第104話 ゴーレム、売り込む
ご来店いただき誠にありがとうございます。
木葉が学校に向かうと柘榴も行動を開始した。
現在は本体の修理を終えて既にいつもの姿になっている。因みに胴体は表面だけの損傷で済んだが右腕だけは予備と交換することになった。
今日は来客の予定があるので家事をいつもより手早く済ませて、人待ちの間に濡鴉の点検とメンテナンスを行う。
「巨大化に合わせて装甲にしたアダマンタイトまで大きくなるのですね。これは既に濡鴉の身体として取り込まれているのでしょうか?」
「wood?」
動作や損傷などをチェックして首を傾げながら柘榴が疑問を口に出すと、「なんでだろ?」とでも言いたげに首を傾げる。本ゴーレムにも理解できていないようだ。
「植物なら同化しても不思議ではありませんが………謎ですね?」
2体して首を捻るが答えは出ないので保留にしてスヴァリンの改造に移る。
「とはいえ神器の改造は正直に言うと私の手に余るのですが、構想は出来ました。やはり創作物、ロボットはとてもいいものです」
「wood……」
創作と現実をごっちゃにするなよとでも言いたげな目で柘榴をじっと見るが、既に作業を始めてしまってこちらを見ないので諦めた。
しばらくのスヴァリンの改造作業をしているとインターホンが来客を告げる。
インターホンの画面に割とよく見る眼鏡が映っていたので玄関のカギを開けてリビングに招く。
「なんか僕のことを眼鏡って呼んでいたりしますか?」
「気のせいでしょう」
何かを察した鷹柳が尋ねるが、表情一つ変えず断定する。心の中でしか呼んでいないので嘘ではない。
「………まあ、いいです」
白状しそうにはない澄まし顔の柘榴を問い詰めることを諦めた鷹柳は居住まいを正して、持参のノートパソコンで会議アプリを立ち上げる。
「今日は相談とお願いがあって参りました。本部長の剣崎に加えて警察庁次長の豪田氏と陸上自衛隊陸将の賀茂川氏が遠隔で同席いたします」
鷹柳の紹介を聞いた柘榴の眼が一瞬で氷点下に冷え込んだ。
「それはまた、ふんぞり返っていることが役目の立場の者が何の用ですか?」
「いや、普通に失礼ですねっ!?」
鷹柳からすれば逃げ出したいとすら思う面々にいつもの調子で毒舌をかますゴーレムに冷や汗を滝のように流しながらツッコむ。
「ふん。聞きしに勝る無礼な魔物だな」
「くくっ。これは頼もしいじゃないか」
額に青筋を立てた豪田と口の端をぴくぴくさせた賀茂川が皮肉を口にするが柘榴は歯牙にもかけない。はなっから険悪な空気に剣崎も頭を抱えており、鷹柳は顔面蒼白で倒れそうになっている。
「はあっ。……何かあったのか?」
流石に初対面で意味もなく敵対的になるような行動は見たことがなかった為、剣崎が柘榴に尋ねると不快そうに話し始めた。
「今でも定期的に湧くのですが、私を、或いは私の持つ宝物庫の中身を手に入れようとしている政治屋がいました。その手先になっていたのがそちらの者達の配下です」
剣崎の脳裏に一夜で破滅したとある政治家の顔が浮かび、やはりこいつが原因だったかと納得する。
そして、柘榴の糾弾を受けた豪田と賀茂川は一転気まずそうな様子になる。2人は欲望に駆られた件の政治家を内心で罵るとともに、当時の対応を誤ったことを反省する。
「……その件はすまなかった。こちらの者が迷惑を掛けた」
「儂の方も統制が出来ていなくて申し訳ないことをしたな」
「ええ、貴方達の組織が画策したことではないので、これくらいでいいでしょう」
2人が頭を下げたことで視線の温度を戻した柘榴が話をする為に画面と向き合った。
「感謝する」
「当の者達を殺さなかったことにも感謝する」
「それで探索者のトップと治安維持組織の重鎮に防衛組織の将校が揃って相談となると、私の弟妹を従えた者が現れたことですか?それとも地上に魔物が現れていることですか?」
「両方だ。しかし、どちらかといえば魔物の方だな」
柘榴が用件を予測していたことには特に驚くこともなく剣崎が重い口調で答える。
「君が名古屋第1ダンジョンで戦ったンガグイとやらは人間に寄生して地上で人間を捕食していたと言っていただろう。あの動画を見た後に捜査をした結果、行方不明者の中には捕食されたと思しき者達がいた。皮しか残ってなかったからな」
「そちらは被害者には気の毒だが元凶が討伐されたことで、それ自体の優先順位は低いものとなっている。しかし、問題はあ奴と同等のことが出来る者がいた場合だ」
淡々と事実を告げる豪田とは反対に憂鬱そうに賀茂川は懸念を口にする。人の中に魔物が紛れ込むことを懸念するのは当然のことだが、最大の問題は解決手段がないことだ。現状、人類で対抗できる力が目の前のゴーレムとその主、そして何体かの同系機しかいない。圧倒的に手が足りない。
「あれ位の力の持ち主が出てきたらどうすることも出来ませんよ。諦めなさい」
「そういう訳にはいかんのは分かっとるだろう?」
強い光を目に宿してにやりとした賀茂川と同様に剣崎と豪田も不退の意思を込めて柘榴を見る。この世界ではダンジョンという驚異とそこから付随する犯罪と戦ってきた組織の重鎮達だ。現実を受け止めた上で最善の手段を模索するために邪悪なゴーレムの手も借りる所存である。
その意思を見て取った柘榴は内心で称賛しながらにやりと口の端を持ち上げて見せた。
「よい心がけです。それではいい商品がありますが、いくらでお買い上げいただけますか?」
さすが邪悪。ひとの弱みに付け込む邪悪。しかし、一泊置いてトーンを下げて言葉を続ける。
「とはいうものの、超越者に対抗できるようなものではないのですがね。田中から聞いているでしょう?レフトナイトとライトナイトを。レギオンゴーレムシリーズのナイトのユニットです」
「お前さんより強かった相手を足止めしてたっていうゴーレムか。シリーズってことは他にもいるのか?」
思い当たった剣崎が興味を惹かれて聞く。川崎ダンジョンの1件を田中は報告書にして提出していた。おざなりな報告しかしていない柘榴と違ってきちんと報告書を提出している田中はさすがである。
「プロダクトポーンのレベル300からリードキングのレベル500迄からなるゴーレムの軍勢です。ナイトはレベルは420です。ジゴイトが重戦士タイプだったので時間稼ぎ位は出来たという訳ですね」
「どれだけの数が用意できる?」
現代の探索者よりはるかに上回る戦力を持つと聞いて具体的な運用案を頭の中でまとめる為に更に情報を求める。
「殆どはポーンですが私の中には合計で100万体のストックがあります」
その数を聞いて男たちの顔が戦慄で固まった。
「ははっ。お前は世界征服でもするつもりか?」
豪田は危険物を見る目で柘榴を捉えて皮肉を口にするが、鼻で嗤われた。
「マスターが望むのならばそうしますが?これは元々以前の主の敵と戦うために造ったゴーレムです。その時の主はダンジョンに敗北して魔物に蹂躙されつくした後の世界で僅かに残った人類の王でした。結局その世界には私以外の弟妹がいなかったので量を揃えることで対抗しました」
「それが今の我々の役に立つかもしれないという事か。お前の以前の主に感謝をすべきだな」
「とはいえ、それほどの物を買い上げるとなると天文学的な価格になるぞ。それに日本だけに配備すれば世界から非難が集まるだろう」
「そうだな。すまんが一度持ち帰らせてくれ。あと、仕様書をくれないか?」
「分かりました。作ったら鷹柳に渡します」
「うえ!?」
自身が蚊帳の外に置かれて心が落ち着いていた鷹柳に突如試練が降りかかり変な声が出た。しかし、画面の向こうの方々が首肯するので中継しなければいけないようで肩を落としていた。
「ふふん。価格に関してはある条件を呑めば勉強してあげましょう」
「ほう?言ってみろ」
「それはーーーー」
「いいだろう。正直に言えば、むしろ願ってもないことだ」
柘榴の出した条件は相手方としても大いにメリットのある内容であったので、剣崎は即答で是を返した。その答えに満足そうに頷くとサービスがてら自身の持つ情報を開示する。
「あと、地上の魔力濃度が極僅かですが上がっています。どこかに未発見のダンジョンがあるのではないでしょうか。地上での魔物の目撃例と関係あるかもしれません」
「そうか。情報感謝する。目撃情報のある付近を捜索させているから、そちらも念頭に入れさせる」
魔物の目撃例に関しては大凡目星がついていた。なので対応は現状行っていることの延長で指示を予定する。
「最後だが、お前の弟妹は敵対する可能性はあるか?」
基本現代はダンジョンという共通の敵対者があるせいで人類間の戦争は少ないが、ないわけではない。その為、あの強大な力が自国に向けられる可能性があるかは把握が必要だった。
「私達は主が第一ですので、主次第では弟妹であっても倒します。それは弟妹達も同じです」
やはり人とは違うのだなと思いながらも、あの力の向かう先を考えて男達の眉間のしわが深くなった。




