第十八話 プレイボール!
夏の暑さも和らぎ山が赤々と色付き始めたある日曜日、空気の澄んだ青々とした空の下、紅白戦が行われた。
三年生は別メニューとなったが、四年生以上は紅組か白組どちらかのメンバーに入った。
僕と烈は白組だ。
普段出場機会に恵まれていない上級生たちは、自分の力をアピールする格好の場となる。
みんな張り切っている。
対して四年生はメンバーには入っているものの、あくまでも主役は上級生だということが分かっているので、士気が低い。僕もそのうちの一人だ。
試合開始に向けて上級生はウォーミングアップをし、四年生は黙々と道具の整理をする。
僕がヘルメットの入った大きなバッグを開け、ヘルメットの向きを揃えていると、スッと隣に烈がやって来た。
「今日は出番なさそうやな」
「さすがにないだろうね、僕たちを使う理由がない」
「そうやな。せっかくいい天気やのにもったいないわ」
「それはつまり、練習がしたいってことかな」
「当たり前や。俺らに止まってる暇なんかないで」
僕は思わずクスっと笑ってしまう。
「そうだね。でも嘆いても仕方ない。今日は上級生のプレーを見て学ばせてもらおうよ」
烈は完全に納得した様子ではなかったが、僕のもっともな意見に異論がなかったのか自分の持ち場へと帰っていった。
試合開始時刻まで残りわずか。
紅白戦ということもあり、バックネット裏にはずらりと保護者が観覧にきている。
上級生の保護者だろうと見渡していると、なぜかそこにお父さんの姿があった。
確かに紅白戦があることは伝えた。でも、試合に出るとは言っていない。
むしろ、烈が言ったように「準備と片付けだけだろうからつまらない」と愚痴をこぼしたくらいだ。
よっぽど暇だったのだろうか。
ずっとお父さんを見ていたので、目が合ってしまった。
お父さんが笑顔で手を振ってきたので、僕は小さく手を振り返した。
整列の前に白組で円陣を組む。白組の監督は正規の監督が務める。
「紅白戦だから勝ち負けは関係ない。積極的に選手交代していくから、いつでも出られるよう心の準備をしておくこと。そして、しっかり俺にアピールしろ。いいな」
監督が選手に発破をかける。出るわけがないと思いながらも、わずかに期待してしまう。
「はい!」
選手一同が返事をし、ベンチ前に横一列で並ぶ。紅組も一列に並んでいる。
審判を務めるコーチ陣が、グラウンドを見渡すようにホームベース後方に並ぶ。
「集合!」
主審の合図で両チームがグラウンド中央へ一斉に駆け出す。
両チーム、花道を作るようにホームベース一つ分の間隔をあけて一列に整列。
「これより紅白戦を始めます、礼!」
全員が帽子をとり一礼。
「お願いしまーす!」
白組は後攻なので、スターティングメンバ―の9人は各々の守備位置へと向かい、残りのメンバーはベンチへと下がる。
主審の声がグラウンドに響き渡る。
「プレイボール!」