第99話 ゴーレムの主、勇気を握る
ご来店いただき誠にありがとうございます。
皆の見ている前で木葉のポニーテールが解けて白く染まり頭頂部は獣の耳のように持ち上がっている。心なしか犬歯が伸びて、手足には白い幻炎が纏わりついている。
「………………………………………………」
「成功………したの?」
微動だにしない親友の姿に依和那が疑念を口にする。
しかし、
「いえ、これは………」
「ルゥラァァァァァァァァア」
答えを口にする前に木葉が目の前のンガグイと柘榴に向かって白い炎を噴き上げながら飛び掛かる。
「ギィギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!」
意識の大部分を持つ群体を灼かれてンガグイが悲鳴を上げる。しかし、その炎に灼かれるのはンガグイだけではない。
「柘榴っ!」「柘榴サんっ!」「柘榴!」
レージングルを持つ腕から炎に巻かれて表面の流体金属が溶解する。さらに腕を伝ってその身をさらに焦がしていく。
しかし、柘榴はただ主を静かに見詰めていた。
「ルゥ?ルゥゥゥ?」
じっと見詰める紅い瞳に木葉は戸惑ったような声を出し動きを止める。
「ふっ。マスター、めっ………ですよ」
白い炎に灼かれる顔で口を笑みの形に歪ませながら木葉に伝える。
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「柘榴っ!!」
ジンクロの時とは違い意識を失っていなかった木葉は、己が柘榴を傷つけている場面を見せられて悲痛な声を上げていた。
「どうして止めてくれないのっ!?あたしを倒してよ!!あたしには無理だったんだよぉ!!」
ただただ気が狂いそうになるような光景を見せつけられても叫ぶことしか出来ない自分に絶望する。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
ただ嘆き目を逸らそうとするも身体の主導権を奪われているため、強制的に自身が柘榴を傷つける場面を見せつけられていると柘榴と目が合った気がした。
「えっ?」
「ふっ。マスター、めっ………ですよ」
「あっ」
それは戦いを始める前に言っていたことだが、何だか諦めそうになっている自分に言っているようにも聞こえた。
「柘榴は信じて待ってくれている。でも……うっ」
何とかしなくちゃと思うが自身を呑みこんだ狼を思い出して尻込みしてしまう。
「こんなことしている間にも……どうしよう、どうすれば…………」
おたおたしながら精神体の視線を彷徨わせていると握りこんだ拳が目に入った。
「あ…………」
ふと父親がまだ居たころに魔物と戦うことが怖くないのか聞いたことがあった。
「あの時、たしか……」
『そりゃ怖いさ。初めて戦った時は泣いたし、今でも強い敵と戦う時は怖い。でも俺達はダンジョンから魔物が溢れた時代を、当時は子供だったが覚えているからなぁ。お母さんや木葉に健、大切な人達が俺の背にいるんだという想いで勇気を握るんだ。こうぎゅっとな』
開いた手を握って見せて笑っていた父親を思い出して、自身も同じように家族や友達、助けてくれていた人達、それに従魔たちを想ってその手をぎゅっと握ってみる。
「うん。うんっ!今度はあたしが!」
そう言うと木葉は握った拳を高々と振り上げる。先ほどまでとは違う精神世界の支配権を奪い返された狼は再び木葉の前に姿を現す。
うなりを上げる狼に向かって踏み込むと大きく跳びあがる。そして、握ったままの拳を狼の脳天に叩きつけた。
「滅っ!!」
「ルゥルェッ!?」
なんだか「違くねっ!?」と言っているようにも聞こえる悲鳴を上げて、狼顔ながらも理不尽に納得いかなそうな表情をしながら木葉に吸い込まれていく。
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「さすがは至高の私のマスターです」
木葉から無秩序に吹き荒れていた魔力が穏やかになり、その眼に理性の色が戻ってきたことを確信した柘榴は嬉しそうに誇る。
「監獄解放・心意接続ー焔忌狼シリウス」
シリウスの能力を掌握した木葉が最後のキーワードを唱えると顔つきから獣性が薄れる代わりに尾てい骨あたりから尻尾のような白炎が生えた。
「うくっ。これ……キツ。5秒か。うん。確かにそれ以上無理かも」
残り5秒で決着を着けるべく、意識をンガグイに向けようとすると弾んだ声が聞こえて来た。
「っ!このまま進化すれば本当にポメラニアンになる日も!」
「来ないからねっ!」
狼のものであるが木葉に耳としっぽが生えると犬のようで柘榴が喜色を浮かべるも食い気味に否定する。貴重な時間を浪費した。
4秒
しょうもないことで時間を使ってしまったが、戦い前に受け取った新しい武器ーーーナイフより刃渡りが長めなショートソードを抜いて刺突の構えを取る。
3秒
「オノレラニチカヅクナァーーーーッ!」
ヨダや柘榴の攻撃で溜めた運動エネルギーを触手の口を開いて全方位に放とうとするが、それも予測していたヨダが全ての口の向きをンガグイ自身に向けて撃たせる。
「ギャァアアアアアアッ」
自身で放った衝撃波を吸収できずまともに受けたンガグイがブチブチと破片をまき散らし悲鳴を上げる。
2秒
「たぁあああああああああっ!レイジングノヴァァァァァァァッ!!」
「ギャアアアアアアアアアッ」
拘束されたンガグイは白焔を噴き出す刃を群体をばらけさせて躱すことが出来ず、肉を灼かれながら突き入れられた。
1秒
そして、剣を通して放たれるスキルは轟焔をまき散らしながらンガグイを起点に爆発する。
「おおおっ!?こいつはヤバいなっ!!」
「んにゃああああああああああああっ」
「マスターの間抜けぇっ!」
0秒
ヨダが神速で濡鴉の元に行きスヴァリンを取り上げると、仲間達の前で最大威力で冷気を放ち皆を爆発から守る。
自身の能力による爆発を至近距離から受けて吹き飛ばされた木葉はシリウスの特性であるプラズマの状態になっていたので爆発で飛ばされただけだ。しかし、変身が解除された状態でスヴァリンで生み出した氷の壁で後頭部を打って悶絶していた。
そして柘榴はンガグイを拘束していたせいで爆発を躱すことが出来ずに、まともに衝撃を受けて吹き飛ばされた挙句壁に上半身が突き刺さって下半身が壁と垂直に伸びていた。今回は木葉の為に頑張っていたのにさすがに哀れな姿であった。
ヨダが冷気を解除してスヴァリンを濡鴉に返すと、眼前には絶句するような光景が広がっていた。ンガグイの姿はどこにもなく、居たと思しき場所を中心にすり鉢状に抉れており天井まで板部分を消し飛ばした挙句ガラス状になっていた。
「これは凄まじいな。これが超越者という存在の持つ力か………」
「ちょっと木葉、頭は大丈夫?」
「きゃんきゃんきゃん、くぅ~~~ん」
「駄目なようだな………」
「柘榴は大丈夫でショうか?」
思い思いに皆が眼前の光景に驚いたり、犬化した親友を心配したり、腰を抜かしていたりしていたがセレスタの言葉にはっとなり、その姿を探し始めるとすぐに壁から生えてる下半身が見つかった。
「あれは大丈夫なのかの?」
「柘榴っ!ああっあんな姿に!!」
「おっと火傷するから今は触らない方がいいぜ。お姉ちゃんは、まあ大丈夫だろ。頑丈さが取り柄のゴーレムだからな」
人に戻った木葉が柘榴に駆け寄ろうとするのをヨダが腰を抱き持ち上げて阻止する。神珍鉄が融解するほどの熱で炙られていたのだから人が触ったら火傷どころでは済まないためである。
「直前まであんなにキメ顔だったのに、流石に哀れっすね」
「今回ばかりは同意するわ」
普段涼し気に物事をこなし偉そうで人をおちょくる時だけ楽しそうな柘榴がピーンと壁から生えている姿に申し訳ないながらも誰からともなく笑いが漏れて広がっていった。木葉も申し訳なさそうな顔と笑いが堪えられない顔を往復して最終的に堪えきれずに噴き出した。と、その時、
すとんっ
「ちょっと木葉っ!?」
「え?」
炎尾が生えた際に破れたショートパンツとベルトが千切れて足元に落ち、丸く穴の開いた猫のワンポイントが入った下着が晒された。
「木葉ちゃん。パンツは犬じゃないのね」
「にゃあああああああああああっ!!」
広間に木葉の悲鳴が響いた。
SS含めて100話になりました。祝祝
これも読んでいただいている方々のおかげでここまで書くことが出来ました。
一応このエピソードで未熟な木葉が遥か格上を倒すことが出来るような、柘榴のチート性能を出せました。
とはいえ、一筋縄では扱えない能力ですので木葉はこれからも苦労しますけど。
シリアス苦手なのであまり重くしないようにしたいですね。
もう少し続きますのでお付き合いいただけましたら幸いです。
次話に2話位エピローグを書いて掲示板と木葉達の日常回を何話か書いたら、今章で不遇な目にあった彼女を再登場させる3章のラストエピソードに入る予定です。




