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喫茶 匠

 キツい。女子2人を追いかけると言う構図もあれだけど、その2人に追いつけない自分が情け無い。アカリさんはタイプ的に分かるけど、図書委員のイメージがあるカオリさんにさえ負けるなんて......。



「うげっ。なんか吐きそう」


「お〜い! こっちだぞ〜」


「ぷぷぷ。最下位決定。ご馳走様」


 

 何とか辿り着いたらしい。でもここって、普通の家だろ? そう思いながら、こっちに手を振る2人の元へ歩く。すると門に小さな看板が置かれていた。



「喫茶 たくみ?」


 

 場所は住宅地の中で、外観は普通の一軒家。この小さな看板が無ければ、まさか喫茶店とは思わないだろう。自宅からそれほど離れていないけど、ここにお店があるのは知らなかったよ。



カラン♪



「いつまでそこにいるつもり? 早く来なさいよ。ユウタ」


「お父さん。ただいま。アカリと新規1名連れて来たから、奥の席使っていいよね?」


「おかえり。何だ今日は早いな。いいぞ。今なら空いてる」


「は、初めまして。お邪魔します」


「ん? 男の子なんて珍しいじゃないか。いらっしゃい」


 

 恐る恐る店内へ入ると、奥のカウンターにいた男性に声をかけられた。白いシャツに黒ベスト。かなり恰幅が良いから威圧感がある。ニッコリ笑顔とのギャップが大きい。カオリさんのお父さん? ハッキリ言うと全く似てない。


 それほど広くない店内には、カウンター席以外にテーブルが5つ。こちらを気にするでもなくお喋りする、女性グループがいる。でもアカリさん達が向かったのは、カウンター横にある通路だ。さっきカオリさんが奥の席って言っていたから、あちらにも席があるんだろう。


 先を行く2人に遅れない様に進むと、奥に仕切りのある個室があった。慣れた様子で窓際に座るアカリさん。カオリさんは、アカリさんの隣へ座った。



「はいはい。ぼぉっとしてないで、お腹空いてるんだから早く座って」



 対面の席を指差して言うアカリさんに従い座る。そのタイミングで水を持った先程の男性がやって来た。



「マスター! 今日のケーキセットを3つ!」


「はいよ。飲み物も何時もので良いかい? 君はどうする?」


「えっと。ホットコーヒーお願いします」


「お父さん。私はミルクティーで」


 

 うん。まだこの状況を理解出来ない。ここが喫茶店でカオリさんの家なのは間違いない。しかし何故ここに連れて来られたんだろうか? それにカオリさんって図書委員サボって良かったの? 俺は水を飲みながらそう考えながら、前に座る2人を見る。


 

 そんな俺に構う事もなくお喋りに夢中な2人。聞こえてくるのは、今日のケーキについてみたいだ。見たところ他の従業員の姿が見えないが、奥にカオリさんのお母さんでもいるのかな?




「はいお待たせ。今日は洋梨のタルトだ」


「うわぁ。美味しそう!」


「くくっ。また太りそうな物が来た」


 

 テーブルに置かれたケーキは本当に美味しそう。もう待ちきれない様子でフォークを持つアカリさん。口では嫌そうなのに、目が釘付けなカオリさん。立ち去らずニコニコ笑顔で立ったままのマスター。


 

 これは食べるのを待っている? チラッとマスターを見ると、トレイを左の脇に抱え右手でどうぞと言う感じ。


 俺はマスターに促されるままケーキを口に含む。



「うわっ! ナニコレ⁉︎ 美味しい! 」


 

 生地はしっとりで甘さ控えめ。それが甘く煮込まれた梨の存在を強調している。甘い物はあまり食べないが、これはいくらでも食べられそうだ。もう夢中で食べてしまったよ。


 あっという間に無くなったタルト。はっ⁉︎ 完全に忘れてたよ。1人で来たんじゃない。そう思い顔を上げると優雅に紅茶を飲みながらこちらを見る2人。



「お父さん良かったね。ユウタ君も気に入ったみたい」


「うんうん。頑張って作った甲斐がある」


 

 はい? 作った? あのタルトをマスターが?


 驚いて固まる俺に、カオリさんが言う。



「お父さんは元パティシエなの。今は小さな喫茶店のマスターだけどね」


「あ、あの。美味しかったです」


「気に入ってくれたかい? また何時でも食べに来てよ」


 

 本当にホッとした笑顔で去って行くマスター。誇らしげに笑うカオリさんは、お父さんが好きなんだろうな。何だかイメージが変わって見える。図書室では何時もクールな印象だったんだけど。



「じゃあユウタも落ち着いたところで、本題に入りますか」


「そうね。今日は久しぶりにゆっくり出来るし」


 

 急に真面目な顔をする2人に俺は身構える。確かに疑問には思っていたけど、改まるほどの話があるんだろうか? ドキドキしながら待つ俺。


 まぁそうだよな。何か理由が無ければ、アカリさんやカオリさんが俺なんか相手にするはずがない。



「私のママとマスターを再婚させたいの」


「は? 今なんて?」


「だぁ〜かぁ〜ら! ママとマスターをくっつけたいの!」


 

 あまりに予想外の言葉に、聞き直してしまう俺。再婚? どう言う事? それにその話に俺って関係ある?



「アカリ。声が大きい。お父さんに聞かれちゃうから、ちょっと落ち着こう。それにいきなりそんな事を言われても、ユウタ君は理解出来ないよ。ごめんね。順を追って説明するから」


「じゅる。そ、そうよね。さっきのタルトが美味し過ぎて、先走ってしまったわ」


 

 タルトと親の再婚がどう繋がるんだ? まさかケーキが食べたいだけじゃないよね? ちょっと涎垂らしてたけど。ここはどう言う事なのか聞く必要があるだろう。


 俺の騒がしい1日はまだ終わりそうもない。

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