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4話

 


 明るい日差しが降りそそぐマーグレイブ家のリビングに、ひとり上半身裸の若者がいる。


 テンションだけで魔王城へと突撃した結果、大変なことになっている鏑木かぶらき 駱駝らくだこと、サクラ・マーグレイブだ。


 魔王キッポウシとの契約は成立しているのか否か。


 それを解明するために「真実の魔道紙」を裸の体に押し付けている。これは当人の所持している魔法を知ることが出来る魔道具だ。


 じわじわと文字が浮かび上がって来る。


 緊張に静まり返るリビング。


 文字がはっきりと浮かび上がり、「真実の魔道紙」は皮膚から剥がれ落ちた。これがこの魔道具の使用完了の証。


 想像以上の分量。


「ねえサクラ、あなたの持っている魔法は3つだったわよね?」


 尋ねる母マリーの顔は息子と同じように青ざめている。


「うん、間違いないよ」


 乾いた声で答える。


「全然違ってるじゃないの!」


 駱駝の目の前で「真実の魔道紙」を目の前につきつける。


「うう………」


 無言の時間が流れた後で父マールハイトが口を開いた。


「ここに書かれている魔法の数は6つ。新たに魔法が増えることは無いわけではないが滅多にあることではない。従って、これは魔王キッポウシによるものと考えて間違いはないだろう」


 全員が一心に見つめている読むことのできない文字からは、不穏な力を感じる。


「あいつ、一体どういうつもりなんだろう。魔法をくれって言ったのは俺だけどそれにしてもなんで3つもくれたんだろう?」


「そこは考えないといけないところだね」


 父マールハイトが落ち着いた声で言う。


「っていうかいつの間にそんなことしたんだよあいつ。全然気が付かなかったんだけど。まさか俺が寝てる間とかにこの屋敷に来て、魔法を使ったってこと?」


「うそー!そんなの魔王が家の中にまで入ってきたってことなの?!そうなったら私の寝ている顔とかも見られているかもしれないの?そんなの困るわ」


「夜は警備の人が見てくれているから安心だと思ってたけど、そんなこと無いじゃんか!」


「そうね、そうよね、」


「ふたりとも落ち着きなさい」


 父が話し始めると同時に静かになった。


「警備の問題は確かに再考の余地がある」


「それってものすごい大問題じゃん!だってあいつは夜だったらいつでも、僕たちの誰でも殺せるってことだよ?」


「怖い………」



「だけど今は警備の問題と契約の問題は分けて考えなくてはならないよ。二つを一緒にしたら問題の解決が困難になる。ひとつひとつ解決していったほうが早い」


「そうだね」


「だからまずは魔法契約の話からしよう」


「ねえ、魔王はなぜそんなことを?だってサクラの言ってることはめちゃくちゃで、あんな取引に魔王が納得するなんて思えないのだけど」


「わからない。魔王キッポウシの意図は全く分からない。そもそも考えること自体が無駄なのかもしれない。魔王の考えを人間が理解できるかどうかは疑問だ」


「うーん………」


 駱駝は顎をさすりながら考える。


「しかしこの現状において我々がすべきことは明らかだ」


「それはなに?」


「契約を成立させる事。それさえできれば魔王の意図がなんであれ問題は無いんだ」


「なるほど」


「もし違反すれば「猟犬」とやらを放たれることになる。それが何を表すのかは分からないが、サクラを害することだけは間違いないはずだ」


「猟犬………」


 母マリーのつぶやきの後にしばらくの静寂。


「父さん、俺気になることがあるんだけど」


「言ってごらん」


 駱駝は少し間を開けてから言葉を発す。


「魔王と約束したのは「Sランクの魔法をと引き換えに毎年3人の恵まれない子供の面倒を見る」ことだった」


「そうだね」


「もしかしたらあいつは、魔法を3つくれてやったんだからこっちが果たす約束も3倍だって、そう言ってくるつもりなんじゃないの?」


 駱駝が泣きそうな顔で言う。


「私も同じことを考えていた」


「やっぱり!そうだよね」


「ちょっとまって、サクラが約束したのは毎年3人の子供の面倒を見るっていう事でしょ?それの3倍っていうことは………」


「9人?」


「ちょっと、どうするのよサクラ!毎年毎年9人ずつ増えていくの子供の面倒なんて見れるわけないでしょ?!今年に9人で、来年になったら18人になるのよ?」


「これは罠だよ!こうすれば俺たちが困ることが分かってて、わざと魔法を3つもくれたんだよ。いくらなんでも毎年9人は多すぎるもん」


「再来年になったら27人になるわけでしょ!?次の年も9人増えて。いくら領地が広いとは言ってもそんなの無理よ」


「落ち着きなさい」


 父マールハイトが話し始めると駱駝もマリーも話すことを止める。これはマーグレイブ家のルールだ。


「サクラが言ったようにこれは魔王の仕組んだ罠だと思う」


「絶対そう」


「過去のやり取りから考えても、魔王キッポウシが人並み、それ以上の知性を持っていることは分かっている。あえてやってきたとしか考えられない」


「絶対そうだよ、毎年3人っていうのはあいつが言いだした条件なんだ。俺がそれは難しいって言ったら、あいつはそんなことも出来ないのか、みたいに言ってきたから………あいつ、あの時からこれを考えていたのかもしれない」


「一体何のために………」


「っていうか俺、思ったんだけどさ」


「なんだい?」


「あいつは楽しんでるよ」


「楽しむ………」


「今思い返してみれば、話している間中あいつはずっと笑ってた気がするんだよ。さっき父さんはあいつの目的が分からないって言ってたけど、それはたぶん俺を困らせて遊ぶ事なんだよ」


 父マールハイトが顎をさする。


「サクラがそう言う印象を持ったならそうかもしれない」


「あいつ酷いよ!」


「魔王なんだから酷いのは当たり前じゃない!だから近づいちゃ駄目って言ってるんでしょ」


「それはもう何回も謝ったじゃん!」


 驢馬は髪の毛を掻き毟る。


「本当にただの遊びなのか?」


 マールハイトが顎を摩りながら自分に問いかけるようにして言う。


「Sランクと言えば最高位の魔法だよ。いつ敵に回ってもおかしくないサクラにそれを渡すなんて………」


「絶対そうだよ。あいつは楽しんでるんだ。だって今まで一回も負けたこと無いから。人間なんか弱いって思って舐めてるんだよ」


 自信満々に言い切る。


「私にはまだ疑問だけど、それでも実際に魔王キッポウシと会って話しているサクラの印象は重要だ」


「絶対そうだよ」


「まあ、とにかく今するべきことの1つ目は、子供を迎え入れること。2つ目は、新たに増えた3つの魔法、この正体を明らかにすることだよ」


 父マールハイトは落ち着いた口調で語った。


「1つ目については、奴隷商で買って来るのが一番確実だと思う。うちの領地に奴隷商は無いから他の街にいかないといけない」


「わかった、それじゃあ旅の準備を今から始めましょう」


「そうだ、1つ目はそれでいい」


「それじゃあ2つ目の方だね。これはめっちゃ気になるよ。あいつ、俺に何の魔法をくれたんだろう?」


「これに関しては魔法解読辞典を使って、ここに書かれている魔法文字を読み取ってみよう」


「真実の魔道紙」へ目線を送った。


「これは今までに解読することが出来た魔法文字について書かれているから、もしかしたら新しい魔法の正体が分かるかもしれない」


「新しい魔法………」


「どうしたの?」


「なんでもない」


 駱駝の顔がにやけている。


 話しているうちにこれから何をするべきかという事が分かったおかげで、、心が落ち着いてきた。


 そうすると今度は新しい魔法をGETしたという喜びが湧いてきた。


 新たな魔法が3つ。


 Sランク魔法はこの世界における最高峰の魔法で、世界の名だたる魔法使いはそれぞれにSランク魔法を所持している。男子ならば憧れないものはいない。だからその気持ちは十分に理解されてしかるべきだ。


 しかしながら、その様子を見た母は、こんな状況になってんのは全部お前のせいなのに何を喜んどんじゃいと怒る。反省していないだろお前、ということになる。だからその気持ちは十分に理解されてしかるべきだ。


 リビングに声高らかな怒鳴り声が響いた。






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