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蘇るトラウマ

 図書室から教室に戻ると相変わらず感じる視線。出来るだけ意識しない様に席に着くが、やはりこう言う状況は苦手だ。始業ギリギリに帰って来て良かった。


 本当なら寝不足なので寝たい。でも流石に1番前の席ではそう言う訳にもいかない。何かソワソワして授業中も集中は出来ないんだけどな。それでも後少しだ。放課後までやり過ごせば良い。



 ......だけどそう上手くはいかなかった。


 

 普段なら授業が終われば続々と教室を出て行くクラスメイトが、なかなか帰ってくれない。何も考えずに席を立つべきか? でも何か怖い。そんな風に躊躇していると、俺の側に1人の男子生徒が近寄って来たんだ。



「なぁ。お前、斉藤さんとどう言う関係?」


「え? 昨日たまたま話しただけですけど......」


 

 名前も覚えていないクラスメイトからの質問。しかもその表情はニヤついている。だから出来るだけ感情を出さずに、当たり障りのない言葉を返した。相手の質問の意図には気づいているが、何も乗ってやる必要はない。



「うっそだぁ〜。仲良さそうだったじゃん」


「あの子ってあんな風に話すんだね〜」


「不良っぽいのに意外だよね」


「でもあの子、趣味悪いんじゃない?」


 

 それを皮切りに、ゾロゾロとこちらに集まって来るクラスメイト達。口々に俺を見ながらアカリさんについて話し出す。その視線から感じるのは、興味、嫉妬、蔑み、嘲笑。彼女について何も知らない癖に、言いたい放題だ。


 俺はこう言う視線や心無い言葉が、どれだけ人を傷つけるか知っている。だって俺自身が今まで苦しんで来たんだから。小学生時代に両親が離婚した事で、母親がいない俺に向けられた視線。そして周囲から言われた言葉を思い出す。



″なぁお前ってお母さん居ないんだろ?″


″あの子可哀想よね。母親が出て行ったらしいわ″


″うちの母ちゃんが言ってたよ。お前の母ちゃんって、他に男作って出て行ったんだろ?″


″参観日に誰も来ないとか可哀想″


 

 言った本人は悪気が無いのかもしれない。近所の人はただの噂好きだったのかもしれない。でもそんな言葉が俺の中には今でも残り続けているんだ。嫌だ。聞きたく無い。苦しい。もうやめてくれ! だから他人と関わりたくないんだ。なんで放っておいてくれないんだよ!


 直ぐにでも逃げ出したいのに動いてくれない身体。自分でも分かるぐらい血の気の引いた顔。それでも周りは話し続ける。もう何を言っているのかも聞き取れない。


 


 誰か助けて......。





バァーン !



 


 突然響く大きな音。先程までうるさかった雑音が静まり返る。俺も正気に戻り首をそちらに向けると、集まった人の輪が割れる。



「ユウタ。遅い! 私達を待たせるなんて良い度胸じゃない」


「はいはい。退いて。行くよ。ユウタ君」


 

 ズカズカと怒った顔で近づいて来るアカリさんと、氷の様に冷たい表情のカオリさん。俺は慌てて帰る準備をした。周囲はその勢いに圧され静まり返る。


 

 そんな時だ。



「だっせぇ〜。女に守られてやんの!」


「あ、あはは。なになに〜。お迎え?」


「うっそ。あれ黒田さんじゃん。何で?」


 

 最初に俺に話しかけて来た男子生徒の言葉に、周囲が追従する様に再び騒ぎ出す。



「あ? 誰アンタ? だったら何? アンタに関係あんの? 外野にとやかく言われたく無いんだけど?」


「群れなきゃ何も言えないモブは黙れ」


 

 それに対し噛み付く様に言い返すアカリさん。カオリさんは低い声で周囲に向かって辛辣な言葉を言い放つ。あはは。カッコいいなぁ。確かに俺は情け無い。でも今は2人のおかげで身体が動くよ。俺は席から立ち上がって言う。



「もう行きましょう。お待たせしました」


 

 これ以上変に騒ぐのも良くない。このままでは喧嘩になりそうだし。俺の言葉に仕方ないと言う様に2人も動き出す。まぁ周囲を睨みつけたままなんだけどな。怒ってくれた事は嬉しいけど、まさか迎えに来てくれるとは思わなかったよ。


 

 まだ何か言いたそうなクラスメイト達だったが、俺はそれを無視して教室から出た。とりあえず騒ぎは収まったけど、明日からの事を考えると憂鬱だ。



「ああいう奴ら本当に嫌い!」


「だよね。寄ってたかって1人を囲む人間って最悪」


「あ、あの。ありがとうございました」



 俺は2人にそう言って頭を下げた。それに対しアカリさんはこちらを振り向かずに言う。



「え? 何が? 私は自分の悪口が聞こえたからだしっ!」


「へぇ〜。そうなの? おっかしいなぁ〜」


「ちょ、ちょっとカオリ⁉︎」


「きゃあ。アカリに襲われる〜」



 何か思った反応と違うが、本当に2人には感謝してる。あのままだったら、俺はまたあの頃の様に引き篭もったかもしれない。そんな事を考えながら俺は2人の後を追う。


 ん? 何処へ行くんだろう? そっちは図書室じゃない。


「今日はカオリの家に行こうよ」


「良いよ。勿論、ユウタ君も来るよね?」


「は、はい? カオリさんの家?」


 

 唐突なアカリさんの提案。ほぼ昨日初めて話す様になった女子の家。いやいや。ダメだろ。何でカオリさんも来て当たり前みたいに言うの⁉︎


「ユウタ! また遅れてるぞ!」


「1番遅い人が支払いね」


「はい⁉︎ 支払いって何⁉︎」


 訳もわからないまま2人を追いかける俺。少し振り回されている気がするけど、今は何だか楽しいな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] トラウマ持ち主人公とグイグイくるヒロインめっちゃ好きです……!
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