第105話 ゴーレム、感傷に浸る
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鷹柳が帰った後の咲乃家リビングで柘榴は先ほど語ったかつての主を思い出していた。
その主は生き残った人々の憎悪を背負い戦うことを選び、己の人生を燃やして英雄と呼ばれた青年だった。
柘榴は青年であった英雄が本懐を遂げて逝くときまで見届けた。
しかし、その死に顔は果たして満ち足りた人生を送った者の顔であっただろうか?
他者の恨み辛みをよりどころにした人生は彼の者を幸せにしたであろうか?
人ならざる柘榴にはその心を真に理解できているとは言えないかもしれないが、今の主には自身の為の人生を送って欲しいと思う。
ついでに長く主で遊びたいとも思った。
その為であれば如何様なこともする所存だ。
世界も掻き回すし、邪魔者は排除するし、主を取り巻く者達には喜びを与える。
主の満ち足りた笑顔を想像すると不意に笑みを浮かべそうになる。
それはいけない。自然に笑みがこぼれるなど………それは、ゴーレムらしい挙動ではないから。
自身の擬似人格の中枢にあるソレを鎮めて、鷹柳に渡す予定の仕様書を作成に掛かる。
「やはり強い意志を持つ者には要注意ですね。彼女が好んでいたから、その創造物はみな惹かれてしまう。私は、ーーーー」
どちらの×××も惹かれてしまう。
その言葉は誰にも聞かれることなく消えていく。
記憶から引き出されたかつての主を懐かしく思う気持ちを再び仕舞い込み、今の主の驚く姿を思い浮かべて手早く仕様書を仕上げて指定された通信方法で送る。
「これでいいでしょう。後は急激な成長をさせてしまいましたし、これからの為にも今のマスター達に合わせた装備が必要ですね。………いつか私の作るものでは役不足になる時が来るのでしょうか?」
ふと呟いて目を細めると、軽く首を振って気分を変える。
「いけませんね。感傷など、至高は過去などいくら背負おうとも変わることなき足取りで前に進む事が出来るものですね!全く誰にも見られなくて良かったです」
独り言ちて立ち上がり、ふと視線を感じてリビングの入口に顔を向けると、気まずそうな健と目が合った。
「あーーーーー、ただいま?」
「ええ、おかえりなさい」
笑みを浮かべて一歩踏み出したところで健が全力で逃げ出したが速攻で捕まった。
「見てない……見てないからっ!一人で勝手に凹んでた柘榴なんて知らないっ」
「健、遠野ダンジョンにはドッペルゲンガーという魔物がいるそうですよ」
「いやーーーーーーーーーっ!」
口を滑らせた健が命の危機を感じて、必死の説得をしたが5円玉と糸をもって説得された。
解放されたときには「オラ、タケル」という言葉しか発することが出来ない姿になっていたという。
自分を至高と定める柘榴には見せてもよい醜態と、見せてはいけない醜態がある。例え人がどう思おうとも先ほどの姿を見せたことは柘榴の中では恥であった。
「オラ、タケル」と笑顔で繰り返している健を見て、記憶がよみがえる。
「彼の英雄も怨念だけを背負ってはいませんでしたね。妻を娶り子を育み、逝ったときには笑みを浮かべていたのでしたね」
その後木葉が帰ってくると硬直した笑顔で「オラ、タケル」と繰り返している弟にビビりまくり、あっさりと犯人を特定して元に戻させた後は滾々とお説教をした。
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新学年最初の週末、木葉達は新ジョブ及び新装備の馴らしでいつもの名古屋第2ダンジョンに来ていた。
「それじゃあ着替えてくるからちょっと待っててね」
期待に輝いた顔で更衣室に向かう4人を見送って柘榴と濡鴉がしばらく黙って立っていると、弾んだ声を上げながら木葉達3人と肩を落とした1人が戻ってきた。
新しい装備はもちろんその外見も一新されていた。
木葉は以前の斥候用とは違い、巨人の革から作られた軽鎧を身に着けていた。ジョブが前衛アタッカー寄りになったことで防御機能を強化した格好だ。しかし、柘榴が作る以上は主に野暮ったい装備など着せないとばかりに鎧下のシャツはYシャツで下はレギンスを履いているがスカートになっており、鎧を装備した女子高生という見た目だ。籠手やグリーブも巨人の革製だが左手だけは金属製で前腕外部側が広がっており、盾のように使えるようになっている。剣は以前渡されたショートソードーーーエヴァンジェリという名の魔剣だ。
依和那は木葉よりも動きを阻害しないことを目的に作られており、木葉と同じような制服っぽいデザインの服の上に最低限の胸当てと厚めのベルトがついている程度だ。回避方面にスキルが充実している依和那にはとにかく物理は躱せとばかりに紙装甲だが、上腕部のワッペンが魔法装備となっており魔法障壁を張る仕様になっている。剣も新たに剣身を分身させて飛ばすことが出来る魔剣ソハヤノツルギが預けられていた。
セレスタの装備も大きく変わった。若草色のノースリーブ上着にショートパンツ。その上に巫女衣装のような蔦模様の羽織と比礼、その中では脚力増加が込められたアーミーブーツだけが異質である。一応接近戦も熟せる様に訓練をしていたりするが、基本遠距離なので装甲は薄く精霊感応を高める装備が加わっている。武器は今まで通りシェキナーとタスラムであるが、制限を緩めたので威力は増加している。
都斗は………都斗は白いシャツと黒のタイトスカート………までは良かったが、上半身の各所を締める謎のベルトに胸部が強調されて、その上に胸が収まらない黒のインバネスコート。ヨ〇ハのような眼帯に三角帽、靴は編み上げブーツでとても厨二病感が漂っていた。律儀にきちんと装備をしているがとても悲しそうだ。周囲にいた探索者達もひそひそ噂しながら写メを撮っている。
「シテ………コロシテ……」
虚ろな声で都斗が声を発するが、同情しているのは依和那だけで厨二病罹患中の木葉は憧れの目で見ているし、異世界でセンスを磨かれたセレスタは特になんとも思っていない。
「柘榴、こう……ね、もうちょっと何とかしてあげられない?」
見かねた依和那がフォローに入って何とか厨二病感の大半を占める三角帽と眼帯だけ髪飾りと瞳を擬態眼鏡に交換してもらい、都斗は猛烈に依和那に感謝した。
全員が可愛さ或いは妖艶さのある装備になり、強い装備はドロップ頼りの地球では何とか工夫して見た目をよくしているがちぐはぐさが拭いきれない装備をしている探索者達、特に女性は羨ましそうに木葉達を眺めていた。
「今度こそよろしいですね。皆さんはもう下層で通用する力を手に入れていますので、出来ればオークロードかアースドラゴンあたりのお肉をドロップさせてください。とても美味しい………らしいですよ」
「伝聞なのでスね。でも確かに、わたくしも元の世界ではそう聞いたことがアりますわ」
「ごくり。ドロップのお肉は確定ドロップじゃないから安定供給が出来ず、基本高級食材っす。わっちも食べたことがないっす」
柘榴と初めて出会ったときにオピオタウロスの肉を手に入れていたが生活費のために売却していたので、みんな魔物の食材を食べたことがない。育ち盛りの少女達は美味しいというお肉に興味津々になっていたが、4人の中で最も堅実な依和那がはっと正気に戻る。
「でも、本当にわたし達が下層の魔物を倒せるのかしら?」
「複数同時に相手取るのはまだ厳しいものがありますが、1体に全員で掛かれば倒せますよ。他のは私が片付けましょう」
「さあ、行きましょうか」
美味しいお肉の前に依和那も落ちた。依和那もジャンクとスイーツが割と好みであるがお肉も好きなのだ。
受付をする際に4人全員がB級、木葉に至っては(限定S級)と追記がされており全員の目が容疑者に向けられたが、その場は食欲が勝り見逃されることとなった。
そうして百花斉放はお肉を狩りがてら下層で新装備と新スキルの性能確認を行ったのだった。
食欲に支配されて完全に目的が入れ替わっていたことは誰も口にしなかった。
装備は以前から合間を縫って作成していました。
木葉は方向性が変わったので作り直したらしいですが。




