に向けて拳を振りぬくと、オピオタウロスの前足と、その先にあった顔面を消し飛ばした。頭を失った、オピオタウロスはその場に崩れ落ちる。
それを最後まで見ることもなく、人形は木葉の傍に戻り屈みこむ。
『あと、14秒。宝物庫解放』
人形は自らの体に手を当て、そう言うと体に手が吸い込まれるように入っていく。
わずかな時間の後、取り出した手には小さな瓶が2本掴まれていた。
『あと、9秒。下等生物には勿体ありませんが、仕方ありませんね』
そう言い、1本を木葉に振り撒いた。振り撒いた途端、木葉の傷が癒えてゆき、抉られた脇腹や千切れた左腕も再生して体の傷はなくなった。しかし、まだ息を吹き返しておらず、鼓動も止まったままだ。
『あと、4秒。まったく、面倒くさいですね』
人形は木葉のあごを掴み口を無理矢理開かせて、瓶を奥まで突っ込み液体を飲ませた。
『0秒。残念ながら、生体反応が回復しました』
顔に血色が戻り、穏やかに呼吸をし始めた木葉を見て身体の状態を確認していき、どこにも異常がないことを確認した人形は木葉を仰向けに横たえる。
『さて、マスターが目覚めるまでしばらくの間、現在の世界の情報収集をいたしましょうか』
人形は木葉の体をまさぐって荷物を取り出していき、型が5代くらい前のスマホを見つけた。
『これが現代の通信機器ですか。生意気にもロックが掛かっていますが、解除など至高の私には造作もないこと。しかし、このおもちゃを使っての情報収集など非効率の極みですね。通信手段のみを利用してデータを集めるのがよいでしょう。ほう、これは魔術と科学が混合した通信ですか、少し、ええ、少しだけ見直しましたよ』
上から目線で独り言ちて、スマホを手に持ち自らの意識をインターネットに潜り込ませ情報の処理を始めた。人形が動きを止めると目の光も消え、木葉の寝息だけが聞こえる空間になった。
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1時間もしたころに、人形の目に再び光が灯った。
「収集終了。……………ふむ、どうやら現代は科学に比べて魔術の発展が大幅に遅れている。というか、そもそも魔法はあっても、魔術がない。そもそも30年まで魔力自体が存在を認識されていない。やはり間違いない、私という存在はこの時代においても至高であると!」
再起動を果たした人形は驚くべきことに日本語を話していたが、やはりウザイ人形であった。
一通り自画自賛をすると、人形は考えこみ首を傾げ自問自答する。
「私が至高なのは真理ですが、この世界には私に似たものがあった。それは、ヤツだ!モデル人形!至高の私の模造品が世界中に広まっている。確かに私の姿を所持したいという気持ちはあって当然でしょう。しかし!この、私の、姿を勝手に真似るなど許されざる暴虐!とはいえ、すでに世界中に広まっており1つずつ消去はいかに至高の私でも困難。かくなる上は、世界ごとすべて葬り去るしか……」
モデル人形にパクリの冤罪を掛け、物騒なことを呟きつつウロウロしていたが、木葉を見てハッと動きを止める。ところどころで人間臭い人形である。
「製造されて幾星霜、ずっとこの造形美にあふれた姿でいましたが私もまた異なるステージに進むのもいいかもしれません。この人間たちの姿は、創造主様に似ていますね。ならば、私もそちらに歩み寄ってあげましょうか」
勝手に歩み寄り、勝手に結論を出すと人形は直立の状態になる。
「自己改造ー形態変化」
人形が魔術を使うと、周囲に緑の光の塊が無数浮かび上がり、人形を覆い隠す。
やがて緑の光が消えると、そこには銀髪で切れ長の紅い目を持ち、整った容貌を持つ美女がいた。
美女の姿になった人形はなぜかメイドにクラスチェンジしていた。
元人形のメイドは自分の姿を見回し、満足そうな顔をする。
「さすがは私です。完璧な美しさ。下等生物の姿でありながら、圧倒的な至高のオーラを持って存在の格が違っている」
自画自賛をしながら、周囲をくるくる踊っていたがピタッと止めつかつかと木葉に歩み寄り覗き込むとよだれを垂らした平和な顔で、まだ寝ており時々寝言を言っていた。
メイドは少し安堵すると、表情を作り直し眉根を寄せる。
「マスターの分際で、この私を待たせて寝こけるとは生意気ですね。そういえば宝物庫にアレがありましたか」
にやりと笑ったメイドは、メイド服のスカートの中から軟膏のような感を取り出した。
「ヒリリ草の軟膏です。これをこうして……と」
軟膏を指にとり、木葉の鼻の下に塗り付けしばらく様子を見る。
塗ってしばらくすると、木葉の表情が何かを我慢するように歪み、やがてカッと目を見開く。
「にぎゃ~~~っ!なに、なに、なんか鼻にツーンと突き抜けるよ」
顔を手で押さえ転げまわる木葉は、先ほどまで死にかけていたとは思えない様子だった。
ゴロゴロと転がり続け、メイドの足にぶつかり止まる。
「あえ?なに?」
メイドにぶつかり、初めて誰かがいることに気づいた木葉が顔を上げるとメイドと視線が合った。
「おはようございます、下等生物。さわやかなお目覚めですね」
「わ~。綺麗な人。でもなんでメイドさん?」
メイドに見惚れて、初手から罵倒されていることに気づいていない木葉に、褒められたことに気を良くしたメイドが話かける。
「凡庸な誉め言葉ですが、せっかくのマスターの賛美です。ここは至高の私が寛大な心で素直に受け取っておきましょう。ところでマスター、マスターは何があったか覚えていますか?」
「マスター?----何があったかって、あっ!あたし、死んじゃって……あれ、生きてる?っつ、そうだ!牛の怪物がいて!お姉さん、ここは危ないです!急いで逃げないと」
次第に意識を失う前のことを思い出した木葉は、顔を青くしてメイドに逃げるように言うが、メイドは煩わしそうに木葉の頭を押さえる。
「落ち着きなさい下等生物。あの家畜もどきなら処分済みです。あちらにドロップがあるでしょう」
そうメイドがオピオタウロスが倒れた場所を指さすと、メイドに見向きもされなかったドロップアイテムーー角2本と肉ーーが落ちていた。
それを見た木葉は目を丸くして、やがて自分が助かったことに安堵すると、意識を失う前の自分の状態との違いが気になり始めた。
「あ、そういえば、あたし腕を失くして、大怪我していたのに傷もない。でも、装備は壊れているから夢でもないし……お姉さんが助けてくれたんですか?」
自分以外にはメイドしかいない状態から、メイドが怪我を治してくれたと推察する木葉にメイドがもちろん謙遜などするはずもなく、
「もちろんです、大いに恩に着てください、マスター」
「あ、あの、そのマスターって何ですか?あたしたち初対面だと思うのですが……」
メイドに見覚えがなく、困惑する木葉にショックを受けたようによろめきメイドが悲しそうな顔を作る。
「ひどいです、マスター。私のことをあんなに汚しておいて、しらを切るのですね」
「ひぇっ。で、でも本当にお姉さんに見覚えがなくて」
メイドの演技に騙されて、木葉があたふたする。
「マスターったら、あんなにしがみ付いて私を赤く汚したじゃないですか。よよよ」
「ええと……ええっ!?もしかしたらですけど、この部屋にあったあのお人形ですか?」
メイドのヒントにより、メイドの正体に気づいた木葉にメイドが修正を入れる。
「いいえ人形ではありません。私は創造主メイアリスにより作られた至高のゴーレムです!」
作者:オピオンーッ(涙)
主人公の性格をKOS-○OSみたいな無機質感出したかったのに、なぜか超上から目線でからかい好きになってしまった。