第二十八話 お疲れ様
式終了後は、みんな思い思いに集まって、写真を撮ったり思い出を共有したりして、三々五々帰っていった。
僕も一通りみんなと喋った後、お母さんのところへ向かった。
「お疲れ様」
お母さんが笑顔で労ってくれる。
お母さんこそ、お疲れ様。
「翔、あなた挨拶ちゃんと考えてなかったでしょう。一番短かったわよ」
お母さんは呆れながらクスクス笑っている。
図星なので、反論の余地がない。
確かに、あの挨拶ではきちんと感謝の気持ちが伝わっていないだろう。
だからせめて、お母さんにだけはちゃんと伝えなければと思った。
「お母さん、今までありがとう」
「なによ急に。いつもそんなこと言わないから泣けてくるじゃない」
と、お母さんは涙声で言った。
僕はこういうお母さんに慣れていないので、なんだか恥ずかしくなってきた。
「もう帰ろうよ」
僕はお母さんの手を取って、校門へと歩き出す。
照れくさくて顔は見れなかったけど、お母さんは手を握り返してくれた。
二人でゆっくりと校門へ向かっていると、お母さんが少し暗い声で話し始めた。
「お父さんのことなんだけど……」
お父さんという言葉を聞いて、少し胸がチクッとした。
「実はお父さん、あれからも翔ちゃんの試合を観に行ってたのよ」
それは初耳だ。
あまりの衝撃に思わずお母さんを見た。
お母さんはこちらを見はしなかったが、その表情は寂しげに映る。
「翔ちゃんに来るなって言われたときは心底落ち込んだけど、言われた通りにしようって思ったんだって。でも、どうしても翔ちゃんの活躍する姿が見たかったのよ。お母さんに相談してきたぐらいだからね。『ばれないように観に行くから協力してくれ』ってね」
全く気付かなかった。お父さんが試合を観に来ていたなんて。
僕はなぜか少しホッとしていた。
「だから、お父さんも翔ちゃんの大活躍ぶりはちゃんと知ってる。生で観てるからね。だから安心して。でも一つ翔ちゃんにお願いがあるのよ。聞いてくれる?」
「なに?」
「お父さんね、翔ちゃんに辛い思いをさせてしまったことを今でも後悔しているの。翔ちゃんに嫌われているんじゃないかって苦しんでる。でも、お父さんは翔ちゃんのことが大好きで、できるなら前みたいに仲良くしたいって思ってる。だからね、翔ちゃん。お父さんのこと許してあげてほしいの」
僕は迷わず言った。
「うん、分かったよ」
きっと僕は心の中では許していたのだと思う。
だから迷わなかった。




