第19話 ゴーレム、中層を進む
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ダンジョンは現在上層から下層までの3層が確認されており、そこより下にはまだたどり着いたものが公式には存在しないため全容はまだ判明していない。
名古屋第2ダンジョンは上層10階、中層20階となっていることは判明しており、下層は30階あるのではないかと言う説が有力視されている。このダンジョンの最高到達記録は54階であり、5年前に到達した鷹柳達<エビフリャー>の記録は今だ抜かれていない。
因みに大多数の人間はエビフリャーと呼ぶことを拒絶していて、ただ鷹柳のパーティと呼んでいる。
さて、中層に進入した一行はというとーーー12階でオークの群れと戦っていた。
11階はどうしたかというと、上層で色々学ぶことが出来た木葉は慢心してしまった。因みに柘榴は常に慢心しているが、油断はしていない。しかし、木葉は周りの助けもあるが初めて探索でうまくいったことで、ほんの僅か油断してしまった。
そのため、西田中より前に出て落とし穴に落ちてしまった。落ちた先がランダムで酸や刺やモンスターハウスに繋がったりすることもあり、中層では危険な部類の罠になっているが、今回は1階下のモンスターハウスに繋がっているようで柘榴は落ちた木葉を追ってすぐに落とし穴に飛び込んだ。
西田中と依和那も柘榴を追って飛び込む。
落とし穴の先にいた100を超えるオークの群れに襲われそうになっているポメラニアンの前に躍り出た柘榴は、間近に迫った数体を殴り飛ばした。
「マスター、依和那達に合流してください」
「あ……ご、ごめんなさい」
「反省は後でいいので、まずはこの機会を生かしましょう」
「う、うん。分かった」
そう言うと落ちてきた依和那達の下へ走って行き、合流するのを見届けた柘榴は木葉達に声を掛ける。
「それでは、何匹かずつ流しますので倒してください。まずは1匹です」
「プギッ!?」
そう言うと1匹のオークの首を掴み、木葉達の前に放り投げる。まともに着地できずに体を打ち付けたオークは、それでもさしたるダメージを負った様子はなく木葉達に威嚇をする。
「よし、嬢ちゃん。説教は後だ。まずはオークの倒し方だが……ぶっちゃけ、俺ら3人だと攻撃が軽すぎてオークの筋肉を切り抜くことが出来ない。だから、急所狙いだ。太い血管とかは人間と変わらんから首とか脇とかだな。依和那嬢ちゃん、俺は右から行く」
「じゃあ、わたしは左から行くわ。挟み撃ちね」
2手に分かれてオークを撹乱し、体に薄い傷を与え隙をが出来るのを待つ。いくつもの傷を与えられ苛立ったオークが西田中に向けてこん棒を振り上げたところで、死角から依和那が飛び込みオークの頸動脈を切り裂く。
血が噴き出したオークは暴れるが余計に血が噴き出し、動きが緩慢になりやがて倒れた。
そこに追加で1匹飛んできて地面に叩きつけられる。豚だけに。
「嬢ちゃん、オークの動きをよく見ながら、撹乱するんだぞ」
「は、はいっ!」
木葉の適正階層はまだ上層であるが、オークは格上になるが動きはそこまで速くないので、逃げ回ることはなんとかできる。
西田中と木葉でオークを引きつけ、依和那がとどめを刺すことでもう1匹も倒すことが出来た。
「マスター、手甲の能力と予備のナイフを使用してください」
その声と共にまた1匹豚でくる。飛べる(飛ばされる)豚なので、ただの豚ではない。
その声にハッとした木葉は、西田中と依和那に撹乱をお願いする。
柘榴が言うなら、装備にも何かトンデモ能力があるのだろうと考え了承した2人はオークを挑発する。
「身体強化発動っ!」
手甲の能力を発動した木葉は、ミスリルのナイフを構えオークに向かって走る。近づく木葉に気づいたオークは咆哮を上げ大剣で薙ぎ払うが、木葉は跳んで躱した。
「木葉、ダメっ!」
依和那が声を上げるが、既に跳躍をして空中で身動きが取れない木葉に向かって、オークは剣を跳ね上げる。
大剣が迫る中、木葉は宙を蹴った。
躱せるはずがない剣を躱されて動揺するオークの頭上を取った木葉は、ナイフを構え脳天に突き刺した。
頭からナイフを生やしたオークは、白目を剥き仰向けに倒れる。
「次は2匹です」
次に飛んできたオークも西田中が気を引き、木葉と依和那がトドメを差して倒す。
「最後に3匹です」
2匹を西田中が引きつけ、木葉が1匹と戦ううちに依和那が西田中の方のオークを倒し、最後1匹を3人で倒す。急造パーティとは思えないくらい連携がかなり様になってきていた。倒し終えたところでちょうど木葉の身体強化が切れた。
最後のオークを倒した3人が柘榴の方を見ると、部屋中から生えた刺にオーク達が串刺しになり、全滅していた。
「す、すごっ」
依和那がその光景に目を奪われて呟く言葉に、2人も内心で同意する。
しばらくするとオークの骸がすべてドロップアイテムになったので、全員で回収をする。
ドロップアイテムを回収し終えた一行は集まり、魔石などの細かいものはそれぞれが持つカバンに、剣や斧などの武器防具は木葉のマジックバッグに入れる。小物を分けているのはドロップを1箇所に集めて、万が一、運搬役が帰れなかった際に収穫が全て無くなってしまうからという探索者の知恵である。
「さて、嬢ちゃん。何が悪かったかは、分かっているよな」
「う、うん。浮かれてて、周囲の警戒もせずに前に出ちゃった。ごめんなさい」
しょんぼりする木葉に西田中はちょっとやり辛そうにするが、ここで甘やかしては木葉のためにならないと思い厳しくする。面倒見がいいおっさんなので、鷹柳も西田中を推薦したという経緯もある。
「そうだな。慣れた場所でもダンジョンじゃ油断したら死につながる。ましてや、初めて来た場所ならばより一層警戒をしなきゃならねえ。今回は柘榴さんがいたから無傷で勝てたが、オークのモンスターハウスなんぞに当たったら俺達じゃ本来は全滅だ」
「はい……」
依和那も庇いたそうにしているが、西田中が木葉のために叱ってくれていると分かっているので黙って見守っている。
「俺たち斥候職はパーティの安全を担っているんだから、警戒すべき時と気を緩める時を間違えちゃいけねぇ。そう言ったことも覚えねえとな」
「…はいっ!」
「それにしてもマスターが落ちるところは見ものでしたね。まさにスポッという擬音が聞こえそうでしたよ」
説教が終わったのを見計らって、先ほどの木葉の醜態を思い返す。
「ぷっ。それは確かに」
「ああ、見事な落ちっぷりだったな」
「うう~~」
木葉は不本意そうにするが、実際に醜態を晒してしまったので何も言えず唸ることしかできない。
「嬢ちゃんといやあ、さっきのアレはなんだ?なんか色々突っ込みどころが多い気がするが……なんかすげえ身体強化とか、オークの頭蓋骨を貫くナイフとか、空中蹴ってなかったか?2段ジャンプとかゲームかよ」
西田中が興奮してまくしたてるが、詰め寄られる木葉は唾が飛んできてすごく嫌そうだ。
「あれは出会ってすぐの時に装備がボロボロになっちゃってたから、柘榴が作ってくれたんだ」
「あー、あー、そうか。わりぃ、思い出したくないことを思い出させたな」
「ううん、大丈夫。……そのあとの柘榴の言動や行動に色々上書きされたから……あはは」
2人が虚ろに笑う木葉を同情するように見ている後ろで、柘榴は誇らしそうに胸を張っている。
木葉から装備の説明を聞いて羨ましそうな視線を向けるおっさんとJKをスルーして、先を進むように促す。
「そんじゃ、罠の見つけ方と解除を教えたら今日の所は帰るか」
「賛成」
「そうね」
その提案通り中層でいくつか罠を発見し、解除も実践までして、今日の探索を終え帰途に就く。
ギルドに帰還してレベルの簡易測定をしたら、木葉が12に依和那も23に上がっていて喜んでいた。順調に木葉のレベルが上がり、傍で聞いていた職員も嬉しそうだった。
その後は翌日の日曜日は木葉の実践をメインとすることを予定として、ギルドで解散した。翌日の報酬の携帯トイレを柘榴に念押ししているところを鷹柳が聞きつけ一騒動あったが、前回と違いおおむね平和にギルドを出たのだった。
前話から始った今回のダンジョン攻略は木葉の成長がテーマです。




