竜は長崎の海に⑤
「母ちゃんって、タイが大好きなんだよ」
「なんや、やぶからぼーに」
ある日の午後、網のほつれを直していたシンの背後からネフェルの声が飛んできた。
村から近い海岸。波打ち際の岩に腰を降ろしていたシンの肩に、背中にボウガンを担いだ少女の肘が乗る。
「だーかーら!母ちゃんにタイをあげたら、とっても喜ぶって話よ」
「…聞いてへんがな」
シンは手を休めず、網を直し続けている。
ポスッと彼の頭にネフェルの手も乗る。
「シンって、ここに来て大分経つのに、まだ奥さんいないでしょー?」
「余計なお世話じゃ。つか、爪が痛いねん」
「あ、ゴメン」
猫族少女はシンの額に刺さっていた爪を、毛に覆われた指の中に引っ込める。
でも彼女の口は引っ込まない。
「母ちゃんは、あたし達が生まれてすぐに父ちゃんを亡くしたんだけどね。
以来、ずっと独り者やってるわけなのよ。まだまだ若いのにさー。
可哀想とかぁ、頑張ってる素敵な女性だとかぁ、思うでしょ?」
「ティティはんが、かぁ。ま、確かに元気やし、明るいし、働き者やし…」
ふと網を直す手が止まり、ネフェルの母の姿を思い浮かべる。
ネフェルと同じ茶色く長い髪をなびかせ、金色の瞳はクリクリと大きくて綺麗だ。
ピコピコ動く耳やピンと伸びる尻尾も愛らしい。小麦色の肌は健康的。
子供を二人産んだだけあって胸は大きい。でもスタイル抜群な引き締まった体。
いつも朝早くから弓を片手に山へ行き、木の実や鳥を持ち帰る。
モリを持って海に行けばカゴ一杯の魚を捕ってくる。
犬族の背にまたがり草原を駆け抜ける様は、勇ましくて格好いい。
そんな男らしいティティを、自分は料理や裁縫をしながら帰りを待っている…
性別・雄はガックリと肩を落とした。
「アカン…旦那より強い女房って、勘弁してや」
「なーによそれー?
ダンソンジョヒってヤツ?そんなの百年前のアシキフウシュウじゃないのー」
「いや、あのな。大陸では、まだ現役の考え方なんやで、それ」
「だーかーらー!村に来て、もう百日くらい経ってるじゃないのよ。
いい加減、この村にも慣れていいんじゃない?」
「すまん。譲りたくないモノは、やっぱあんねん」
「そんなコト言ってもさ~。周りを見てよね」
言われてシンは周りを見渡す。
目の前には海岸。熱く輝く太陽が照りつける。
後ろには木があり、その木陰の岩に腰を降ろしている。
自分の背中にはネフェル。ニヤニヤして体を寄せてくる。
海岸には、あちこちに崩壊が進む家屋や建物がある。
アスファルトもコンクリもひび割れ砕け、木々の中に埋もれつつある過去の遺物。
他に村人はいない。いるのはネズミとかヘビとか小鳥とか。
「…ネフェルちゃんと、二人っきりやね」
「へー」
ニヤニヤ笑いのまま、シンの頭に置かれたままの彼女の指からニョッと爪が飛び出す。
「そういうコトを言ってるんじゃ、なくてね」
「わーっとるがな!
村で結婚してない若いモンは、俺とクルミとネフェルだけっちゅーことやろ?」
「それと、母ちゃんね。シンと年も同じくらいじゃない?」
「…俺、もう少し若いと思うねんけど」
「知らないわよ。正確なコヨミないから。大体同じくらいの歳だってのは確かでしょ?」
「そやけど…なぁ…」
シンは誤魔化しついでに手に持っている網をいじり出す。
「あ、あんな、他の村はどないなん?
霧島とか山口とか四国とか。最近、広島にも新しい村が出来たって聞いてるねんけど」
「目の前のチャンスをモノに出来ないヤツが、生意気に夢見てんじゃないわ」
「いや、夢とかやのーて。
ほら、猫族って女まで、むっちゃ強いやんか。やぱ男として、嫁は守ってあげたくなるようなンが好みやなぁ~って」
「ゼータクは敵!」
「…そういう話とちゃうやろ」
ネフェルはヒョイッとシンの前に立ち、「とにかく、タイよ!タイ捕まえてね!」と言い残す。
そして軽やかな足取りで海岸と森の境界を走っていった。
残されたシンは、溜め息をつきつつ網を直し始める。
「…んなコト言われても、なぁ…。
男としてやぁ、女房の尻にしかれるって、どうよ?
いや、旦那が尻に敷かれる家の方が上手く行く、とは聞くけどなー。
でもこの場合、あれやん?俺、どーみてもティティはんに食わしてもろてるゆー感じやんか。
別にティティはんが嫌いなワケやないけど、そら、ええ人や思うねんけど、なぁ…」
ブツブツと独り言をいいつつも、網を直す手は休まない。
その甲斐あって、網の修理はすぐに終わった。
そんなシンの背後、森の中には身を潜める人影があった。
その頭についた三角の耳は、真っ直ぐシンの方へ向き、彼の独り言を拾い続けている。
――どうだ?ネフェル。
二つの人影、その一つが呟く。
――ん~、脈アリ。
木陰に隠れるクルミと、こっそり戻ってきていたネフェルが、シンと母の仲をとりもとうと画策してた。
同じくらいの時刻。
山間を縫うように走る廃線に電車が通らなくなって百年。
草の中に埋もれた線路の上を歩く犬族の列があった。
その背には多くの荷物。様々な木の苗や種が入ったカゴも積まれている。
そして先頭を歩く犬の背に座っているのは、猫族の女。お弁当の干し魚をかじるティティだ。
羽虫が飛んで逃げる草むらを踏みしめ、谷を抜けて平地に出てからもしばらく進むと線路沿いにある廃墟にやって来た。
彼女はヒョイと降りて、倒れて錆びに覆われた看板の文字を読む。
「え~っと…てる…おか…光岡、か。ここだね」
周りを見ればまばらに生える木、そして廃墟と化した村があった。
所々に残る大きめの建造物も、村を囲む山も草に覆われている。
そして遠い山々の中に、若い木で覆われた斜面が見えた。
その隣の山には小さな青い点がある。セイリュウの姿だ。
「いたいた。みんな!あの山まで行くよ!」
叫ぶと同時にティティは再び犬の背に飛び乗る。
五頭の犬は長老がいる斜面目指して駆け出した。
山の斜面と麓にはセイリュウだけでなく、数人の人と猫がいた。
セイリュウは山の斜面に爪を立てて穴を掘り、その穴に他の者が苗を植える。
そして周囲の瓦礫から集めてきた棒で苗の支えを作っている。
・・・おーい!新しい苗を持ってきたぞー・・・
遠くから響いてくるティティの元気な声に、彼等は手を振って答えた。
「ミカンだのマンゴーだのも、あれこれ持ってきたけど。こんなんで良かったかい?」
「おぉ、十分じゃ。
南にあるダムが崩れそうじゃったが、その決壊を避けれる場所さえ選べば問題なかろう」
セイリュウは満足げに小さな枝を伸ばす苗を眺める。
他の者達も苗を手にし、どこに植えようかと相談しきりだ。
ふと思い出したように、他の荷物も降ろしていたネフェルへセイリュウが尋ねた。
「ところで、ネフェルよ。おんし達、ここまで線路跡を歩いてきたじゃろ?」
「ん?ああ、久大本線って言ったかな?そこを通ってきたね」
「それで、途中に温泉は湧いていなかったか?」
聞かれた彼女は首を捻って考え込む。
「温泉?…いや、見なかったよ。川の水は冷たかったし」
「そうか、ふむ…」
その話を聞いていた他の者も顔を上げる。
「じーさま。
温泉はやっぱり東にあるオンセンガイとかいうトコまで行かないと、自然には湧いてないんじゃないかな?」
「ですよね。
この辺も昔はお湯が地下から湧いてたらしいですけど、それって機械で地下から汲み上げてたんでしょ?」
「つか、じーちゃん、温泉ってヤツに入りたいのかい?」
「あ~…うむ~…」
青い竜も首を捻って考えてしまう。
「実は、四国へラプター達が移住する時、別府や湯布院を通ったんじゃ。
確かに噂通り、お湯がコンコンと沸き出しておった。
試しに入ろうとしたが、熱くての。
移住する連中を運ぶのにも忙しかったし。結局それきりじゃ」
九州の大分県と四国の愛媛県は、それぞれ半島がお互いに向けて伸びている。
また、途中には水没を免れた小島もあった。
なので、竜族は背に移住者達を乗せて海を渡る時、その地を通った。
そして、その大分側の半島近くにある別府や湯布院は温泉が有名。
湯量が凄まじく、昔の人々は温泉で毎日風呂に入っていた…。
「…と、聞いとるんじゃがな。
その時は興味がなくてのぉ。人族に効能があるとか言うんじゃが、竜には関係ないだろう、と。
しかし、温泉は体に良いという。
ワシもいい歳じゃし、柚木村近くで入れる場所があれば、ちょっと試してみようかと」
「ふ~ん」
降ろした荷物から食べ物と水を取り出し、犬も含めて皆で食事ついでにセイリュウの話を聞いていた。
だが、猫族女性達は興味なさげだ。ティティと、植林をしていたもう一人の猫族女性はボンヤリしていた。
「ねー、ティティ。温泉とか、風呂って入りたいです?」
「…バステは、どう?」
バステと呼ばれた白い髪に黒くて湿った鼻の猫女は、素っ気なく答えた。
「お風呂、嫌いです」
「だね」
聞いてる人族の男達は呆れ顔だ。
「おめーらな、ティティもバステも。猫族だからって風呂まで嫌いになることはねーじゃねーか?」
「寒い時とか、熱い湯とかにつかってると、気持ちいいぞ」
だが猫族達は白い目で睨み返してくる。
「…この暖かい国で、なんで熱い湯に浸からなきゃいけないのさ」
「昼間に川で水浴びするだけで十分ですよ」
男達は反論出来ず。
すっかり亜熱帯に近くなった九州では、確かに冬でもないのに熱い風呂へ無理に入りたくもない。
「それもそうなんじゃが」
セイリュウは干し魚を十匹ほどまとめて口に放り込んでから、話を続ける。
「温泉は飲んでも浸かっても健康に良い、という話なんじゃ。
実際、昔、日本人は温泉に入るのが大好きじゃった。
長崎とも霧島とも十分離れておるし、水質次第なんじゃが、水が豊富というのは有難い。
次の植民候補地として、本格的に調べておこうかと思うんじゃよ」
「ふ~ん。ま、いいんじゃないの?」
興味なさげなまま、気のない返事をするティティを、セイリュウが意味ありげに見下ろしていた。
「そう言うてくれると、話が早いのぉ」
そんなワケで数日後の柚木村。
白と黒の犬族にまたがるのは、ティティ・クルミ・ネフェル。そしてシン。
四人と二頭はセイリュウはじめ村人達の見送りを受けていた。
「んじゃ、大分の調査を頼むぞい。シンや子供達にも、東の土地の地理を教えてやってくれ」
「分かったわ。んじゃ、みんな行くよ!」
威勢の良いかけ声と共に、彼等は柚木村を後にした。
調査隊として出発した四人の姿が見えなくなった頃、見送るセイリュウの横にいるバステが、何か含み笑いをしだす。
「行きましたね、ベップへ」
「おお、行ったのぉ。別府へ」
「ベップの調査となれば、やっぱり入りますよね。温泉へ」
「おお、入るのぉ、温泉へ」
「まだオンナザカリなティティと、大陸から来た若者のシンが、大分まで一緒に旅を…」
「そして温泉に入るわけじゃ」
淡々と答えるセイリュウ。
だが、バステの方は含み笑いが段々とイヤらしい笑みになっていく。
「長老もご苦労様ですわねぇ~」
青い竜の方は、あくまで事務的だ。
「わしにはよく分からんが、何故か昔の人は、旅と温泉と結婚がセットになっとったらしい。
ま、ティティは若いんじゃ。まだまだ子供をこさえてもらわんと。
それに、大分を新しい村の候補地にしたいのも本当じゃし」
「もしかしたら、ネフェルの方と…ということもありえますわよ?」
「別にどっちでもよいよ。ネフェルも元気な子を産めるじゃろうて。
…しかし、なんでこんな手間をかけねばならんのやら」
「おほほほ。
やはり夫婦の契りを交わす前には、それなりの準備と儀式と清めが必要という事ですのよ」
「人というのは、相変わらず面倒臭いわい」
ちょっと呆れ気味のセイリュウ。
だがバステも、バステと同じく見送っていた大人の村人達も、揃ってニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべていた。
そんな大人達のヨコシマな顔を、小さな子供達の純粋な瞳が不思議そうに見上げている。
そんなサクリャクに巻き込まれている当人達は、崩壊の進む高速道路跡や草に埋もれた線路を通り、一路東へと向かっていた。
「まーったくさぁ~。長老様も見え透いてるねー」
コクライの背に乗るティティが、後ろに乗るネフェルへ愚痴を言う。
「最近、ようやく再婚を勧めなくなったと思ったら、今度はシンを連れて大分調査に行けだなんて。
あたしゃ興味ないっての!」
ネフェルは困った顔で後ろを振り向く。
コクライの少し後ろを、白い犬族に乗ったクルミとシンがついてくる。
「おいこら、ネフェル」
「ふへ!な、何?」
慌てて前へ顔を戻せば、母が肩越しに睨んできてる。
「どーせ、あんたもクルミも、長老様から何か言われてるんだろ?」
「ななな、何にもないよ!ホントだよ」
慌てて首を横にフルフルと往復させるが、尻尾が思いっきり膨れあがってピンッと立っていた。
見るからに怪しい。
「ふ~ん。ま、あたしゃシンみたいのは趣味じゃないんだ」
「じゃ、どんなのが好みなの?やっぱ、死んだ父ちゃんみたいの?」
「あ~…そうだねぇ」
コクライの背に揺られながら、ティティは遠い目をする。
「あいつは、金髪が綺麗で華奢な、細いヤツでさぁ。
よく病気もしたし、他のヤツにいじめられたりしてたなぁ。
ほーんと、見るからに頼りなくて、でも可愛くて、ほっとけないヤツだったよ。
でさ、あたしが助けてやんなきゃダメだなぁ~って思ってね。
結局、そのまま夫婦になっちまった。
でも、病弱だったんで、あんたらが生まれてすぐに病で死んでね。
以来、色恋なんて面倒臭くってさぁ。
あんたら育てるだけで手一杯だったし。もーいーや、てね」
サバサバと語る母に、娘は苦笑いしながら「ダメっぽいなぁ…」と感じていた。
そしてその後ろでは、クルミとシンが同じ話をしていた。
「…ていうのが、死んだ父ちゃんだったそうだよ。
とにかく手先が器用で、薫製がとっても上手だったって」
前に座るクルミの話を、シンが面白く無さそうに聞いている。
「…つまり、何かい?
俺はもっと、なよっとして頼りなさそうにしなアカン…というワケか?」
「あー、えーっと…それよりも、母ちゃんをキュンッと来させるくらい、男らしくしたらいいんじゃないかな、と…」
「どっちも無理っぽいわ…」
シンの外見は、目も体格も細い。が、別に痩せぎすでもない。肉が締まっているだけ。
なよっともしてないし、男らしいといえるほど豪快な性格でもなかった。
簡単に言うと、普通の人。
その日の夕方。
たき火を横に、地面にいろんな文字や数字を書いているティティ。彼女の周りで他の者達が座っている。
二匹の犬は既に寝息を立てている。
「…と、これでカタカナ全部覚えたね。平仮名より覚えやすかっただろ?」
「あ~、うん…まぁ、なぁ」
あぐらをかいて地面に書かれた日本の文字を睨むシンは、眉間にシワを寄せている。
その隣では、ネフェルとクルミが分数の割り算と格闘していた。
「だから…なんで分母と分子をひっくり返すのよ…」
「分からない。じーちゃんに一度聞いたんだけど…」
「なんて言ってた?」
「ムチャクチャ長くて、ややこしくて、訳が分からなかった。
『難しい事はいいから、ひっくり返してかけ算にする、とだけ覚えとけ』だって」
「なによそれー。ていうか、これって何の役に立つのよ」
「さぁ…?」
二人とも額をつきあわせ、算数の難関に苦しんでいる。
チラリと横の二人を見たシンが溜め息をついた。
「あんたら、いつもこんなに難しいのを勉強してんの?」
その言葉に教師役のティティが視線を鋭くする。
「何言ってるのさ!こんなの、まだまだ序の口だよ。
こういう基礎の勉強が終わったら、次はもっと難しいの、理科とか医学とかが待ってるよ」
「えー?なんやそれー」
「なんやもかんやもないぜ!
あたしらは森を蘇らすために毎日頑張ってるんだから。
水と大気の循環とか、生態系とか、地質学とか、キッチリ覚えてもらうよ!
医学も絶対必要だからね」
「え…チシツ…ガ、ク?セイ…タイ、ケイ…?何、それ」
「ああ、日本語じゃ分かんないかい。
土や岩の種類や性質とか、生き物同士が作る関係についてのことさ」
「へ…?」
キョトンとするシンの様に、ティティは目を覆ってしまう。
「あんたらだって、大陸では昔の本を読んでたろ…?」
「んなこと言われてもやなぁ。
俺らは食うや食わずの生活で、その日の食べ物だけで精一杯やったんや。
それに勉強なんて、せいぜい簡単な文字や九九くらいしかせえへん。
普段それくらいしか使わんやん」
「ここじゃ、そーはいかないよ。
森を作るっていうのは環境全てを把握して、生物のバランスってヤツを考えてやんなきゃいけないんだから」
「きっつぅ~…。
つか、なんであんたらそんな、とうの昔に失われたはずの難しい知識を知ってんのよ。
昔の人らみたいに」
「長老が全部教えてくれるのさ。
あんたも以前、聞いたでしょ?長老が『研究や計画を全て頭に叩き込んでる』って言ってたの。
つまり長老は、昔の知識を未だに持ち続けてるってわけ」
「あ~そういえばそうなんや…。て…あれ?」
納得して頷こうとしたシンが、途中で首を傾げた。
ティティも、その様子に首を傾げる。
「どうしたんだい?」
「あー、えっとやぁ。
長老は、昔の文明を生み出したっていうカガクシャ達の知識を、頭に入れとんのやろ?」
「ああ、そういう話だったね」
「つーことは、長老なら失われた科学の力でブンメイってのを蘇らせる事もできるんちゃうん?」
「え?…あ!」
その言葉にティティが驚きの声を上げる。
クルミとネフェルも顔を見合わせてしまう。
「せやな…うん、そうやんか!
かつて世界を支配し、滅ぼしたっちゅう科学を、長老は今も持ってんで!
これって、凄い事ちゃうん!」
興奮しきりにウンウン頷くシン。
クルミもネフェルと手を取り合って跳びはねてしまう。
「そうだよ!あの巨大な遺跡を作った技を長老は持ってるんだった!」
「すっごーい!セイリュウじーちゃんって、本当に凄いんだぁっ!」
「せやで!ほんまやで!」
二人と一緒にシンまで跳びはねそうになる。
ぽこぱこどかっ!
ティティのゲンコツが兄妹の頭に軽く、シンの頭には遠慮なく飛んだ。
「何言ってんだい、お前達は!
長老が百年前に、どんだけ苦しんだか知ってるだろ?
今も必死で科学に破壊された大地を蘇らせようって頑張ってるんじゃないか!
その長老に、科学を復活させろだってぇ?
間違っても長老に、そんな事をいうんじゃないよ!」
三人はシュンとして地面に正座してしまう。
「これで話は終わり!
今日の勉強はここまでにして、寝るとするよ。
大分まで長いんだから、しっかり休みな!」
三人は慌てて火を消す。彼等は草を布団にして眠りについた。