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ぼくとお父さん  作者: 青野 乃蒼
第二章
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第十五話 勇気を振り絞って

 心臓が飛び跳ね、一瞬で眠気が吹き飛んだ。

 期待と不安の濁流が押し寄せ、心臓が早鐘を打っている。


「やばい、どうしよう、何を言ったらいいんだろう」と考えているうちに、お父さんはもうリビングまでやってきた。


「お、おかえり」


「翔、まだ起きていたのか」


 この時間に起きている僕を見てお父さんは驚いたのか『ただいま』を言い忘れている。


「うん、ちょっとね」


「明日も学校だろう。早く寝なさい」


「うん」


 お父さんの淡々とした物言いに、僕のなけなしの勇気は(しぼ)んでしまった。

 諦めようと部屋に行こうとしたとき、お母さんが助け舟を出してくれた。


「翔は、お父さんを待っていたのよ」


「そうなのか。なにかあったのか」


「う、うん」


 でもその後が続かない。


 何も言えないでもじもじしている僕を見て、お父さんは首をかしげながらお母さんを見やる。

 お母さんは、お父さんを一瞥した後、僕を見て笑顔で大きく頷いた。


 すると、ふいに今朝の出来事がフラッシュバックした。


 そうだ。烈は僕と一緒に野球がしたいと言ってくれた。みんなも待ってくれている。

 僕もみんなと野球がしたい。


 萎んでいた勇気に再び火が灯る。意を決して僕は告げた。


「お父さん、僕はスポ少に入ってみんなと野球がしたい!」


 真剣な表情だったお父さんは、僕の告白を聞いて声を出して笑いだした。


 なぜお父さんが笑っているのか分からず困惑していると、お父さんは「ごめんごめん」と言いながら話し始める。


「実はこの前お母さんとその話をしていたところだったんだ。そろそろ翔がスポ少に戻りたいって言いだすんじゃないかってね。そしたらいきなりこれだから笑っちゃったよ」


 お父さんとお母さんは顔を見合わせて笑っている。何だか楽しそうだ。


「翔と野球するのはお父さんもお母さんも楽しい。咲だってきっとそうだ。でも日に日に大きく成長する翔はどんどん力がついてきた。そうすると、打球の飛距離が伸びてきて球拾いが大変になってきたんだよ。翔も気付いていたんじゃないかな。だから、遊んだ日はお父さんもお母さんもぐったりだったんだよ」


 お父さんはこめかみを掻きながら苦笑している。

 

 ごめんね、お父さんお母さん。楽しすぎてちっとも気付かなかったよ。


「というわけで、お父さんもお母さんもスポ少は大賛成さ。去年のキャプテンは中学生になってもういないし大丈夫だ。みんなと練習してもっと上手くなってほしい」


「良かったね、翔ちゃん」と言ってお母さんは笑顔で僕の頭を撫でてくれる。


 良かった……。

 嬉しさよりも不安から解放された安堵の方が強く、膝から崩れ落ちそうだ。


「入部手続きしておくからな。今日はもう遅い、早く寝なさい」


「分かった。お父さんお母さん、おやすみなさい」


「おやすみ」


 僕は一人で部屋に行き布団に入った。


 しばらくして気持ちが落ち着いてくると、嬉しさとこれからの期待が込み上げてくる。

 遠足の前日のような気分だが、その何倍も心が高揚していた。


 ワクワクする気持ちが僕を寝かせてくれず、翌朝寝坊して遅刻しそうになったのは言うまでもない。

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