第十三話 豪友
スポ少に行けなくなって立ち直れないと思っていたけれど、そんな心配は杞憂に終わった。
友達と毎日のように遊び、週末は家族で出かけたり野球をしたり。
楽しい日々を過ごしているうちに、悲しみはきれいさっぱりどこかに消えていた。
時があっという間に過ぎるとはまさにこのことで、気付けば僕は四年生になっていた。
クラスが替わり、担任の先生も代わり、みんなうきうきだ。心だけでなく体も弾んでいる。
四年生になって数日後の朝、僕は教室で始業のチャイムが鳴るのを待っていた。
すると、前から烈が突進のごとく走ってきて僕の机をバンッと豪快に両手で叩き、大声で言い放つ。
「翔、スポ少入ろうや!」
あまりに唐突で目を白黒させていたのだが、烈はこちらのことなどお構いなしに話し続ける。
「三年生のときスポ少入ってたんやろ。みんな翔は上手いって言うてるよ。上手いのに野球せんのはもったいない。俺も入ることにしたから、一緒にやろうや」
烈は一年生からの仲良しで家も近所なので、よく遊んでいる親友だ。
坊主頭で悪ガキみたいな顔をしているが、悪いことはしない。ただ豪快なのだ。
一つ気になるのは、なぜだか彼は関西訛りなところがある。
「烈、スポ少入るの?」
「当たり前や。俺野球好きやからな。翔は好きやないの?」
好きじゃないはずがない。大好きだ。辞めたのだって自分で決めたわけではない。
「好きだよ。烈とよくキャッチボールするじゃん。僕は犬なんじゃないかと思うときがあるけどね」
烈がゲラゲラ笑う。
彼はキャッチボールでも常に全力で投げる。ゆえに、球があらぬ方向に飛んでいくことがよくある。
その度に僕は球を拾いに行くのだ。
「今に見てろ。スポ少で練習してもっと上手くなって、翔が捕れない豪速球をビュンビュン投げるからな」
――今でも十分捕れないんだけどね。
「上手くなれば、もっと野球が楽しくなるだろうね」
「そうやな、でも俺は翔と野球できたらもっと楽しいと思う。みんなだって翔を待ってる。
だから翔、やろうや」
「僕もそう思うよ。入りたい。だけど……」
だけど、お父さんが許可してくれるか分からない。だから入るとは言えなかった。
そんな僕の内情を知る由もない烈は、
「じゃぁ決まりやな。入れよ。じゃあな」 と、捨て台詞を残して教室の外へと走っていった。
もはや勧誘ではなく強制になっている。それでも嫌な気持ちはしなかった。むしろ嬉しかった。
みんなが僕を待ってくれている。またみんなと野球ができる。その思いが僕を奮い立たせてくれた。
お父さんにお願いしよう。
予鈴のチャイムが鳴った。そう、これは始まりのチャイムだ。