第13話 ゴーレム、怪談になりそう
ご来店いただき誠にありがとうございます。
※作中で犯罪行為の描写がありますが、当作品は犯罪行為を助長するものではありません。
当話の序盤は若干シリアス風味ですが主人公のスタンスについてです。
藤堂たち<黒竜の牙>構成員を始末した柘榴は再び自らの重量軽減を戻すと、亡骸を1箇所に集め始める。
亡骸を1箇所に集めると、そこに手を向けて魔術を発動する。
「炎球ー収束ー過熱」
柘榴は亡骸を起点に炎を収束して温度を超高温まで上げる。焼かれたたんぱく質は灰となり、骨は融けて地面と同化していく。
残った血液なども分解して、一切の痕跡を消し去った。
木葉と別行動をしていたのはこのためである。
柘榴は後顧の憂いとなるものは、消し去ることが最善と考えている。
創られた人格としての思考が感情とは別に、生かして不確定の未来とするよりも、不利益となる要因を取り除き予測できる未来とすることを合理的と考える。もっとも、感情としても主に害を齎すものに良い感情など持ちようもないが。
木葉がこの場に居たら、必ず柘榴を止めるだろう。それは出会って1日でしかないが、その気質は分かりやすい。故に柘榴は木葉にかかる災いを、陰で消し去ることを決めていた。
しかし、柘榴は木葉の甘さを嫌っているわけではないし、木葉にはそのままでいてほしいと思っている。
ただ、柘榴は人の善性を否定しているわけではないが、善も悪も人類間ですら共通していないような不確かな概念を指針とはしないだけだ。
そもそもである。
柘榴は全ての生命に価値を見出していない。
柘榴は他者への情など持ち合わせていない。
柘榴は他者からの感情に関心がない。
ゆえに柘榴の心の動きは、すべて主となる者が起点となって発生する。
柘榴が人類にとって祝福をもたらす使者となるか、災厄をもたらす死神となるかは主である木葉に掛かっていると言える。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「すぴーーー」
そんな重責が掛かっていることは想像もしていない、健康優良児の木葉はすでにぐっすり夢の中だ。
ざくろちゃんは木葉に抱きしめられている。
まだ9時頃であるが、色々あって疲れていたのでご飯とお風呂を済ませたら寝床に直行した。
宿題をやっていないことを忘れているので、明日は教師に怒られることが決定済みである。
因みに、健はきちんと終わらせている。見た目は活発な少年のようであるが、意外と優等生なのである。
「あらあら、今日は早くにお休みなのね」
仕事から帰ってきた2人の母親が、すでに就寝している娘に微笑ましそうな顔をしていた。
「むぐむぐ、リンゴ……おいひ……」
寝ぼけた木葉は、ざくろちゃんを食べはじめた。ざくろちゃんはよだれ塗れになりとても嫌そうな顔をしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
一方、柘榴は公園のベンチに座り内職をしていた。どのみち西風荘に戻ったところで入ることはできない。
そんな暇な時間で木葉の育成に使う予定の道具を作成している。
この公園は街灯もなく真っ暗であるが、柘榴アイは暗視もばっちりの高性能だ。
真っ暗な公園でベンチに座り俯いて内職するメイド。通行人がいれば新たな怪談になりそうである。
そうして、長い1日は終わり、夜は明けていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
しかし、まだ1日を終われない人たちもいた。
主にどこかのゴーレムの一番の被害者と言える人物である。
鷹柳は日本ギルド本部長をはじめとしたギルド幹部たちと遅くまで、オンライン会議を行っていた。
主に野放しに出来ないあんちくしょうが議題である。
ようやく会議が終わったころには日付が変わっていた。
幹部の中には木葉から柘榴を取り上げてギルドの所有にしろだの、柘榴の宝物庫の中身をすべて供出させろだの無謀としか言えないようなことを言う者もいた。
鷹柳は今の地球で再現が出来るとも思えないオーパーツそのものである柘榴本人や、アーティファクトの品々を相手にして、少なくとも今の地球勢力では数で攻めても敵わないと感じていた。
探索者の質は量を覆すという事が常識であるから、当然その結論に行きついた。
だからと言って、経済や世論といったもので追い詰めようとした場合、どのような手を取られるか分からない怖さもある。
せっかく穏便に未知の技術を得られる手段があるのだから、少なくとも相手の底が見えない間は柘榴の提案に乗るべきだと幹部陣を説得した。それはもう一生懸命説得した。
その甲斐あってか、ギルド本部長を味方につけることができ、何とか様子見で結論をつけることができた。
それでも強硬な手段をとる者は出ると予想はして、何人か思い当たる人物はいる。
(これは近々幹部に欠員が出そうですね。関係ない人間まで被害を受けないように手を打たないといけませんね。はぁ、胃が痛いです)
鷹柳はこれから起こる騒動と、人が進化する時代が到来する予感に報告書をまとめるため支部長室への重い足取りを進めていく。
鷹柳の夜はまだまだ終わらないようだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「そういう訳だから、木葉ちゃんの後ろ盾としてサポートをしてあげて頂戴ね、誠一」
西風荘を出てホテルに行くと、KISSYOの現社長である息子の吉祥院誠一と連絡を取っていた。
「昼間の動画を見て、こちらも繋がりを作りたいと思ていたからね。まさか母さんのアパートの店子だったなんてね。亡き父さんにも感謝だね。ただ、聞いている感じだと、そのゴーレムの柘榴さんは危険性のある存在のようだけど大丈夫かい?」
誠一は動画で柘榴の暴れっぷりを見ていたため、電話口から心配をした声音で確認をされる。
「柘榴さんは木葉ちゃんに対する鏡のような反応をするわ。彼女に好意を示せば好意を、悪意を持てば排除を、とね。焦らずゆっくりと良好な関係を築いて行くことが重要よ。もう1人娘が増えたと思って接しなさい」
「そうか…。母さんの人を見る目は信頼しているよ。俺も時間を作って会いに行くべきかな」
「そうね。柘榴さんの性格からいって私が間に立った方がよさそうね。紹介をするから、その時は時間を作ってちょうだい」
「それは助かるね。分かったよ。では、母さんからの連絡を待つことにするとしようか」
麗華の人を見る目には信頼と実績があるので、母がそういうのならば単独で会うよりも言われた通りにした方がいいのであろうと誠一は納得した。
「ええ、ええ、お願いね。ところで、舞姫はどうしているのかしら?」
「ああ、今は新宿ダンジョンを探索中らしい。下層を探索するらしいから、しばらくは地上に出てこないんじゃないかな」
「そうなのね。それであれば探索から帰った時に、暴走しないように手を打っておかないとね」
「ああ……そうだね。舞姫の性格だと柘榴さんとは合わなそうだから、例の動画を見たら「成敗する」って突撃しかねないな」
「そうね……」
先に起こりえる問題に思い至り、母子はそろってため息を吐いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
足立区のとある高層ビルの1フロアで、豪華なソファに腰を掛けた男がイラついた雰囲気を出していた。
金髪を逆立てて、190cmはありそうな身長と粗暴そうな面持ちをした男である。
「……藤堂はまだ戻って来やがらねえのかっ!たかが、ガキと人形を拉致って来るだけだろうが!」
男、<黒竜の牙>ギルドマスターの鮫羅木武雄は吠えたて、拳を振り下ろしソファの手すりを砕いた。
藤堂からの連絡でギルド内での騒動を聞き、エリクサーだけでも莫大な利益をもたらすであろうし、まだ他にも貴重な品々を持ち合わせているだろうと当たりをつけ、無理矢理にでも木葉達を連れてくるように指示を出した。
しかし、成功の報告がないどころか、藤堂からの連絡が途絶えたことに不吉な予感を感じて苛立ちを見せるようになってきていた。
「藤堂のやつへま打って捕まりやがったか?多少変わり種とはいえ、ゴーレムごときに藤堂がやられるとも思えねぇが。とすれば、ギルドから護衛でもついていたか?いや、それならギルドが何らかの動きを見せるはずだ。くそがっ、何だってんだ」
藤堂達が既にこの世にいないとは、藤堂たちの実力からして思い当たらない鮫羅木は、状況が分からないことに怒りを募らせ、やがてもう1人のサブマスター、鮫羅木の側近である片山を呼び出した。
間を置かず鮫羅木の部屋に来た片山に、鮫羅木は木葉と柘榴の画像を見せる。
「こいつらを連れて来いと命じていた藤堂と連絡がつかねぇ。何人か使ってこいつらの周りと、藤堂の行方を調べさせろ」
「はっ。承知しました。しかし、あの藤堂が連絡を絶つとは……ただならぬ事態です」
「ただし、今は手は出すなよ。いやな予感がしやがる」
「畏まりました。調査・隠密に優れた者たちを向かわせます」
そう言うと片山は一礼して部屋を出て行った。
「くそがっ!」
粗暴な外見と裏腹に鮫羅木は状況がつかめない不気味さを警戒して、襲撃ではなく調査を命じた。それでも、苛立ちが治まらず悪態が口を出る。
鮫羅木は酒をあおり目を閉じて、己の中に浮かぶ嫌な予感を忘れることにした。
被造物的人外なので、主となったものを中心としたものの考え方をしています。性格と自己肯定感は自前。
新キャラさんや名前だけ出てる人もいますが、出番はもう少し先です。
口も性格も悪い柘榴ですが、健や麗華、鷹柳といった面々には割と好意的な方なのです。あれでも。
木葉に好意的、或いは役に立つ面々には
これから、周囲の人々に性格が丸くなるかは木葉次第です。