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ぼくとお父さん  作者: 青野 乃蒼
第一章
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第十話 運命の分かれ道

 お風呂から上がった後、僕は約束通り今日の練習のことをたっぷりと飽きるまで話した。

 しゃべり過ぎて喉が少し疲れたと感じる程だから、かなり長い時間喋っていたと思う。


 それでも、お父さんとお母さんは嫌な顔一つせず、むしろ楽しそうに話を聞いてくれた。


 今日は本当に楽しかった。三年生の中では一番上手いことも分かったし最高のスタートだ。

 もっと上手くなって早く試合に出たいな。

 実は監督が僕のプレーを見てくれていて試合に出られたりして。


 なんて淡い期待に胸を膨らませながら布団に入る。

 明日のためにも早く寝ようとか何とか考えていた気がするが、疲れていたのだろう。

 知らぬ間に眠っていた。


 まさかあんなことが起こるとは夢にも思わずに。





 初練習から二日後、つまり三回目の練習日。今日も三年生だけ別練習をしていた。


 上級生は校庭であるグラウンドをフルに活用して練習するため、三年生は邪魔にならないようライトの隅を練習場所にしている。


 なぜライトなのかと問われれば理由は簡単。

 ジャングルジムなどの遊具が設置されており、安全マージンを取るためにスペースを開けているからだ。


 以前、守備練習でライトを守っていた子がフライを捕ろうと後退していたところ、球に気を取られて遊具にぶつかり頭から流血したらしい。

 それ以降、ライトの守備位置はかなり浅めになり深追いしなくて良いことになったそうだ。


 隅の方で細々とやっているように思うだろうが、実は真逆だ。

 練習とは言っても所詮入って三日の新入生、野球を始めたばかりの子もいる。遊んでいるに等しい。


 五年生に兄がいる新入生のお父さんがコーチを務めているので、三年生に付いていてくれるが指摘などは一切せず、むしろ一緒になって遊んでいるようにも見える。


 背が低く少しぽっちゃりした容姿と、おっとりとした性格が相まって、「くまのプーさん」を彷彿とさせる。


 上級生達は、まるで戦場のような張りつめた緊張感の中、時折監督の罵声を浴びながら熱心に練習に取り組んでいる。表情は皆真剣そのものだ。


 その雰囲気をぶち壊すかのようにライトの奥ではキャッキャとはしゃぎ、笑い声がグラウンド中に木霊(こだま)する。


 僕は上級生に交じって練習したいんだけどなぁ。

 こっちも悪くはないんだけど。


 夕日が落ち、球がいよいよ見えなくなってきた頃、コーチが照明をつけるためライトの最奥にある電柱へと向かう。


 それを目で追っていると、電柱の横にある校門から人影が見えた。

 こちらに向かってきている。


 誰かの保護者かもしれないと思い挨拶をしようとしたそのとき、照明が点灯しぼんやりとした人影が鮮明になる。


「お父さん!」


「翔、ちゃんと練習してるか~、頑張れよ」と笑顔で手を振っている。


 今日は早く仕事が終わったのかもしれない。

 良いとこ見せるぞと意気込みながら、手を振り返す。


 お父さんは電柱から少し離れたところにあるベンチに座り、練習とは言えない練習を最後まで見てくれた。


 監督からの「片付け入れ!」の声を受け、銘々が片付けに入る。

 片付けには、グラウンド整備班と道具片付け班の二手に分かれるのだが、誰がどちらをやるかは決まっていない。


 前日と前々日は道具片付け班だったので、今日はグラウンド整備がしたいと思いトンボを手に取る。

 これが運命の分かれ道だとは露知らず――。

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