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6 初めてのお買い物

サララちゃんは12歳。

秋の入学試験を受けるため、早めに王都に向かう事になった。

王都までは馬車で3日。

吾輩ならのんびりと走っても2日。

馬以外の騎乗用魔獣もいるので吾輩がサララちゃんを乗せても問題は無い?

「少し小さくなった方が良さそうね。」

体長4m、体高2m50㎝の騎獣はいないらしい。

体長1m50㎝、体高1mという大型犬並みの体型に調節した。

吾輩は常識を弁えているのだ。

街道をのんびりと走る。

初夏の日差しが強いのでサララちゃんは日傘をさしている。

結界の中は風が吹かないし温度調節もしているのでサララちゃんは楽しそう。

優雅に日傘をさしたお嬢様が騎獣に乗って猛スピードで馬車や馬を追い抜いていくのは絵面的にどうなんだろう。

サララちゃんの機嫌が良いのでまあいいか。



「ナャオン(敵)!」

吾輩の声でサララちゃんは日傘を倉庫に仕舞い剣に持ち替える。

まだ遥か前方だが盗賊に襲われている馬車が見えて来た。

速度を上げて接近する。

商隊らしい3台の馬車が30人程の盗賊に襲われている。

護衛らしい5人の冒険者が戦っているが、馬車の近くには護衛らしい数人の冒険者が倒れている。

加勢の許可を得る必要は無さそうだ。

サララちゃんが遠距離用の石弾を撃ち始めた。

「ナャオ(行くよ)!」

「はい!」

サララちゃんが吾輩の背中から前方にジャンプ。

それに合わせて吾輩が風刃を撃つ。

風刃に飛び乗ったサララちゃんは体重移動で風刃を操り、盗賊の矢を右に左にと鮮やかに躱しながら石弾を撃つ。

魔獣討伐で何度も練習した連携。

吾輩も走りながら盗賊達に向かって風刃を連発する。

「Bランクのサララ、加勢します!」

サララちゃんが馬車の手前で風刃から飛び降り剣を振う。

「感謝する。」

馬車から声が返って来た。

吾輩は馬車を追い越して商隊の先頭に走り盗賊達に次々と猫パンチを浴びせる。

・・、失敗した。

今迄は遠くから風刃で首を切っていたが、接近戦になったので軽く猫パンチを使ったのが間違い?

魔獣なら首だけ飛ぶのが常識なのに、盗賊達は上半身が爆散。

吾輩の真っ白な毛が血まみれになってしまった。

盗賊は常識を知らないらしい。

浄化魔法を掛けて毛繕いにゃん。


数人の盗賊が逃げたが残りはサララちゃんが全て倒した。

サララちゃんが怪我をした冒険者に治癒魔法を掛けている。

冒険者達が倒れている盗賊達を縛り上げ、死体は金目の物を剥ぎ取って積み上げる。

サララちゃんが火魔法で灰にした。

証拠隠滅の焼却魔法も楽々と使いこなせるようになっている。

よしよし。

吾輩は暇なのでのんびりと毛繕い。

毛並みの美しさは大事。



「シロ、盗賊のアジトに行くわよ。」

「ナャン!」

索敵魔法は最初の頃に思い出した魔法なのでサララちゃんはもう自由自在に使える。

逃げた盗賊にはマーキングしてあるので数キロ程度なら居場所が判る。

盗賊達はアジトに着いたらしく動きが止まっていた。

サララちゃんを乗せて盗賊のアジトに奔る。

アジトは森の奥にある岩場の洞窟。

「見張りが2人に中が7人、子供が6人?」

「ナャン(その通り)。」

吾輩の背に乗ったままサララちゃんが風刃で見張りの首を切る。

入り口でサララちゃんを降ろし、吾輩を先頭に洞窟に入っていく。

吾輩は夜目が効くがサララちゃんは暗い所が苦手、吾輩の尻尾を掴んで付いて来る。

こら尻尾で遊ぶな。

盗賊のアジトなのにサララちゃんには緊張感がまるで無い。

奥の部屋に7人の男がいた。

吾輩が石弾×7で瞬時に制圧。

サララちゃんが奥の部屋にいる子供達の世話をしている間に洞窟内のお宝を倉庫に放り込んだ。

盗賊の持ち物は討伐した冒険者の物。

領地でも何度も盗賊退治をしたので慣れたもの、2人だけの秘密だけど。

お母さんに知られたら怒られるくらいの常識はある。

お父さん?

サララちゃんならお父さんを誤魔化せるのは常識。

洞窟の表に出て木の枝で隠してあった馬車の車体を引き出す。

1台は倉庫に入れて、2台を道に並べる。

馬達の所に行ってお話。

「ナャンニャン。」

「ヒン、ヒヒン。」

街に行くことを承知してくれた。


サララちゃんが子供達を連れて出て来た。

男の子2人に女の子4人。

サララちゃんが馬の鞍に馬車を括り付ける。

こうした細かい作業は吾輩には出来ない。

出来ても面倒だからする気は無い。

その間に子供達を1台の馬車に乗せ、もう1台には盗賊達の死体を乗せる。

いざ出発。

途中で日が暮れたので街道脇の草地で野営。

王都まで1日の野営所なので結構多くの馬車がいる。

「サララさん、先ほどはありがとうございました。」

おっさんが挨拶に来た。

盗賊に襲われていた商隊の人らしい。

冒険者の人達も次々と来てサララちゃんにお礼を言っている。

盗賊を見つけたのは吾輩なのだがまあいいか。

毛繕いをして寝た。



王都はさすがにでかい。

領都の倍はある高い城壁で囲まれ、遥か彼方の小高い丘の上には巨大な城が見える。

領都の城とはスケールが違う。

門前には長い行列が出来ていたが、冒険者の人が衛兵に話をすると別の入り口から入れて貰えた。

盗賊討伐の事情聴取らしい。

とりあえず暇なので警備詰所横の馬車置き場でお昼寝。

猫は寝子なのだ。



事情聴取を終えて王都の屋敷に行くと寮に入っている兄さん達も屋敷に来ていた。

王立学院は全寮制なので普段は学院の寮にいるらしいが、サララちゃんが着いたらすぐに連絡するよう使用人に申し付けていたらしい。

一度死に掛けたせいか、両親も兄さん達もサララちゃんにはめちゃ甘。

お母さんはまだ領地でお仕事らしく、お父さんお兄さん達とお食事。

吾輩の席もちゃんと用意されていた。

盗賊退治には皆が驚いていた。

サララちゃんが吾輩を目で抑える。

うん、領地で何回もやったとは言わないよ。

吾輩は常識をわきまえた猫なのだ。



翌日は盗賊退治の報酬を貰いにギルドに行く事になっていたのでついでに王都の見学。

「いいか、なるべく目立たないようにするんだぞ。」

「街中では倉庫を使うな。魔法は魔法名を言ってからだぞ。」

「公園で木登りはするな。塀の上や屋根を走るのもダメだぞ。」

「シロ、サララの頭に乗ってはダメだぞ。」

「シロは従魔扱いだから勝手に戦うな、2本足で走るのもダメだ。」

「王都内は騎獣に乗るのは禁止だからな。」

「大きくなったり小さくなったりもダメだぞ。王都ではずっとこの大きさでいろ。」

「店も許可のあるところ以外は表で大人しく待っていろよ。」

「良いか二人とも常識をわきまえるんだぞ。」

お父様と2人のお兄さんに色々と釘を刺されてしまった。

常識の塊である吾輩達を何だと思っているのだろう。

領都では一緒に塀の上や屋根を走ったが、常識をわきまえているから塔の屋根や教会の屋根は避けて走ったぞ。

街門から外に出るなと言われたから門は使わなかったぞ。

延々と注意事項を言い渡されて漸く街に出る事が出来た。

お父様はお城でお仕事、お兄さん達は王立学院でお勉強。

サララちゃんと一緒にお屋敷を出た。

少し後ろには護衛の騎士が二人。

いらないのに。



「グミャミャ(頭の上の方が見晴らしがいいのにな)。」

ブツブツ言いながらも仕方が無いのでサララちゃんと一緒に歩く。

良い匂いがして来た。

「ニャンニャン。」

「食べたいの?」

「ニャン。」

「おじさん串焼きが欲しいのですが。」

「銅貨1枚で1本だ。」

「え~っと、銅貨ってこれですよね。」

「ああそうだ。2枚だから2本だな、はいよ。」

サララちゃんが屋台の串焼きを買ってくれた。

サララちゃんは初めてのお買い物。

上手に出来たようでニコニコ顔。


屋台横のベンチに腰を掛けて串焼きを食べる。

吾輩も両前足で串を掴んで串焼きに齧り付く。

「ニャン(美味しい)。」

公園で遊んだり広場で噴水を眺めたりしながらギルドに着いた。

吾輩は騎獣舎で待機。

騎獣舎にいる騎獣は皆吾輩よりも大きい。

「ナャンニャン。」

「ガウガウ。」

「ギョギャギョギャ。」

挨拶するとみんな挨拶を返してくれる。

奥まで行ったらひときわ大きな騎獣舎に飛竜がいた。

「ナャンニャン(こんにちは)。」

「ゴゥ(煩い)!」

殺気を当てて来た。

「シャァ~!」

毛を逆立てて殺気を返した。

「キュウキュウ。」

飛竜が仰向けになってお腹を見せている。

格の違いが判ったらしい。

飛竜風情が偉そうにするな。

吾輩は両手で串焼きを持って食べられるほど偉いのだ。

「ナャオン(許してつかわす)。」

「キュキュ。」


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