第16話 ゴーレム、基礎鍛錬させる
ご来店いただき誠にありがとうございます。
あらあらママーー佳未亜が帰宅し、咲乃家では珍しい一家揃っての夕食となった。
テーブルなどの家具は麗華がリフォームのお返しとしてプレゼントしてくれたものだ。
急な納品のため既製品ではあるが、品質は良いものだ。健が帰ってくるまででは、さすがの柘榴もこの部屋までしか拡張できていないので翌日以降に手掛けることになっている。
咲乃家が席に着いたところで、柘榴が料理を並べ始める。わざわざ堅苦しくすることもないと思い、特にコースなどにはせずテーブルに並べるスタイルだ。
「本日はこの至高の私と出会えた記念の料理です!心行くまで味わいなさい」
「自分で言うのかよ」
「野猿はバナナでいいですね」
余計なことを言う健の前にはバナナを1本置く。
「わ、悪かったよっ。おれも食べたい!」
慌てて謝ると柘榴がふふんとした顔をしているので、健はぐぎぎと歯噛みする。
早く目の前の料理を食べたいばかりの木葉は健を急かすと。
「「「いただきます」」」
咲乃家の面々は食前の挨拶をすると、料理に手を付け舌鼓をうつ。
「あらあら、とても美味しいわ」
「見たことない野菜だけど美味え」
「美味しい。美味しいよ、ありがとう柘榴」
「ふはははは。それだけではありませんよ!食後にはーーデザートもあります」
「「な、なんだってーっ」」
柘榴の発言に木葉だけでなく、ここ何年か節約のためスイーツにありついていない佳未亜もあらあらキャラが剥げてMM○キャラになっていた。
健は普通に嬉しそうにしていた。
「それでは蟠桃のコンポートです」
「………もぐもぐ」
「ううう~~ん。なんかすっごくおいしよ~」
「あらあら、瑞々しくてほのかな酸味にしつこくない甘さ、まるで天上の果実だわ」
因みに宝物庫の蟠桃は天界の蟠桃である。なので、咲乃家は野菜の星の人のような生態をゲットした。
デザートまで食べ終えて、一息ついている面々に柘榴はわずかに微笑む。
「今日はお金を持っていなかったので、宝物庫にあった食材を使用しています。マスターが成長したときには、今度はマスターと採取した食材で祝いましょう」
その言葉に咲乃家親子はぎょっとする。ダンジョン食材は一般家庭では手の届かない高級食材である。正確には宝物庫のものはダンジョン食材ではなく、美食屋のフルコースにできそうな伝説食材である。
「ダンジョンって、こんな美味しいものがあるの!?」
「深層より下には伝説で語られるような甘味もありますよ」
「行くっ!頑張るよ!」
目をキラキラさせて幻のしっぽを振り振りさせて木葉が意気込むが、深層以下と聞いた家族2人は心配そうにしている。
2人はまだ木葉の身に起こったことを詳しく知らないが、生命の危機に陥ったことは聞いているので心配するなと言うのが無理な話である。正直なところ木葉には探索者をやめてほしいとすら思っている。
しかし、木葉が探索者にこだわる理由を知っている2人は止めることが出来ないのだが、理由が食欲になっている今なら止めてもいいかなーと思わなくもない。
そんな2人を横目に見つつ木葉育成計画を進めるべく、木葉の目を見て笑う。
「いい心がけです。それでは、まず、勉強の続きから始めましょう」
「へ?」
どうしてそうなるの?と木葉は目で訴えるが、そんなものが柘榴に通じるるるるーー若干、ダメージを受けるがーーはずもない。
「あ、明日は早朝からランニングです。マスターは体力も圧倒的に足りていません。日頃の積み重ねは探索者でも重要です」
「ひぎぃ」
さらなる追い打ちに木葉は涙目だ。天国から地獄とは正にこのことである。
佳未亜と健はその様子を見て探索は危険なのでできればやめてほしいが、タダで家庭教師をしてくれて、トレーニングコーチとおまけに家事もしてくれるってよくない?果てはDIY感覚で家の改造とか、メイドSUGEEEと思っていたので木葉に救いの手はない。
「柘榴さん」
佳未亜が柘榴に呼びかけると、木葉が救いの神を見る目で見つめる。
「木葉の事をよろしくお願いします」
神は死んだ。木葉の目も死んだ。
「お任せください。マスターは立派な海兵にして見せます」
「どれだけ気に入ってるのソレ!?」
「訓練の中で芽生える友情と戦いの中ではぐくまれる絆、そして努力の果ての師への勝利。素晴らしいストーリーです」
「多分違う話だね。そうじゃない気がするよ」
佳未亜は木葉達のコントをくすくす笑いながらやさしく見つめていた。
「さて、それはそれとしてーー」
この後めちゃくちゃ勉強した。
頭から煙を上げて白目剥く木葉を、お風呂に入れて布団に寝かせた柘榴は静かに部屋を出る。
「今までにない主ですが、成長を見るというのも楽しみになりそうですね」
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翌朝、早朝からたたき起こされてランニングをした木葉は1kmも走れず追い立てられて、走っているのか歩いているのか分からないペースで走り続ける。家に戻ったころには燃え尽きていた。
動けなくなっている木葉を丸洗いして、身支度を整えわきに抱えて学校まで持っていく。
噂のメイドが木葉を抱えて歩いている姿は盛大に目立っており、校門でしばらく立っていたら周囲には人だかりが出来ていた。
そこにが依和那が登校して、柘榴を見つけるとぎょっとして走り寄る。
「ちょっと!なんで学校にいるの……ってあれ、木葉はどうしたの?」
柘榴が目立ちすぎてて初めはわきに抱えている木葉に気づかなかったが、近くに寄ったら力なくぶら下がる木葉に気づき柘榴に聞く。
「朝にランニングをしたらこうなりました。後はお願いします」
そういって木葉を引き渡すと目を白黒させるが、やがてため息をひとつ吐きわきに抱える。親友にすら荷物扱いされている木葉であった。
「分かったわよ。まったく。手加減しなさいよね」
「町内1周しただけです。ほとんど歩きペースで」
ハードトレーニングを窘めたつもりが、思った以上の木葉のポンさ加減を聞き、親友を残念なものを見る目でみて柘榴に親指を立てる。
柘榴もサムズアップを返しつつ、思い出した風に依和那に予定を伝える。
「週末はダンジョンに行きますが、依和那の予定は空いてますか?」
「ええ、大丈夫よ」
「それでは朝に西風荘まで来てください」
「分かったわ」
「それでは私は少し行くところがありますので、これで失礼します」
依和那の返事を聞いた柘榴は頷き、来た時とは違う道を歩いて行った。
柘榴を見送った依和那は教室に行こうとして、ふと周囲の視線が向けられていることに気づく。
視線が集中していることに気づきたじろぐ依和那に、生徒たちは好奇心を爆発させて質問攻めにするのであった。
生徒たちから逃げて始業のチャイムぎりぎりに教室に駆け込み、朝から疲労困憊になった依和那は柘榴に呪いの念を送りつつも週末の探索を楽しみにしていた。
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授業前には依和那に強制復旧させられた木葉は、家に帰れば夕食まで筋トレ、夕食後はお風呂に入った後に勉強をして就寝。
そして朝はまたランニングをしてと、日々しごかれながら過ごして柘榴と出会ってから初めての週末ーーすなわち探索の日を迎える。
蟠桃は現実にも存在する桃です。天界の蟠桃から名前をとった品種らしいですね。
依和那とはポンを育てる同志となりましたので、苦労を分かち合う仲間として態度が軟化しています。
現代ダンジョンものなのに全然ダンジョンが出ませんでしたが、やっと次話からダンジョンが出せる。




