5話
明るい日差しが降りそそぐマーグレイブ家のリビングで行われているのは、鏑木 駱駝こと、サクラ・マーグレイブが新しく手にした魔法について調べること。
「この魔法解読辞典を使って調べたところ、サクラが手に入れた3つの魔法の内のひとつが判明したよ」
「たったのひとつ?!」
無謀にも魔王に突撃して、前代未聞の契約を結んでしまった馬鹿は嘆きの言葉を口にした。
「まあまあサクラ、ひとつわかっただけでも幸運だ。そういう考えもあるよ。この辞典に乗っていない魔法なんて山ほどあるんだからね」
父マールハイトが落ち着いた口調で言う。
「そうなの?ちゃんと全部調べて乗っけてくれればいいのに」
「普通は自分の魔法については語らない方が賢明だよ。すごい魔法を持っていることが周りに知られたら、悪い人から誘拐されたり、利用されたり、殺されたりすることもあるんだから、簡単に喋ったりしないのよ」
「そうかぁ………」
「だから私は1つも解明できないという事も十分にあると思っていたんだ。けどまあまずは判明したものについて読み上げるよ。この真ん中にある魔法についてだ」
「お願いします、どうかいい魔法でありますように」
駱駝は手を組んで祈る。
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特殊魔法「バーサーカー」
一時的に身体能力と魔力が格段に跳ねあがり、強大な力を手にすることが出来る。しかし思考力は格段に落ちるため、自分で自分をコントールすることができない。さらに戦闘終了後には反動が訪れるため諸刃の剣である。
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「ふぇ?」
祈りの姿勢のまま固まっている駱駝。
「これってハズレ魔法じゃないの?」
母マリーがあまりにもはっきりと言った。
「ちょっと待ってよ、これってSランクの魔法じゃないよね?」
「あっ、確かにそうね。魔王キッポウシと約束したのはSランクの魔法を引き換えにっていう話だったからこんなハズレ魔法を貰っても契約は成立しないんじゃないの?」
「ちょと母さん、俺の魔法のことをハズレ魔法って言うのやめてよ」
「だってこんなの、ものすごく使いにくそうな魔法じゃないの。頭が馬鹿になってとにかく暴れまわるってことでしょ?そんなのが味方にいたら厄介よ?」
「そうかもしれないけど、そんないい方しなくたっていいじゃん」
「まあまあふたりとも落ち着くんだ」
父マールハイトが話し始めた途端にふたりは黙った。リーダーが話し始めた時には黙る、これはマーグレイブ家の決まりなのだ。
「特殊魔法「バーサーカー」はれっきとしたSランク魔法だよ」
「本当に?」
「私もこのスキルを見たことが無いから何とも言えないけれど、Sランクに分類されているという事は、かなり強力な効果を持った魔法であることは間違いないんじゃないかな」
「あいつ………」
「どうしたのよサクラ」
「キッポウシのことだよ、あいつわざと「バーサーカー」を選んだに違ないよ。たぶんあいつは辞書を一生懸命調べて、Sランクの魔法の中で一番使えないやつを俺に送りつけてきたんだよ、きっと」
「そうだとしたら魔王キッポウシはかなり人間の心情を理解している存在だという事になるね」
「絶対そうだよ、だってあいつは喋ってる俺を見ながらめっちゃ笑ってたんだもん。あー騙された、いらない魔法と引き換えに変な契約を結ばされたよ」
泣き言のような声を出しながら崩れ落ち、悔しそうに床を叩く駱駝。
「いらない魔法だとまだ決まったわけじゃないよ、サクラ。ともかく使ってみて理解したうえで、使いどころさえ考えれば強力な力になる可能性はある」
「本当?」
床から父を見上げる駱駝の目は潤んでいる。
「魔法は使い方である。この言葉はサクラも知っているだろう?」
「教科書の最初の方に書いてある言葉だね」
「そうだ。私も協力するからこの「バーサーカー」という魔法について知るところから始めようじゃないか」
「わかったよ父さん」
駱駝はゆっくりと立ち上がった。
「問題なのはこの時点にも載っていない二つの魔法についてだけど………」
「お爺ちゃんに調べてもらいましょうよ」
母マリーが言った。
「確かにそれは一番確実だとは思うけど心配だな。老人が魔法を使うと体への負担が大きくて、体調を崩すかもしれない」
「大丈夫よ。今日だって朝からもりもりご飯を食べているし毎日散歩だってしているんだから体調はまだまだ大丈夫、耳はちょっと遠いけどね。それに可愛い孫の為なんだから頑張ってくれるでしょう」
「そうだといいんだけどね………」
「だってこのまま何も分からないままじゃ宝の持ち腐れになっちゃうわよ。魔王との契約が成立してしまっている以上は有効活用するしかないじゃないの」
「そうだね、それじゃあ頼むことにしようか。エンリルさんの持っている魔法は、正体不明の魔法をも解読することが出来る唯一無二の力だからね」
人は言う。
マーグレイブ家は化け物一家だ。
全員が強力な特殊魔法を持った魔法使いの一族であり、手を出したものは二度と帰っては来れない。過去にマーグレイブ家に対して戦争を仕掛けた大貴族はたったの3日で壊滅されられた。
決して侮ってはならない、安易に立ち入れば頭から食われるぞ。
飲み屋では今日もまことしやかに囁かれている。
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