第二十七話 思い出の試合 ~後半~
滑る体。擦れる音。宙に舞う砂煙。
全員が固唾を飲んで見守っていたと思う。
僕は倒れたまま、グラブを天に掲げた。
「ア、アウト!」
その瞬間、歓声と溜息がグラウンドに溢れた。
僕は立ち上がり、砂を払いながらベンチへと向かう。
戻る途中も戻ってからも、みんなから祝福を受けた。
褒められながら、僕は言葉を交わすことなく準備に入った。
最終回の攻撃は僕から始まるのだ。
ファインプレーをしてみんなから褒められたのだから、普段の僕なら有頂天になっているはず。
なのに、今日はやけに冷静だ。落ち着きすぎと言ってもいい。
邪念も一切感じられず、集中が研ぎ澄まされているように感じる。
この感覚は初めてだった。
バッターボックスに入ってもそれは変わらず、ただ一点、ピッチャーだけを見据えた。
迎えた初球、僕は何の迷いもなくバットを振り抜いた。
本当に打ったのか信じられないほど、球が軽く感じた。
真芯で捉えた打球は、美しい弧を描きながら、レフトスタンドへと吸い込まれていった。
「サヨナラホームランだー!」
ベンチでは大歓声が起きている。
僕は拳を突き上げ、喜びを噛み締めるようにゆっくりとベースランをする。
三塁を回った時、みんながホームベースを囲うようにして集まり、僕を待っていた。
ホームベースを踏んだ後、監督が我先にと駆け寄ってきた。
よほど嬉しかったのか、満面の笑みで僕を力いっぱい抱きしめてくれた。
その後は、みんなに揉みくちゃにされた。
こうして僕たち藤宮スポ少は、市長杯で優勝を飾ることができた。
* * * * * * * * * * * *
あの感覚は一生忘れないだろうな、と追想にふけっていると、監督に名前を呼ばれた。
「次、立花翔くん」
そうだった。挨拶の順番待ちをしていたのだ。
卒団式は毎年、藤宮小のグラウンドで行われる。
そこでは、記念撮影と卒団するメンバーが一人ずつ、保護者を含めたみんなに挨拶をするのだ。
「はい」
返事をしてみんなの前へ出る。
順番が来るまでに挨拶の内容を考えようと思っていたので、何も考えていない。
もはやどうしようもないので、来てくれているお母さんと、共に戦ったみんなに感謝の言葉を簡単に述べた。
六年生全員の挨拶が終わった後、監督が締めの挨拶をして、卒団式は無事終了した。




