赤き巨人と消える怪物
この物語は全生物防衛隊WACの若き隊員・ジンの物語である。
ジン隊員は怪獣反応をキャッチし、現場に調査に向かっていた。
そこでは最近珍しいタコの目撃情報が話題になっていた。
なお、ジン隊員の正体が宇宙人・アルティメマンライガーであることを知っているのはWAC隊長だけであった。
黒森 冬炎様主催『変身企画』参加作品です。
全生物防衛隊WACの基地では隊員たちが、とある情報の調査を行っていた。
小太りのヨコマル隊員がモニターに資料を表示させた。
「こちらがWAC基地に通報があった不思議なタコの映像です」
そこは海中の映像で、一匹のタコが泳いでいる。
沖合でスキューバダイビングをしていた一般人が、水中カメラで撮影したものだ。
「通常のタコは足の数が8本です。しかし、この映像で確認されるタコは足が10本ありますね」
映像に映っている足の数は、なんどか確認したが10本あった。
髪の長い女性のカミシモ副隊長が首をかしげる。
「ちなみにイカの足は10本だよ。でも、この個体はどうみてもイカではなく、タコだね。隊長はどう思われます?」
「これはタコだ。イカの場合は短い足が8本と長い足が2本だろう。こいつは長い足が十本ある。頭部も丸い形をしているな」
マホロバ隊長が答えた。
そこでカミシモ副隊長はモニターにとある古文書を表示させた。
巨大なタコの怪獣が人家を襲う様子が描かれていた。
「これは現場近くの漁村、十束村で代々語り継がれたものです。十本足の巨大がタコが村を襲っている様子ですね。被害の後は、この村では漁の前に魚介類の供養を欠かさずやるようになったとか……」
さらに村の言い伝えでは、タコを捕ったら必ず足の数を数えて、十本の場合は海に返すように戒められているそうだ。
カミシモ副隊長の報告を聞き、マホロバ隊長は腕組みをした。
WACの任務は怪獣退治ではない。人間を含むすべての生物を慈しむことがモットーである。
怪獣や魔獣、宇宙生物をなるべく倒さずに解決させることを目指している。
もちろん人的被害を回避できない場合は攻撃ができるが、戦闘はできる限り避け、なるべく殺さずに退散させるのがよいとされる。
WACもスポンサーの意向には逆らいづらいのだ。
「こちらから手を出さなければ被害はなさそうか。ただ、現場付近で怪獣反応があったらしいな。そっちの調査はどうなっている?」
それには長身のタテナガ隊員が答えた。
「はい。すでにナナメ隊員とジン隊員が現場に向かっています」
* * * * * *
WACのナナメ隊員とジン隊員は十束村の海岸で海女さんから話をきいていた。
海女さんは金髪の若い女性でジュリアと名乗った。
「実はですね、足が10本あるように見えるタコは時々いますよ」
「そうなんですか? 奇形とか突然変異ってやつでしょうか?」
ジンが聞くとジュリアは首を横に振った。
「正常なタコですよ。ちゃんと食べられます。タコの足って、魚に噛み千切られても生えてくるんですよ。でも、先端が縦に裂けると枝分かれするんです」
眼鏡をかけた小柄な女性のナナメ隊員はポンと手をたたいた。
「そうか。根元は8本でも、先端がそれより多く見えることもあるんですね」
「この村では、タコを捕まえたら足を確認するんです。もし10本あったとしても、根元が8本だと大丈夫。でも、もしも根元も10本だと逃がさないといけないです」
「ジュリアさん。問題の十本足のタコって、見かけた人がいるんですか?」
ナナメが聞くと、ジュリアは村の一方を示した。
「これから案内します。タコ焼き屋のおっちゃんが昔見かけて逃がしたそうですよ」
ジュリアの案内で一軒の店舗にやってきた。
店前にタコ焼きの屋台があった。
「おっちゃんいるー? WACの人が話をききたいってー」
店の扉をあけて、ジュリアが声をかけた。
「あれ? おっちゃんどうしたの? 具合悪いの?」
店の中で一人の男性がうずくまって震えていた。
「ジュ…… ジュリアか…… ここはあぶないから…… にげろ……」
「何を言ってんの? あぶないって何が?」
「……忙しくて……数えていなかった…… タコ神さまが……おいかりだ……」
「え? よく聞こえない。なに?」
近づこうとしたジュリアの手をナナメがひっぱった。
「待ってください。ジュリアさん、どう見ても様子が変ですよ」
振り返った男性は、身体の半身が異形の怪物のようになっていた。
そして、その背中から触手のようなものが伸びた。
「にげ……ろ…… オレは…… にんげんを…… くいたくなってきている!」
「ジュリアさん! 離れて! WAC麻酔弾を撃ちます!」
ジン隊員は麻酔弾を撃ち込んだ。
男性の怪物化した左腕に当たる。男性が左腕を食いちぎって捨てた。
すぐに左腕の触手が再生した。
ジン隊員とナナメ隊員、それにジュリアが店から離れた。
男性もそれを追うようにフラフラと店を出る。
「ナナメ隊員! ジュリアさんと一緒に村民の避難誘導をしてください! おれは少しでも怪物の歩みを遅らせます」
「了解です! ジン隊員も気をつけてください! ジュリアさん、行きましょう!」
ナナメ隊員とジュリアが駆けて行った。
ジン隊員はWACガンをショックモードに変えて撃ち込んだ。
が、あまり効き目はなさそうだ。
男性のだんだん右半身も怪物化していった。皮膚は黒っぽくぬめっている。
その身体がどんどん大きくなっていき、そして店舗よりもはるかに大きくなった。
「くっ……やるしかないか」
ジン隊員は周囲に人影がないかを確認した。
実はジン隊員は地球人ではない。彼はネコ座H85星から来た宇宙人なのである。
ジン隊員は両手首のブレスレットを打ちあわせた。
「ライガーーーーーー」
十束村の上空に赤く燃えるオーラの巨人が現れた。アルティメマンライガーである。
ライガーは海岸の砂浜に着地し、タコ怪獣と向かい合った。
タコ怪獣は触手を伸ばしてからみついてきた。
ライガーは両腕を触手に滑らせるようにして受け流す。
ライガーは突き・蹴りなど打撃を主体とした宇宙格闘技を心得ている。
しかし、WAC隊長から打撃技はなるべく使わないように命じられている。
うかつに怪獣をグーで殴れば、あとでジンが隊長に殴られる。(悲)
怪獣はその体内に様々な病原菌や瘴気、それに寄生虫などを宿している可能性がある。
『怪獣の遺体が出る方が、怪獣が暴れるよりも環境破壊が大きい』という主張もあるのだ。
今回のように一般人が怪獣化した場合は、難しい対応が求められる。
倒してしまったら、ジンも後で隊長にしばかれるだろう。
そこへナナメ隊員の操縦する小型飛行機WACスパロウが飛んできた。
拡声器からナナメ隊員の声がひびく。
「ライガー。SBH弾で怪獣と村民を分離させます。解析が終わるまで、もうしばらく持ちこたえてください」
ライガーがWACスパロウに向かって、親指を立てた。
そしてタコ怪獣に方に向き直った。
が、ふしぎなことにタコ怪獣がいなくなっていた。
ライガーはきょろときょろとあたりを見回した。
砂浜で、ジュリアがライガーに向かって叫ぶ。
「ライガーさん! 下です! タコはカメレオンよりも保護色が得意なんです! 砂に擬態しています!」
ライガーの足首に触手がからみついた。別の触手がヒザや腰にもからみつく。
両腕でそれを外そうとしたが、触手の力は予想以上に強く、外せない。
「ジュリアさん! タコの弱点って何ですか!」
WACスパロウの拡声器からナナミの声が響く。
「えーと……えーと……。そうだっ! タコは真水が嫌いです!」
それを聞いたライガーが胸前で合掌するように手を合わせた。
指先をタコ怪獣に向けるとホースのように水が噴き出した。
アルティメ水流という技である。
タコ怪獣がライガーから離れた。
「SBH弾! 解析が完了しました。撃ちます!」
SBH弾……別名『帰巣誘導弾』は、怪獣に対して沈静化と帰巣本能の増幅を行う作用がある。
これを使って巣に戻らせるのがWAC基本戦術だ。
ただし最大限に効果を発揮させるには、怪獣の特性に合わせて成分を調整する必要がある。
WACスパロウから発射されたSBH弾は、タコ型怪獣の周囲でたくさんのシャボン玉になって、つぎつぎと炸裂した。
いつのまには怪獣の姿が消え、海岸では中年男性が倒れていた。
タコの形のもやのようなものがそこから離れて、波の中に消えていった。
それを見届けたライガーはWACスパロウに敬礼をし、空へ飛び立っていった。
「ライガーさーん。ありがとーー!」
海岸でジュリアがライガーに向かって手を振った。
そしてジュリアは男性の方にかけていった。
* * * * * *
男性はすぐに息を吹きかえした。
村の医者に診てもらったが、身体には異常がなさそうだ。
男性は元気に仕事に復帰して、タコ焼きを作り始めた。
「おっちゃん、今日ぐらいは休んだ方がいいんじゃない?」
「そういうわけにもいかねえ。今日捌いたタコはちゃんと料理して食ってやんねぇとバチあたりなんだ」
元気に働く男性をナナメ隊員とジン隊員が見守っていた。
ジン隊員は冷たい麦茶をもらって、なんどもお代わりをしていた。
「飲みすぎじゃないですか? ジン隊員。お腹を冷やしすぎると体調をくずしますよ?」
「いやぁ……今日はすごくノドが渇くんですよ。ナナメ隊員。ふしぎだなぁ…… ……おかわり……」
そう言いながら、ジン隊員はポットから冷たい麦茶をコップに注いでいた。
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アルティメマンライガーの設定を貸していただいた大浜 英彰様に感謝します。
アルティメマンシリーズは大浜 英彰様の小説の作中作です。