8 入学試験を受けました
魔法の実技試験は結界を4重に張った訓練場。
王城の結界よりも強固な学院自慢の施設。
「次の組。」
「「「「はい。」」」」
「的はそれぞれ4つだ。2つ当てれば合格。属性の違う魔法で当てればボーナス点がつく。全力で撃て、但し初級魔法以外は使わない事。始めろ。」
「「「「はい。」」」」
「128番、どうした。」
「あの、本当に全力で撃って良いのですか?」
「全力で撃たなければ実力が判らん。思い切り撃て、但し初級魔法だけだぞ。」
「はい。では撃ちます。火球!」
ドグァ~ン!
驚き過ぎて皆が固まっていた。
確かに的には当たったがその後ろの壁にも大きな穴を開けている。
「水球!」
ザグァ~ン!
「石弾!」
ガガゥワ~ン!
「ふ・」
「待て待て待て。」
ゴワ~ン!
「って“ふ”だけで発動って何なんだよ。」
「えっと、ふうじんって言おうとしたのですが・・・。」
「退避! 退避! 訓練場が崩れるぞ。屋根が落ちる、全員退避しろ。」
たとえ初級魔法でもサララちゃんが全力で撃ったら訓練場が壊れるのは常識。
吾輩はすぐに退避したぞ。
試験官という人種は常識をわきまえていないらしい。
「サララ様、王立学院長様がお見えです。」
モモが呼びに来た。
モモはサララちゃん付きの侍女として学院でも世話をしてくれることになっている。
「?」
吾輩を見るな。
今回は吾輩には心当たりが無い、筈。
それでも思わず顔を背けてしまった。
今までに色々とやらかした自覚はある。
「合格発表は明日ですよね。」
「はい、そう承っております。」
「すぐに行きます。」
サララちゃんが首を傾げ乍ら立ち上がったので吾輩も首を傾げて立ち上がった。
応接室に行くとお父さんと偉そうな服を着たおっさんが向かい合って座っている。
サララちゃんはお父さんの横に腰を下ろした。
吾輩はサララちゃんの隣に寝転んだ。
「サララは新入生代表の挨拶をする気が有るか」
「ありません。」
即答だ。
「ということです。」
「出来れば入学式にも欠席して頂きたいのですが。」
「サララは入学式に出たいか?」
「式は退屈なので嫌いです。あっ、でもお父様のお葬式はちゃんと出ます。」
「・・・・。」
お父さんが机に突っ伏した。
「大好きなお父様との最後のお別れですから、出席できないなんて嫌です。」
サララちゃんが胸を張って言い切った。
それはそうだ。
吾輩も参加するぞ。
世話になったお父さんの葬式に出るのは常識だ。
壁際に立っている騎士と執事が頭を抱えている。
「・・・、と言う事だ。これで良いか。」
「はい。ご無理申し上げました。」
おっさんが帰って行った。
「さらら、おめでとう。入学試験に合格したそうだ。」
「発表は明日の筈ですが。」
「サララの合格は決まったが、主席合格なので普通ならサララが新入生代表の挨拶をすることになる。ただ出来るだけ目立たないようにと学院長に申し入れてあったので学院長が相談に来た。ありていに言えば代表挨拶を王子にさせる代わりに破壊した試験場の再建費用を王家に負担させる交渉だ。」
「試験場の再建費用ですか?」
「試験場が崩壊したことは聞いた。サララに責任は無いが学院には責任がある。建て直す費用を捻出する為に代表挨拶を王子にするから王家も費用を出してくれと交渉したらしい。その代わり、サララは冒険者として入学するが寮の部屋は侍女部屋付の貴族部屋を使える事になった。」
「有難う御座います。お兄様達も心配していたので有難いです。」
「優雅で可愛い天才魔術師が公爵家のお姫様では目立ちすぎるからな。」
うむ、優雅とは初めて聞いた言葉だ。
木登りが得意な事か?
「お父様が宜しいならそのほうが有難いです。でも、お父様のお葬式には絶対に参列しますからね。」
お父さんが頭を抱え、執事と護衛騎士が必死に笑いを堪えている。
何故じゃ。
吾輩の明晰な頭脳でも判らぬ。
サララちゃんと冒険者ギルドに行った。
要するに入学までは暇だったから。
ギルドに入ると冒険者達が一斉にこちらを見て半数が顔を背ける。
「見るな。混ぜるな危険だ。」
「歩く災厄だ、目を合わせるな。」
「お、おう。」
「猿姫だ。」
「猫の尻尾を踏むな、金〇が無くなるぞ。」
後ろの男が引っ張られて離れて行く。
変な噂を流したのは誰だ。吾輩は男に興味は無いぞ。
囁いているつもりらしいが猫の聴力を舐めるな。
サララちゃんが依頼ボードに向かうと冒険者達がさっと道を空ける。
危険探知能力が高いのか、どう見ても王都の冒険者では無い者達も道を空ける。
「サララさん、ギルマスがお呼びです。」
「私ですか?」
「はい。おいでになったら声を掛けるように申し付けられておりました。」
お姉さんに連れられてギルマス室に行った。
「王立学院合格おめでとう。」
「は、・有難うございます。」
ギルマスの言葉にサララちゃんも驚いている。
「それと先日のAランク昇格試験で訓練場を壊さないでくれて有難う。」
「はあ?」
「いや学院の話を聞いて驚いたよ。うちの訓練場よりも学院の訓練場の方が頑丈だからな。うちの訓練場を壊されていたら白金貨が飛ぶところだった。チビルが魔法学院の試験官はアホだと言っていたぞ。」
「アホですか?」
「ああ。サララに本気で魔法を撃てなどアホとしか思えないと言っていた。即断で合格にした俺の目は正しかったと自慢している。」
サララちゃんに本気で魔法を撃てと言うのは確かにアホだがそれを自慢するチビルもどうかと思うぞ。
吾輩の殺気だけでちびった事を忘れたか。
「はあ。」
「それとAランクの公示をしたら、バカな貴族数人が騎士爵にしてやるから貴族家の家来になれと言ってきた。断っていいな。」
「はい、よろしくお願いします。」
「先日の盗賊のうち2人が賞金首だったので別途討伐報酬が出ている。救出した子供6人のうち引き取り先が見つかった3人は規定通りの礼金が支払われた。残り3人は奴隷商に販売ということで良いか?」
「3人の資料はありますか?」
「ああ。」
ギルドマスターから資料を受け取ったサララちゃんが考えている。
「すみませんが、二日待って頂けますか。」
「ギルドの施設で預かっているからゆっくりと考えてくれ。出来れば一人でもフリューゲル家で引き取って貰えたらあの子達の為には良いと思うからな。」
「はい。お父様と相談させて頂きます。」