第二十四話 覚悟
あんなに僕のプレーを否定し怒鳴り散らすくせに、お父さんはほとんど欠かさず試合を観に来た。
僕はスタメンではないし、五年生だから毎回試合に出られるわけではない。
それなのに、なぜ、お父さんは仕事の合間を縫ってまで観に来るのか。
僕には分からなかった。というより考えようともしなかった。
お父さんが試合会場にいることが苦痛で仕方なかった。
「今日は来るな」と毎回祈るだけだった。
祈っては落胆し、試合に出ては結果を残せず怒鳴られる。
それを繰り返しているうちに、僕は五年生としてのプレーを終えていた。
惨憺たる一年だった。
お父さんに怒られまいと、「見逃し三振はするな」「バットを振れ」という言いつけを必死で守った。
でもそのせいで、ツーストライクに追い込まると、体が強張り、どんな球も振ってしまうようになった。
言いつけを守っても、三振だから結局は怒られる。どうやっても怒られる。
怒られるために野球をやっているもんじゃないか、と思ったこともあった。
それでも僕は野球をやめなかった。
野球が好きだから。野球が悪いわけじゃないから。
明日から僕は新六年生としてプレーすることになる。藤宮スポ少で野球ができるのは残り一年だ。
何とかしないと。
でも本当のところは分かっていた。やることは一つしかないと。
練習のとき、僕は六年生に引けを取らないぐらい上手にプレーできていた。
だからこそ監督は、僕を使い続けてくれたのだと思う。
惨憺たる一年だったのは確かだが、一つも結果を残せなかったわけではない。
数回だが、ヒットを打った。
そのときの僕は、心がスッキリとしていて爽やかで、体のどこにも余分な力が一切入っていない、リラックスした状態だった。
練習のときの僕と、試合で結果を出せたときの僕。
二つの共通点とは何か。
――お父さんだ。お父さんがいないときだ。
薄々気付いてはいたが、やっぱりそうだった。
お父さんがいなければ、僕はのびのびと野球ができる。
言うしかない。「来ないで」と。
でも、そんなこととてもじゃないが言えない。そんな勇気、僕にはない。
いつもの弱気な自分が顔を出す。けれど、今日はもう一人の自分が助けてくれた。
僕はいつも流されてきた。怖いものから逃げてきた。
でも今回は逃げたくない。藤宮スポ少で野球ができるのは今年で最後なんだ。
みんなと楽しく野球がしたい。もっと試合で活躍したい。
僕は覚悟を決めた。




