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第100話 ゴーレムの主、クラスチェンジする

ご来店いただき誠にありがとうございます。

「「あっ!?」」


 取り敢えずお触り禁止状態の柘榴は置いておいて、木葉のベルトを直していた2人が短い声を上げて動きを止める。


「あの2人も来たっすかね」


「どうなるのでしょウか?」


 仲間達は自身にしか見えない選択肢を見ている木葉と依和那に期待に満ちた目を向ける。


(【愛玩犬】ってなに?あたし完全に人間卒業を勧められてるの!?これは無しだよ。絶対に!………あとの【隠密】は斥候の上級職だね。でも、【審判】と【未生勇者】ってなんだろ?)


 自身に与えられた選択肢に木葉は悩む。4つも選択肢が現れて今までの前例があるジョブが【隠密】だけなのだ。ちらりと壁から生えているメイドの足に視線を向けるが動き出す様子はない。


(ああ~~~。柘榴のばかぁ。何で肝心な時に壁に埋まってるの!!って………あたしのせいだよっ!)


 困って視線を彷徨わせると依和那はもうクラスチェンジを終えているようであったが、どことなく浮かない表情をしている気がした。そういえばここには柘榴と同じ神造ゴーレムがもう1体居たとヨダに縋るような眼差しを向ける。


「ん?俺はお姉ちゃんみたいに知識を蓄えてないから力にはなれんぞ。まあ、ひとつ助言するなら………困ったら勘に任せろ。お姉ちゃんの主ならその方がいいだろ」


 ヨダはあっけらかんと力になれないと宣言する。ハリスは知識はありそうだがなんか解剖されそうだから省く。


(勘………かぁ。この状況なら普通は【隠密】だよね。う~ん………どうしようかな………よし決めた。これにするっ!)


 自身の新たなジョブを決めた木葉はなんとなく体に力が満ちるのを感じた。


「ふわぁ。これであたしも上級職かあ」


「おめでとっ、木葉。これでご褒美条件も達成ね」


「………依和那、大丈夫?」


「……なにが?」


「……ううん。何でもないっ」


 祝ってくれた依和那の様子がどことなくおかしいと感じた木葉が尋ねるが不思議そうな顔で返されて気のせいかと考え直した。


「それで木葉はどんなジョブになったのかしら?」


「あ、ええっと。それはね………」


「至高っ!とうっ!」


 依和那に問われた木葉が答えようとしたその時、最近よく聞くようになったフレーズが広間に響いた。


 その声に皆の視線が一斉にある1点に向けられる。


 その声の向けられた先にある柘榴の下半身ーーースカートが大きく膨らみ何かが飛び出した。


「漏らしたっ!?」


「だれがう〇こですかっ!」


 飛び出してきた柘榴(ざくろちゃんぼでー)が排泄物呼ばわりされたことに文句を言う。


「柘榴の体はまた修理ですカ?」


「たった2日で修理に逆戻りっすか。幻想殺しな主人公みたいっすね。……はっ」


 心配そうなセレスタと対照的に笑っていた都斗は殺気に気づき両手の人差し指を立てて飛び掛かる構えを見せていた柘榴から胸を押さえて距離を取る。


 いつもの漫才をしている柘榴に近寄り木葉は思い切り頭を下げた。


「マスター?」


「ごめんなさいっ!あたしが柘榴に怪我をさせちゃった!」


「………そんなことはどうでもいいのです。それより、マスターッ!クラスチェンジはまだですよねっ?」


「えぇ…………」


 木葉の謝罪も自身が吹き飛ばされたこともどうでもいいと言わんばかりに、木葉に跳びつきガッシガッシと揺さぶる柘榴に木葉はやや引き気味になる。


「あ、うん。ええと、済ませたよ」


「そ、そんな………」


 木葉の答えにショックを受けたようにふらふらと後ずさると両手をついて項垂れる。


「お……」


「お?」


「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん。マスターの一大イベントを見逃すなんてぇっ!あんまりですよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん」


 絶望の表情で咽び泣く柘榴に、流石に気の毒そうな目をその場にいた面々は向ける。


「いや、でも、あれ傍目にはぼーっとしてるだけだろ」


「そうよね~。特に見応えのあるものでもなかったわ」


 ヤン吉君とちょい美がこっそりと話しているのを聞きとがめて、きっと視線を向ける。


「そこっ!そういう事ではありません!マスターがすくすく成長するのを見守ることが私の使命なのです!マスターが生まれたときも、初めてハイハイしたときも、初めてざくろって呼んでくれた時も………」


「………捏造だっ!?出会って半年も経ってないよっ!?」


 ぼおっと聞いていたが、存在しない記憶が柘榴の口から語られて怖ぁっと思いながらツッコむ。


「いちゃいちゃしていたと思ったら親目線になってるし。立ち位置が忙しいのぉ」


「アンさん達はお子さんはいないんですか?」


「儂のとこは孫までいるわ。マスとピシはまだおらんの。そんでハリスはあの通りじゃ」


 アンの指さした先でジョブを聞き出そうと迫って柘榴に撃退されているハリスを見てモブ彦達は察した。


「「ああ~~」」


 木葉達がわちゃわちゃしている間に、こちらは和やかに仲良くなっていた。


「さて大声で泣いてすっきりしましたので、メインクエストのご褒美といきましょうか。ああ、そこのウェイヤス君を倒せばサブクエストの素材も手に入りますよ」


「こいつは鬼か悪魔か柱の男だわ」


「ゴーレムです。あと自認は女です。……マスターの望みなら生やしても構いませんが」


「………今のままの柘榴が素敵だよ」


 目が死んでいる木葉の言葉にわざとらしく頬に手を当てていやんいやんとする。


「いいから早く進めてくれ。興味が尽きないんだ。さあ、早く!」


 ハリスは待ちきれなくて脇道に逸れ始めた会話を強引に引き戻す。


「分かりましたから顔を離してください」


 興奮して口から唾が飛んできて嫌そうに柘榴は押しのけると、咳ばらいをして両手を広げる。


「魔術の知識上級と上位ドラゴン素材装備と固定スキルオーブ(空間魔法)、そして錬金術レシピ集の中から一つ。さあマスター、選択の時間です」


「「「「おおお~~~~~っ!!」」」」


 百花斉放以外の面々は初めて聞くメインクエスト第3弾のご褒美に歓声を上げる。


「むむ~~~う」


 まだ先だと思ってあまり検討していなかった木葉は腕組して難しい顔をして唸る。


「多分魔術の知識と錬金術レシピ集で迷ってるっすよね」


「十中八九そうね。あの子の性格なら」


「ふむ」


 都斗と依和那の会話を聞いてハリスは軽く手を上げて皆の注意を引くと口を開く。


「質問だZAKURO、見送った物は次回の報酬に入ることはあるか?」


「それがマスターのモチベーションになるなら可能です。もともと全て私の独断で決めていますので」


「と、いうことだ」


「?」


 話を振られた木葉はキョトンとした顔をしてハリスを見返す。


「ぶふっ」


「直截に言わなければ駄目か。今の探索者の習熟度では上級魔術は生かせない。探索者達の生存率を上げるなら道具類を充実させるべきだ。故に君達の強化に充てないのであれば錬金術レシピ集を選ぶといい」


「なるほどっ!」


 一から十まで説明を受けて理解した木葉が瞳を輝かせる。


「柘榴、錬金術レシピ集をお願い」


「分かりました」


 了承を告げた柘榴は分厚い本を取り出して木葉に手渡す。


「これにポーションとかの魔法薬の作り方が載ってるのかぁ。………うんっ?」


ばたっ


「木葉っ!?」


 本を開いて目を通したところで崩れ落ちた木葉を慌てて抱き起す。流石に柘榴が何かをしたとは思わないが本に何か仕掛けられているのかと、地面に落ちて開いているページに目を落としたら全てを理解できた。


「すやぁ」


 魔術の知識とは違ってレシピ集の中身は文字と記号、素材の絵がみっちり描かれた本であった。木葉はラノベでもない難しい本に脳をやられてスリープモードに入っていたのだ。


「木葉………」


 依和那は穴があったら入りたくなった。


「はぁ。クラスチェンジして脳の働きも強化されているはずなのですが。次の課題は帰ってからにしましょうか。依和那達のジョブについてもその時に」


「分かったわ」


 配信者達はこの場ではジョブもお題も聞けないことに少しがっかりしたが、情報管理の大切さは弁えているので流石に食い下がったりはしなかった。


「とりあえず、儂の部屋にでも行こうかの」


 ひと段落ついたと場の空気を読んだウェイヤスが声を掛けた。

木葉の知能がすくすくと低下中。

新ジョブとスキルは次話からです。

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