第1話 ゴーレム、起動する
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30年前に突如、地球の各地にダンジョンが生まれた。
当初は異なる空間へとつながる入口に人類は困惑したが、1人の無謀な人間が侵入するのを皮切りに次々と侵入していき、そのほとんどは帰ってこなかった。
しかし、帰ってきたわずかな人間によって、未知の資源や生物が確認されたことによって各国は軍やそれに類するものによって大規模な探索に乗り出した。
その結果、文明の発展に寄与する多くの発見があり、特に魔石と呼ばれることになるダンジョン内の生物ーー魔物ーーを倒した際に採取できるものは既存のあらゆるエネルギー源よりも効率の優れていた。
ただし、メリットばかりではなく、魔石を採取することができる魔物は既存の兵器ではほとんどダメージを与えることができず、多大な死傷者を出すこととなった。
しかし、人類も魔物を倒すことで身体能力が向上していることに気づき、あるものは魔法のような力を使えるようになった。
このことにより、探索も進むようになったが、ある時転機が訪れる。
軍によって進められる探索は、人員が限られていることによって効率の良いダンジョンに探索を集中させていた。しかし、ある日探索がされていないダンジョンから、魔物があふれ出し都市部を襲った。
探索をしたこともない民間人が魔物に対抗できるはずもなく、いくつかの都市が壊滅状態になったところで魔物を駆逐できたが、後にダンジョンブレイクと呼ばれたソレは全世界で数億人規模の被害を出すこととなった。
これに各国は頭を悩ませたが、各企業からの魔石需要に供給が追い付かないこともあり、民間にダンジョン探索を委託する国が現れ始めた。日本もその中の1国であった。
日本で民間にダンジョンが解放されて、ダンジョン探索組合、通称ギルドが発足した。
ダンジョンを探索する人間は探索者と呼ばれ、強者になれば英雄の扱いとなった。
そして、近年ではダンジョン内で配信を行うことができる機能が開発され、ダンジョン探索を配信する者が現れた。
それによって、探索者が増加することとなり、政府やギルドにとってメリットがあったが、デメリットもあった。
配信によって、ダンジョンがより身近な存在となったため、魔物の脅威、ひいてはダンジョンそのものを軽視する者たちが現れ始めた。
それは、特にダンジョンブレイクを経験していない若い世代に多く見られた。
今日も、またダンジョンを舐めた探索者と、それに付き合わされる探索者がダンジョンに入場していった。
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愛知県の名古屋第2ダンジョンの3層に5人組の男女の姿があった。
「ここまで楽勝じゃねーか。俺らこのままS級までイケちゃうんじゃねぇか」
そういって、鼻にピアスをしたガラの悪い男ーー波賀は下品に笑った。
それに追従するように、波賀と似たような雰囲気を持つ3人の男女も笑う。
現在地はダンジョンの上層3階に過ぎず、まだまだ初心者エリアに過ぎない。
5人組の装備も初心者装備のものでしかなかった。
4人は初心者エリアを蹂躙して、粋がっているに過ぎなかった。
5人組の最後の一人の少女は暗い顔をしてうつむいていた。
「んんーで、木葉ちゃんよ、例の隠し部屋ってのは何処にあるんだよ」
波賀が少女ーー咲乃木葉に威圧的に問いかけると、木葉はビクッとしてはがを見上げ口を開く。
「あ、あの、この先をもう少し行ったところです」
「あっそ、んじゃ案内ヨロ」
あまりに、木葉と波賀達4人で纏う雰囲気が違うが、それもそのはずで木葉が隠し部屋を発見し、ギルドに報告をしに向かう途中で波賀に独り言を聞きとがめられ案内させられることになったのだ。
隠し部屋の存在は、ギルドへの報告が義務ではないが通常より強力な魔物やトラップがあることが多いため、報告を推奨されている。その分見返りも大きいため、木葉は波賀に捕まったのだ。
「あの、やっぱりギルドに報告をした方が……」
「ああん」
「ひっ、い、いえなんでもないです」
木葉がギルドへの報告を勧めようとすると、波賀がねめつけて木葉を黙らせる。
そして、木葉に近づき肩に腕をまわすと、顔を近づけて言う。
「木葉ちゃんさぁ、ノリが悪いぜぇ。隠し部屋でお宝見つけられりゃあさぁ、俺ら勝ち組じゃんよ。お宝見つけたら木葉ちゃんにも1割くらい分けてやることを考えてやんぜぇ」
明らかに木葉に分け前を与えようなどと考えていないようなニヤニヤした笑いで言われ、木葉はますます怯えたように首をすくめる。
他のもの達も同様に、ニヤニヤと笑っており、木葉が怯える様を楽しんでいるようであった。
周りを波賀一味に囲まれている木葉は、逃げることも助けを呼ぶことも出来ずに案内するしかなかった。
3層を進みやがて、ただの壁しかない場所で立ち止まる。
「おいっ。なんでこんな場所で止まってんだぁ」
「ひぃっ、こ、こ、ここです。ここが隠し部屋の前です。この壁に魔力を流すと部屋が出ます」
「そんじゃ、やれよ」
「……はい」
せめて隠し部屋に案内して終わりにならないかという淡い希望を砕かれて、木葉はダンジョン壁に向かって生活魔法を使い魔力を流す。
すると壁に血管のように魔力の筋が走り、壁が音を立てて開き、奥に部屋が現れる。
「おおっ、マジもんの隠し部屋じゃねーか。日頃の行いの賜物だねぇ」
明らかに日頃の行いが良くなさそうな者が言っていいセリフではない妄言を述べ、部屋に駆け込み、残りの3人もそれに続いた。
しかし、部屋の中は伽藍としており、奥にモデル人形のような人型が立てかけられていただけであった。
「これはどういうこった。俺のお宝は何処にあんだよ!」
波賀が肩を怒らせて、部屋の中をずんずんと進む。ちょうど、部屋の中央付近に来たところで、床が光り、魔法陣が浮かび上がった。
「波賀君、なんかヤベーよ!」
取巻きの男が波賀に呼びかけ、波賀が駆けて戻ろうとしたところで魔法陣からソレが現れた。
ソレは体高5m程あり、牛の前半身を持ち、後半身は蛇の魔物ーーオピオタウロスと呼ばれる怪物であった。
「ブゥオオオオオオ!」
現れたオピオタウロスは蛇のしっぽを振り、波賀を跳ね飛ばす。
「がはっ」
薙ぎ払われた波賀は、走っていた方向に跳ね飛ばされたため軽症で済んでいたようだったが、そのあとをオピオタウロスが追ってきていた。
「ちくしょうっ!あんたのせいよ!あんたがこんなところに連れてきたせいで!罪滅ぼしにアタシらが逃げる間、時間を稼ぎなさい」
「きゃっ」
それを見た取巻きの女は恐怖を浮かべ、責任転嫁甚だしいことを言い、木葉の腕を掴むとオピオタウロスの方へ投げつけた。その結果を見ることなく、波賀達4人は走って部屋から離れていく。
「待って、置いて行かないで!助けて!お願い!」
恐怖に震える木葉にオピオタウロスは前足を振り下ろす。
木葉は前足を躱そうとするが体勢が崩れていたため躱しきれず、前足が当たった左腕がちぎれ飛び、脇腹を骨が見えるほど抉られた。
「いっ……ぎゃああああああ!痛い!痛いよっ!」
痛みに泣き叫ぶ木葉に追撃を仕掛けようとするオピオタウロスが視界に入り、痛みをこらえ涙と鼻水を垂らし小水も漏らしながら逃げる。
奇跡的に何度か攻撃をやり過ごしたが、一般人なら既に動けなくなっているであろう重傷の身。
だんだん体が重くなり、やがて力尽きた。
ちぎれた左腕と抉られた脇腹からの出血多量により朦朧としながらたどり着いたそこは、部屋で唯一物があった場所。ーー人形のある場所だった。
もう自分が何をしているかわからなくなっている木葉は、人形に縋り付き消えそうな声でつぶやく。
「誰か、助けて。死にたくない……」
(あたし……死んじゃうのかな……お母さん、健…)
その言葉を最後に木葉は動かなくなった。
意識のなくなった木葉を見下ろし、オピオタウロスが前足を振り下ろそうとしている前で人形のーー人体で言うところ目のある部分ーーが赤く光った。
『マスターの魔力紋登録完了。これより起動します』
作者:ダンジョンもの書くんで最初のボスでミノタウロス使いたいっす
魔物屋:ミノタウロスは人気なんで1年先まで予約埋まってるね
作者:そんな……それじゃだれかいい子いないっすか
魔物屋:ん~、そうだね~。この子なんかマイナーだけど怪物感出してていいよ
作者:この子は?
魔物屋:オピオタウロスっていうんだよ
作者:なるほど(オピオタウロスを見つめる)
オピオタウロス:モー(つぶらな瞳……に見える目)
作者:この子でお願いします。行こうオピオン
魔物屋:毎度あり(もう名前つけてる)
っていうやり取りがあったとかなかったとか。
ちょっと後味悪い感じなので、昼に2話を投下します。