竜は長崎の海に③
夕暮れの空の下、岩場の海岸を歩いているクルミと、流れてきた男。
男はキョロキョロと必死に海岸を探し回っている。クルミの方は既に諦めたような顔だ。
「この辺なら、僕らが熊本へ来るまでに歩いたよ、おじさん。何にも無かった」
「おじさんやない。シンって呼びや」
クルミの言葉には構わず、シンと名乗った男は海岸の漂着物を漁り続ける。
「船は嵐で沈んでもうたけど、俺が流されてたどりつけたんや。他の連中も流されて来てるかもしれへん」
そういって岩場にたまっている物を調べているが、それらはプラスチックやビニールの破片に木片ばかり。もちろん人はいない。
そんな彼等を南から呼ぶ声がする。
二人が見ると、コクライにまたがったネフェルが遙か南の海岸から帰ってきたところだった。
息を切らせた黒犬の背を降りたネフェルは、申し訳なさそうに首を横に振る。
「ダメだったわ、シンさん。
ずっと南まで見てきたけど、コクライの鼻は何も感じなかった」
隣のコクライも申し訳なさそうに頭を下げる。
子供とはいえ人が二人も背に乗れる大きな犬の迫力に、シンは後ずさってしまう。
それでもシンは二人に頭を下げた。
「そ、そか…なら、しゃあないわ。坊や達も、そのでっかい犬も、ありがとうな」
ペコリと頭を下げたシンだが、その目は上目づかいにネフェルの頭を見ていた。
正確には、彼女の茶色の髪から飛び出る猫の耳を。
自分の頭をじーっと見られているネフェルは「?」と首を傾げてしまう。
「あー、えと、それでやな…ネフェルちゃん言うたっけ?」
「あぅ、そ、そう、だけど…?」
見知らぬ人に名を呼ばれた猫族少女は、また怯えてコクライの影に隠れてしまう。すると、コクライが少し牙をむいた口をシンに向ける。
自分の頭を一飲みしそうな巨大な口を持つ大犬。その牙をむけられるシンは恐怖でさらに数歩下がってしまった。
「ちょ、ちょっと、勘弁してえな…別に悪い事せえへんから」
「こら、コクライ。大丈夫だから落ち着けッて」
クルミに額をさすられ、黒犬は牙を収める。そして兄はシンへ向き直った。
「ところで、ネフェルがどうかした?」
「あ~、えっと…その、やなぁ」
言いにくそうにするシンの目は、チラチラとコクライの後ろのネフェルへ、その頭の耳へ向く。
「その、頭についてるのって…もしかして、耳?」
「…もしかしなくても、耳ですけど」
「…本物の、耳?」
「…本物の耳、です」
当然のように答えるクルミ。だが、シンにとっては当然ではなかった。
「それ、なんか、人間の耳に見えへんねんけど…」
話の主題にされているネフェルの耳は、コクライの黒い体毛の後ろからヒョコッとのぞいている。真っ直ぐ二人に向けてられたままだ。
「猫族なんだから、人族の耳は持ってないよ」
「ネ、コ・・・ゾク?」
首を傾げるシン。ボサボサの黒髪に包まれた頭を右手が押さえる。
「え~っと、ようわからんねんけど…猫って、あの、小さくて毛むくじゃらでニャ~って鳴く猫か?」
「ネフェルはニャ~なんて鳴かないけど、その猫。猫と人のハーフ」
「猫と人の…ハーフ?」
シンはますます考え込んでしまう。
「ええと…。
うちらの国に伝わる日本の話では、なんか猫とか犬とか狐とか、獣の耳や尻尾持った女の子が空から降ってくるとか、押しかけ女房にやってくるとか、あんねんけど」
聞かれたクルミも考え込む。
「…猫族は空から降ってきたりしないし、押しかけ女房になるかどうかは人それぞれだと思う」
「…やんなぁ?
そもそもウチらの部族では、それ全部ジャパニメーションっちゅう作り話って聞いてんねん」
「そうだよ。
僕も街に残ってる本とかに、そういうマンガや物語があるのを読んだことある。もちろん全部、作り話」
「んじゃ…あんたの妹…?なんで、猫の耳もってんの?」
痩せたシンの節くれ立った指がコクライの後ろからのぞく三角耳をピシッと指さす。とたんに耳もコクライの後ろに引っ込んでしまう。
「だから、猫族だから。…もしかして大陸にはいないの?猫族って」
シンは目をパチクリと何度もまばたきしてしまう。
「おらへんよ。そもそも、こんなでかい犬かておらへんがな」
シンの指は人間より巨大な体を持つ黒犬コクライへとスライドする。
「へぇ~、そうなんだ。やっぱり外国って色んな所が違うんだね」
「いや、外国やからとか、そういう事ちゃうんちゃうやろか…」
シンはいい加減、呆れたような溜め息をついた。
月と星が輝く夜。
波の寄せる音が繰り返すアスファルトの浜辺。
昼間ほどではないが、それでも暖かく湿った風が吹いている。
大きな体を丸めて休むコクライの隣で、長いボサボサの髪を後ろでまとめたシンが兄妹二人に話を聞かせていた。
「・・・で、混乱のなか、うちらの先祖は日本を離れる事にしたそうや。
何でも、え~っと、ヒョウゴいう所から海に出て、中華、君らの言う大陸を目指したらしい。
百年以上も前の事な」
「何で?」
薄暗い夜でも光るネフェルの目が、興味津々という感じでシンの方を真っ直ぐ見てる。
ようやく警戒心を解いたようだ。
「何でって、そら食い物が無かったからやろ。
俺も詳しくは知らんけど、そらもう凄い有様やったそうやで。
小さな船で海を渡るなんて命がけやったやろやけど、それでも日本に残るよりはマシ、と考えたんやろな」
クルミは薄暗い闇夜の中でもハッキリ分かるほど、深く頷いた。
「そういうの、じーちゃんからも聞くよ。なにしろ、実際、生き残れたのは僕ら長崎の人達だけだったんだから」
「そうなんか…。な、君らって、この辺に住んでるんか?他の人達はどこにいるんや?」
ネフェルがビシッと北を指し示す。
「あたし達、北の長崎に住んでるの。
南には、霧島っていう山とか、東には四国や山口とか、あっちこっちに移り住んだ人達がいるよ」
その言葉に、シンは安堵の溜め息をつく。
「そっか…そうかぁ~。よかったわ。
じいさんらの言うてた通り、地獄みたいな所やったらどうしようか思うてたんよ」
「あのね、昔は本当に地獄みたいだったそうよ。山は丸ハゲで木は一本も無くて海に魚もいなくて。
おかげで日本人のほとんどは死んじゃったの」
そういいながら、ネフェルは近くの草むらに腕を突っ込む。
草むらから引き抜くと、手にはドクロが握られていた。
「ほら、こんな風に」
ドクロを、ニカッと笑う自分の横に並べる。
シンはドクロより、闇夜で光る金色の眼に少し怯え気味だ。
眼は光らないが、妹と同じく興味津々なクルミが身を乗り出す。
「で、生き残ったじーちゃん達が必死に植林とか田畑作りとかしてるんだ。
えとね、僕らの話は後でいくらでもするからさ。大陸に移った後の事を聞かせてよ。
あと、どうして『地獄』って聞かされてた日本に戻ろうとしたこととかさ」
「あー、そやな。まずはこっちの話からするか。えとな…」
闇夜の中でシンは二人へ、大陸へ移った日本人達の物語を続けた。
苦難に満ちた流浪の旅路を。
兵庫の北、丹後という地方。
沈みつつある街からボートで亡命を図る人は多かった。
シンの一族も小さな船で船出した人々の子孫。彼等はそのまま海流と風に流され、日本海を渡り、北の大国、ロシアという国に流された。
そこも日本とさして変わらない状況ではあった。
上昇する海水面に沈む街と平地、追われるように高地へ逃げる避難民達。
山を削る激しい嵐の連続。枯れ果て消えゆく森。死に絶える動物達・・・。
それでも日本のように人の多い土地では無かったので、他の避難民との争いは少なくて済んだ。
もともと極寒の厳しい自然だったため人が少なかったからだ。
もちろん食べ物も少なく、流れ着いた人々は常に飢餓に襲われたが。
彼等は船で各地を転々とした。
痩せた北の地の食料が少なくなると、他の土地を求めて南へ下り続けた。
もちろん南の地だって僅かな食料を奪い合う悲惨な場所に変わりなかった。
ときに海賊に襲われ、ときに村を襲い、疫病にも苦しんだ。
船旅の途中に飢えと乾きで多くの仲間が死んでいった。
「・・・で、ウチのオヤジの代に、ようやく落ち着ける場所を見つけてな。
そこで漁とか細々しながら暮らしてたワケや。
でもなぁ…なんやようわからんけど、山賊みたいな連中が襲って来やがってよ。
仲間の多くが殺され、生き残った俺らは船で海へ逃げ出したわけや」
クルミの青い瞳とネフェルの金色の瞳が真っ直ぐにシンの顔を見つめ続けている。
二人ともシンが語る祖先の物語に聞き入っている。
ちなみにコクライは彼等から離れた草むらで、大イビキをかいて寝ていた。
「逃げたはええんやけど、ちっこいボロ船で海を越えようて、どだい無理な話や。
何日か海をさまよってたら嵐にあって…みんな、結局ダメやった…」
やっと今にまで話を進めれたシンだが、自分が助かったことを喜ぶ様子は無かった。
力なく肩を落とし、うなだれて長い前髪が顔を隠してしまう。
「大変だったね、シンおじさん…ともかく、助かって良かったよ」
励ますクルミに肩を叩かれ、シンは小さく頷く。
「あぁ、うん、そやな…。
海へ逃げた時に、もう命は無いと思うたんやから、助かっただけでもめっけもンやな」
「そーよね。シンさん運が良かったわよ。ンでさ!聞きたいんだけど」
「ん?何をや」
猫族の闇に光る眼が輝きを増す。いかにも猫らしい好奇心の強さだ。
「大陸には、あたしみたいな猫族がいないって、ホント?」
「あ、ああ、そやな」
当の猫族に直視され、ちょっと体を引いてしまう。
「少なくとも、人間以外ではネズミとか猫とか犬とかしか見た事無いわ。
人間よりでっかい生き物自体を見ぃへんし。
人と猫のアイノコとか、こんな大きな犬とか、お伽話くらいにしかきかへんな」
「へ~。あたし達って日本にしかいなかったんだぁ」
そんな会話をしているクルミが、ふわぁ~…、と大きなアクビをした。
「う~ん、そろそろ眠いや。
ねぇ、シンさんもネフェルも、そろそろ寝ない?で、明日は急いで長崎に戻って、みんなに会ってもらおうよ」
「おお、せやな!頼むわ、君らの村の村長か長老に会わせてもらえんやろか」
「長老…」
クルミがシンの言葉を繰り返す。
「セイリュウじーちゃんって今、霧島行ってるわよね…」
ネフェルがクルミの方を見る。
シンは顔を見合わせる二人を見る。
兄妹の目は、なにやらイタズラっぽく笑っている。
二人はいきなりシンへ振り返った。クルミは笑いを押し殺した様子で口を開く。
「もしかしたら、何日かしたら長老のセイリュウじーちゃんが帰ってくるかも知れないんだ。だから、朝になったら急いで長崎に帰ろう」
「あ、ああ、頼むわ」
二人の様子に何か納得のいかない様子だったが、ともかくシンは何度も頷いた。
その夜、三人は横になってすぐに深い眠りについた。
数日後、長崎。
コクライの背に三人は狭いし重い。
なので順番にコクライの背に乗って歩きながらゆっくり海岸線を歩き続けた。
水没していない道路のなごりと荒れ地、植林によって生まれた森も通り抜け、ようやく彼等は集落を見下ろす峠に到着した。
クルミのナイフですっかりヒゲを落とし、長かった黒髪を短くして、血色もすっかり良くなったシン。
峠のてっぺんまで一気に駆け上がった彼は、元々は細い目を限界まで見開きながらグルリと一回転。海原に囲まれた緑の山に息を飲んでいる。
「うおぉ~!すっごいやんか!こんな大森林、初めて見たでぇ!
あんたら、こんなでっかい森を作ったんかいな!」
男は意外と若く、二十代前半くらいに見えた。声も張りがあり、痩せているというより引き締まっている感じの体だ。
国見山、と書かれた標識が半分ほど土と草に埋もれた山頂近くの峠道。
そこからは、海岸線近くまで広がる森で覆われた半島が見渡せた。
海岸近くの海には幾つものビルが頭をのぞかせ、森の中にも倒壊していない建造物が幾つも見える。
「大陸には無かったの?」
コクライに乗るネフェルが、少し得意げに聞く。
「あるわけないがな!
大陸は、ほとんど荒れ地と砂漠や。土は痩せこけてるから何を植えてもろくに育たんし。
海かって魚もほとんどおらへんから、俺ら、いっつも腹を減らしてたわ」
「信じられない所だね。よくそんな所で生きてこられたね~」
コクライの横を歩いてたクルミが眉をしかめつつ、ある意味感心する。
「ほんま、あそこに比べたら、まるで天国やで。
こんな沢山の木が枯れず、薪にもされずに生きてるやなんて…昔の本や写真でしか、見た事、ないわ・・・」
驚きの言葉を語るシンだが、その言葉がだんだん小さくなっていく。
肩は小刻みに震えて、拳を握りしめる。
コクライの背を降りたネフェルが、シンの伏せられた顔を覗き込む。
「ねぇ、シン。どうしたの?」
慌てて彼は目元を拭った。涙の雫が腕を濡らす。
「あ、いや、あんな…。
こんな場所やと知っとったら、部族みんなで移ってきてたのに、嵐で死んだ他の連中も、来たかったやろに…て、思うてしもて、なぁ…」
言いながらも彼の目には新たな涙が浮かぶ。口からは嗚咽が漏れる。
「シン…」
ネフェルもかける言葉が見つからない。
少しして、シンはすぐに泣きやみ二人に笑顔を見せた。
「ま、まぁシケた話は終わりや!せっかく拾うた命、大事にさせてもらわな!」
クルミもニカッと元気な笑顔を返す。
「そうだね!
シンおじさん、もうすぐ俺たちの暮らす、柚木村があるんだ。ほら、あの向こうの建物がそうだよ」
そういって彼が指差す南西の方角には、森の中にいくつかの建物が見える。
だが、それを見るシンはおかしな声を上げた。
「あ…あれ?なんやあれ?」
彼が見ている先、森の中の建造物上空を、何か大小の、青と赤と緑の何かがクルクルと飛び回っていた。
「なん…や?
あれ、鳥…やない、よな。森の木と同じくらい大きいで。
もしや、昔、空を飛び回ってたゆう、飛行機?」
その言葉を聞いたクルミとネフェルは、青と金の視線を交わらせる。
ニヤニヤ笑ってしまうのを必死でこらえていた。
「まーまー、シン。早く行こ!」
「そうだよ、シンおじさん。急いで村のみんなに紹介しないと!
みんなだって大陸の話は聞きたいと思うんだ!」
「え?あ、ちょ、那是什!忽然做…まあええわ。んなら行こか」
シンは二人に背中を押され、ワケも分からず峠を下り始めた。
広場の入り口には『柚木第一中学校』と刻まれた門柱がある。
倒れかけで、草木の中に埋もれつつある。
だが、それがシンの目に止まらなかったのは目立たなかったからではなかった。
シンの周囲には、村の人・猫・犬が取り囲んで輪を描いていた。
犬はフンフンと荒い息で彼の体に鼻を押しつけて臭いを嗅ぐ。
猫達は好奇心一杯の目で彼の全身をくまなく観察している。
でもシンは、それが全く気にならなかった。他の事で意識も視界も奪われていたから。
「あんたが大陸から来たというシンさんだね?
私はネフェルとクルミの母親の、ティティというんだ。よろしくだよ!」
ネフェルがそのまま大人になったような、茶色い髪に金色の目をした猫族の女が彼の前に立ち、手を差し伸べる。
だが、地面にへたりこんだまま動けないシンには、その手は目に映っていなかった。
彼の目は、彼女の背後の、巨大な青い竜に吸い寄せられたまま動かない。
いや、動けない。
「ほほー!これは驚いた!
外国からのお客人なぞ、戦争以来じゃぞ!
というか、この長崎以外で生き残っている人間を見たのは百年ぶりじゃ!
やはり他にも生き残りが居たか、いや~よかった!」
人と猫と犬が作る囲みの上から、青い竜の長い首が、にゅうっと見下ろしてくる。
それを見上げるシンは、驚いて腰が抜けて声が出ない。
パクパクと酸欠の魚のように口が開閉してばかり。
セイリュウの首の横に、さらに緑と赤の首が突き出てきた。
セイリュウよりは体の小さい、だが十分に巨体の、ラプターとタマナだ。
「おお、これが外国からの方ですか。
いやはや、初めて見ましたよ。日本以外の人間というのは!
新しい苗は見つかりませんでしたが、それ以上の発見ができましたねぇ。
いや、めでたい事です」
「ちょっと、あなた。それにお義父さまも。こちらの方が驚いてるじゃありませんか。
もう少し下がりましょう」
「うん?そういえば、驚いてるね。…竜族が珍しいのですか?」
ググッと頭を下げて、地面にへたりこむシンに礼儀正しく尋ねるラプター。
だが、シンは腰が抜けたまま、慌てて後ろへ下がろうとする。
背後にいたネフェルとクルミに止められても、後退をしようとし続けてる。
彼の様子を見てセイリュウはゴフッゴフッと老竜の笑い声を響かせた。
それを聞いたとたんにシンは「ひぃっ!」と悲鳴を上げ、四つんばいで必死に逃げようとすらしてしまう。
「ふほほほ…。
驚くのは無理もない。この者は、竜を見たのは初めてだろうからな」
「え!そうなんですか?」
驚きの声はセイリュウの足下からあがった。
そして「うんしょ、うんしょ」という声と共にシンの前で人垣が割れていく。
人と猫と犬の間から顔をのぞかせたのは、スクモの短めな首。
子竜とはいえ大人の人間くらいあるので、口からのぞく牙の列も、それも相当に長く太く鋭い。
そんな恐ろしげな外見とは裏腹に、緑の子竜はペコリと頭を下げて礼儀正しく自己紹介を始めた。
「あ、あの、初めまして。僕、スクモって言います。
ここより東の、シコクっていうところで生まれました」
対するシンは、礼儀正しくお辞儀を返して自己紹介をする、なんて無理なままだ。
震える右手がスクモの顔へ向く。
「お、あ、え、あ…」
何かを言葉にしようとしているらしい。が、言葉にならない。
「僕たち竜を見るのは、初めてなんですか?」
ガクガクとシンの頭が上下する。
「へ~、驚きました。大陸に竜っていないんですねぇ」
「ふ、ぷ…不在!那个当然!」
やっとの事で、思わず中国語で『いない!そんなの当然だ!』と言い返したシン。
だが緑と赤の竜はキョトンとしてしまう。
彼等は首を巡らしセイリュウを見る。
老竜はさらに笑い声を大きくした。
「ほっほっほ!
お前達には言ってなかったがのぉ。実は、竜はもともと長崎の地にしかおらんのじゃ。
いや、本当は世界のどこにもいなかったのじゃよ。
ワシら竜は、いや、竜族も猫族も犬族も、百年くらい前に生まれたんじゃ。
この九州の地で、人族によって造られたんじゃよ!」
シンだけでなく、その場にいた全ての者が目を丸くした。
ただ一人、いや一竜、青い老竜だけが笑い続けていた。