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5 倉庫を作りました

フランク兄さんは振り落とされないようにしっかりとサララちゃんにしがみ付いている。

「ナャン(見つけた)。」

速度を落としてゆっくりと進んで止まるとサララちゃんが飛び降りる。

冒険者登録に備えて何度も実戦を積んだからサララちゃんも慣れたもの。

フランク兄さんも吾輩から降りて剣を構える。

10m程先の木の間に森猪が見えた。

“石弾”

サララちゃんの手元から石弾が飛ぶ。

木の隙間を飛んだ石弾が森猪の眉間を貫いた。

うん、吾輩が指導した通りに撃てている。

魔法の練度が上がったので初級魔法の石弾でも中型魔獣なら楽勝。

「はあ?」

「お兄様、収納お願いね。」

「待て待て、今のは何だ?」

「石弾よ。お兄さんも使っているでしょ?」

「いやいや詠唱も無かったし、そもそも石弾で森猪は倒せないぞ。」

「倒れているじゃない、時間がもったいないから早く収納して。」

「お、おう。」

サララちゃんも10歳の誕生日に収納用の魔法袋を貰ったが、容量があまり大きくないので今日はフランク兄さんの魔法袋も使うつもりらしい。

二つあればかなりの量が入る筈。

「はい、次に行くわよ。」


サララちゃんが軽々と吾輩に跨る。

今日は魔獣討伐が沢山出来ると朝から張り切っていた。

森猪を収納したフランク兄さんも慌てて吾輩に飛び乗った。

”石弾“ ”石槍“ ”風刃” ”氷弾“ ”氷槍“

吾輩が索敵してサララちゃんが獲物を倒し、フランク兄さんが魔法袋に収納する。

流れ作業。

「もうサララの魔法袋も一杯だぞ。」

フランク兄さんに預けていたサララちゃんの魔法袋も満杯になったらしい。

「もう一杯なの?」

「ああ、これ以上は無理だ。」

「じゃあ今日はこれでおしまいか、折角調子が出て来たのに。」

吾輩もまだまだ運動不足だが魔法袋が一杯なら仕方が無い。

「・・・・。」

お兄さんが疲れた様子。

「しょうがないから帰ります。お兄様有難うございました。」

屋敷に帰った。



お兄さんが獲物を取り出すと使用人達が驚いている。

「フランク様がお強いのは知っておりましたが、半日でこれ程とは驚きました。」

執事のセバスは驚きながらもてきぱきと使用人達に解体の指示を出して行く。

「倒したのは全部サララだ。」

お兄さんが疲れたように言うとセバスが口をポカンと開けた。

サララちゃんは聞かなかった事にしたようでそそくさとその場を離れていく。

吾輩もセバスと目を合わせないようにしながらサララちゃんの後を追った。


吾輩達は居間に行ってのんびりお茶やホットミルクを飲みながらお菓子を摘まむ。

「サララ、無詠唱はダメだぞ。知られたら王家に囲い込まれる。せめて魔法名を叫べ。短縮詠唱なら数人は使い手がいるからまだましだ。」

「そうなの?」

「そうなのじゃない。無詠唱で魔法を発動出来る魔導士は大陸全体でも2~3人。短縮詠唱が出来るのは王宮魔導師団でも数人。無詠唱は目立ちすぎる。」

「そうなんだ。うん、魔法名を叫ぶ練習する。」

目立つことは良くないらしい。

「ミャア(練習する)。」

「はぁ。」

フランク兄さんはお疲れらしい。



フランク兄さんは王立学院の受験勉強で忙しい。

お母さんも領地経営で忙しいし、冬の社交シーズンにはお母さんも王都に行くのでサララちゃんはやりたい放題。

午前中の訓練とお勉強が終わると毎日吾輩と一緒に魔獣討伐。

段々と森の奥に行くようになり、討伐する魔獣が大型化すると魔法袋がすぐに一杯になってしまう。

とはいえ解体は嫌いらしい。

吾輩も解体は出来ない。

「解体の魔法を教えて。」

「ナャア(ない)。」

「ケチ。」

ケチではなく、解体の魔法など記憶の片隅にもかけらすら無い。

最近は魔法袋が一杯ですぐに帰る事になるので、部屋でため息ばかり吐いている。


何かいい方法は無いかな。

何かあったような気がする。

「ミャン(思い出した)!」

「どうしたの?」

「ミャンミャン!」

空間魔法で倉庫を作った。

机の上に乗って本に肉球を置くと本が消える。

手をかざすと本が再び現れる。

何度か本を倉庫に出し入れして見せた。

「凄い。ねえ、教えて。」

「ミャア(うん)。」



「サララ、どうやって獲物を運んできたのですか?」

只今お母さんの説教中。

お母さんの後ろにはセバス。

大量の大型魔獣を出したらセバスに倉庫がばれた。

吾輩の責任ではない。

「シロ、寝たふりはダメよ。」

怒られた。

倉庫は収納量が多くて軍隊や商売でも圧倒的に有利。

知られたら各国王家や貴族、大商人に狙われるから隠すようにとお母さんが延々と説教する。

どうやら吾輩の知らない常識もあったようだ。

「気を付けます。」

「グミャミャ(ごめんなさい)。」

倉庫の隠蔽用に大容量の魔法袋が貰えたのでサララちゃんに不満は無い。

魔法袋は容量によって見た目も違うので、大容量の魔法袋なら大きな魔獣を取り出しても大丈夫らしい。



午後の半日だけではあるが毎日魔獣を狩り、夕方屋敷に戻って使用人達に解体を頼む。

魔法の種類も増え、精度も威力もどんどん上がって来た。

勿論吾輩が丁寧に指導した成果である、どうにゃ。

翌日の昼に使用人が揃えてくれた素材をギルドに納めてまた森に入る。

目立たないために、大型魔獣は使用人の前でも出さないようセバスに指示されている。

サララちゃんが自由に暮らせるよう、家族や使用人みんなが気を配っているらしい。

上位種の素材は倉庫に秘匿したものの、毎日大量の希少素材を納入したのでサララちゃんは11歳でBランクになった。

解体を頼めないような大型魔獣の素材が倉庫にめっちゃ溜まっている。

倉庫には容量の制限は無いし時間が止まっているから劣化する事も無い、まあいいか。




家族会議


「サララが王立学院に行きたがっています。」

「なんだと。」

お父さんが驚いている。

「長期休暇で帰って来た兄さんの話を聞いて自分も行きたくなったようです。」

「サララが学院の話を聞きたがったのでつい話したのが良くなかった。」

兄さんががっくりと項垂れている。

サララの進学について家族会議が開かれた。

「王立学院は王族や高位貴族の子弟が多い。狼の群れに子羊を入れるようなものだ。」

「私も王立学院に通わせるのはどうかと思います。」

両親は反対らしい。

「しかしサララにも学生生活を楽しませてあげたいです。」

学院を目指して勉強している俺としてはサララも学院に進学させたいと思っている。

「お披露目にも出ていませんし、王立学院に行かなければ貴族としての生活は出来ませんから結婚も出来ません。」

ウィリアム兄さんも同意見らしい。

「嫁に出すつもりは無い。領地でサララの好きなように生きさせてやりたい。」

サララ大好きな父上は結婚にも反対らしい。

「それを選ぶのはサララです。サララは外国にも行きたがっています。領地に閉じ込めておくわけにはいきませんし、外国を回るには色々な知識も必要です。」

「俺もサララの選択肢を狭めるべきでは無いと思います。」

「だが、公爵家というだけで目立つぞ。しかも貴族の付き合いを全く知らないから礼儀作法で恥を掻くことになる。」

「既にBランク冒険者ですから、冒険者として受験すれば宜しいではないですか。」

「しかし公爵令嬢が平民の冒険者を装ってもすぐに疑われるぞ。」

「いえ、公爵家を名乗った方が疑われると思います。」

兄さんナイスフォロー。

「私も同意見です。普段の話し方も振る舞いも冒険者そのものですから。」

俺も援護射撃した。

「・・・そうか。それならフリューゲル家の家名を伏せ、冒険者として受験させよう。」

「くれぐれも王子との結婚が無いようにして下さいね。」

母上は王家を警戒している。

「勿論だ。第1王子も第2王子も凡庸、サララの相手として相応しくない。一応陛下には冒険者として進学する事は伝えるが、王妃や王子達には秘匿するよう念を押しておく。」

「そうして下さい。サララはボンクラ王子達にはもったいなさすぎます。」

不敬罪になりそうな不穏当な発言だが、母上の人物眼は確か。

サララにはもっと凄い男でなければ似合わないのは事実だ。


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