双子の妹に嵌められて世界を滅ぼしてしまった伯爵令嬢。やり直しの世界で第一王子に溺愛される
「ミリナ。君との婚約を破棄させてもらう」
許嫁だったエスティア侯爵家の長男、ファルツ・アディスティア様からそう告げられたのは二時間前だ。
そして、現在……私は断頭台の前で座らされていた。
罪状は、暗殺未遂。
勿論、全く身に覚えがない。
私はただ、婚約お披露目のパーティーが開かれる会場に向かい、飲み物をファルツ様に手渡そうとしただけだ。
「この女は、僕のワインに毒を入れた!! アリアが気づかなければ、僕は死んでいた!」
証人台でファルツ様が声高々に叫んでいる。
アリア、とは私の双子の妹だ。
ワインが変だと気づいたのは、ファルツ様に渡す直前だった。
匂いも色も、漠然とした違和感があった。だから、「取り替えてもらいましょう」と申し出る直前だったのだ。
アリアが間に割り込んできて、「毒入りですわ!! 私、お姉様がなにか入れているのを見ました!」と叫んだので、白羽の矢が私に向けられた。
「罪人。ラルフル伯爵令嬢ミリナ・アンドール。最後になにか言いたいことは?」
私は無実だ。
どうして妹のアリアがそんな勘違いをしたのか、分からない。
あの子はとても素直で、可愛らしく、私にはない器用さを兼ね備えた才色兼備の子だ。
自慢の妹だった。
少し物事を大袈裟に捉える癖があるから、なにか勘違いしてしまったに違いない。
私は震える声で、裁判長に乞う。
「ど、どうか……妹ともう一度だけ話しをさせてください……」
最後の情けだろうか、裁判長は私の正面に妹を連れてきた。
妹を見上げれば、今にも泣きそうな顔をしている。
「アリア……私は何もしていないわ。本当よ。信じて欲しいの。貴方が証言を覆せば、この処刑も止まるわ……」
「お姉様……私はお姉様を尊敬していましたわ。ファルツ様との婚約が決まった時は自分の事のように嬉しくて……。どうしてこんなことを……。私は見間違えなんかいません。信じたくなかったけれど、ファルツ様のお命をお守りすることを選びましたの」
アリアの言葉に、ファルツ様は感銘を受け、涙を流していた。
「アリア……勘違いよ。よく、よく思い出して頂戴……」
「ああ。こんな形で最愛のお姉様とお別れするのは本当に悲しい……」
ワッとアリアは泣き崩れ、涙を拭う。
群衆や貴族らも、「身内を失う恐怖を抱えながら、正義を選んだ勇気ある少女」とアリアのことを盛大に褒めたたえている。
群衆の早く殺せ、という声が大きくなる中、アリアは私を抱きしめた。
「ああ! 最後にお姉様を抱きしめたいのです! 罪を犯した令嬢に慈悲をかけてしまう私を、どうか神様……お許しください!!」
アリアの大きな声に、全員が涙を拭った。
「アリ……」
「ほんと、無様で馬鹿なお姉様」
私の耳元で、アリアが囁く。
小さなその声は、歓声にかき消されて周りに届くことは無い。
「ずっとウザかったんですの。こんな能無しが私の双子の姉だなんて、人生の汚点よ」
「え……?」
「あんたのいい所なんて、精々少し魔法が使えるのとちょっと頭がいいだけ。私の方が何倍も人から愛される容姿なのに」
「な、なにを言ってるの? あなたが私より可愛いことなんて、当たり前でしょう?」
「許せないの。私より先に結婚……しかも、あの容姿端麗なファルツ様となんて。私のプライドが許さない。だから、私がお姉様の罪を作ったのよ。ざまあみろ」
にわかには信じられなかった。
アリアは、可愛らしい顔と声からは想像も出来ない内容を口にする。
呆然とする私からアリアは離れた。
「お姉様は自分の罪を認め、処刑を受け入れるとたった今仰いました!!」
アリアの声が響き渡る。
私には、否定する余裕すらなかった。
ずっと信じて、可愛がった双子の妹からの裏切りに、動揺と怒りを抑えるので必死だったからだ。
どうして? どうして? どうして?
私はアリアが目立ちたがり屋だと知っていたから、いつも控えて立っていた。それを嫌だと思ったことはなかった。
大好きな妹が笑顔でいられるなら、それだけで私も幸せだった。
許せない。
何もかもが許せない。
仮にも許嫁だった私の言葉を何一つ聞かないファルツ様も、愚かな妹も。私を殺せと騒ぐ群衆も、不公平な裁判長も。
全部全部、許せない。
「では、処刑を!!」
処刑の合図である鐘が鳴らされ、私に向かって二人の大男が斧を振りかざす。
「……アリア。私は、目立ちたがり屋のあなたが嫌がると思って、ずっと隠していたことがあるの」
ぼそりと呟く。
妹の気持ちを害すると思って、誰にも言ってこなかった私の秘密。
それは──私が世界でまだ三人しか発現していないと言われている氷属性持ちだということ。
珍しいものを私が持ってると、きっとアリアが羨ましがって泣くだろうと思ったから言わなかった。墓場まで持っていくつもりだった。
私は自分の内側から溢れ出るエネルギーを全て解放する。
怒りのままに。
叫ぶように。
この世界への憎しみを込めて──
「氷魔法奥義──アブソリュートテンペラー(絶対零度)」
全ての魔力を使い切った私は、その場で気絶してしまった。
■
「いやあ、君。とんでもないことしてくれちゃったね」
ぺちぺちと頬を叩かれて起き上がれば、そこは真っ白な空間だった。
目の前には、神と名乗る少年が立っている。
「困るよ、君。君のせいで、世界が氷漬けになっちゃったんだ」
「そんな……私はただ、あの不平等な処刑を止めて、自分の無実を……!」
「うんうん、気持ちは分かる。けど、起きちゃったことは事実だからね。でも、これは僕も悪いんだ」
神様は困ったような顔をして頬をかく。
「氷属性なんて、本当は作るつもりなくてさ……ちょーーっと暇つぶしであと一人だけ、あと一人だけってしてたら、まさか君で暴発してしまうなんて思わなかったんだ」
「……それも、起きてしまったことは事実ですわ」
「うん。これは、僕と君の罪だ。だから、君にはやり直しの機会をあげる。もう一度、人生をやり直してみるかい?」
少し悩んで、私は頷いた。
理不尽なこの世界をこのまま凍結させておいても良かったけれど……それでも、私はあのままの人生が自分の全てだなんて、許せない。
私の顔を見て、神様は笑顔で頷く。
「よし。じゃあやり直しといこうか。
でも注意して。このやり直しは、あくまで仮初なんだ。君の心が処刑のある日まで『この世界なんて滅んでしまえばいい』と思い続けてしまったら、君の意思に関係なく世界は同じ日、同じ時間に氷漬けになってしまう。
どうか、君が……真実の愛を見つけられ、世界を愛せることを願うよ」
パンっと神様が手を叩いたと同時に、世界が再び暗転した。
■
ラルフル伯爵令嬢ミリナ・アンドール。十六歳。
私は今、王立魔法学校に通っている。
人生のやり直しは、二歳からだった。
自由に動いて喋れるようになった六歳の時、私は自分が氷属性であることを両親に打ち明けた。
世界で四人目の氷属性持ち。
両親は泣いて喜んで、盛大に私を持ち上げた。
勿論、アリアは憎しみの籠った目で私を見ていたわ。
私が特別な存在だと国中に知らされ、ついには国王陛下から「特別指定令嬢」に選ばれた。
この証さえあれば、私は最難関と呼ばれる王立魔法学校に難なく入学出来る。
そこでひたすら、魔法の研究に明け暮れた。
予定通り、十六歳の誕生日にエスティア侯爵家の長男、ファルツ・アディスティア様から婚約を申し込まれる。
しかし、私は彼をもう一度愛せる気がしなかった。
この十六年間、沢山の人と交流を交わした。けれど、どうしても他人が信用出来ない。
神様と約束した世界凍結の日──十七の誕生日まであと一年。
さすがに、焦りがある。
ファルツ様は中々婚姻の返事をしない私を追いかけ、毎日学生寮の前で待ち伏せをしていた。
「ミリナ! どうか返事を!」
「……もう少し考えさせてください」
「君を愛しているんだ! 絶対に幸せにすると誓うよ。君を泣かせたりしない!」
……それ、嘘ですけど。あなたが私を信じなかったこと、知っていますから。
かといって、他に想う男性もいない。
ああ、神様……どうしたものかしら。
と私が内心嘆く間にも、ファルツ様は私を壁際に追い込んでまくし立ててくる。
「何が不満なんだい。僕にはお金も権力もある。君が魔法研究をしたいなら、いくらだって払うよ。長男で将来も約束されている。侯爵だぞ! 王族を除いた、最高地位の爵位だ!」
「そ、そういうわけでは……私の妹なんかどうですか?」
「いいや、君の方が美しい。妹も確かに可愛いけれど、君の美しさには叶わない」
当然、私は幼い頃から自分磨きを欠かさなかった。
二卵性双生児である妹とは、どうしてもベースは負けるけれど……自分の魅せ方に研究を重ねた。
どうやって今日はこの男を引きはがそう。さすがに氷魔法を使ったら暴発が怖いし……と思っていると、一人の男性が間に入った。
「女性を困らせるのは関心ないな。焦る気持ちは分かるが、余裕のない男はモテないぞ」
スラリと高い背に、柔らかな金髪。ブルーの瞳に高い鼻筋。
彼を一目見て、「誰?」という人はこの国にはいないだろう。
「な、ナルベキア帝国第一王子……アレン・リグドール様……」
ファルツ様は震えながら数歩後ろに下がる。
やり直しの世界で気づいたのだけれど、王子は私の一つ上の歳だった。
前の世界では私は魔法学校に通わなかったから接点はなかったのだが、今回は違う。
また明日、と言ってファルツ様は逃げるように帰っていった。
残された私は、アレン様にお礼を言う。
「ありがとうございます。ここ毎日、困っていたんです」
アレン様は私をちらりと見ると、軽くため息をついた。
「嫌ならばハッキリ断るべきだ。それにこういった状況は良くない。何故魔法を使って追い返さない」
厳しい一言だった。
「……ごめんなさい」
「責めてるわけじゃない。君の感情と行動に酷い矛盾があるのが気になるんだ」
「ま、魔法はまだ未熟で……もしかしたら命を奪ってしまうかもしれないんです」
「自分の力を、自分が恐れてどうする。俺の父上が認めた才能だ。勿論、俺も君をすごいと思っている。もっと自分に誇りを持て」
自分に誇りを持て。
初めて言われた言葉に、私は顔を上げた。
「誇り……ですか」
「そうだ。君は何に怯えている。どれだけ容姿を磨いても、どれだけ才能を持っていても……それでは何一つ輝くことなど出来ない」
アレン様はそう言い残し、その場を立ち去った。
その日から、私はアレン様を見かけるたびに目で追うようになった。
彼は、自分に疑いのない自信を持っている人だった。
常に周りと笑顔で接し、礼儀を弁え、堂々とし、それでいて誰よりも輝いていた。
彼の周りには常に、光が付き纏っているように見える。
「光属性持ちの王子様ですからね……当然かもしれないわ」
彼の嫌味を言う人なんて、聞いたことがない。
誰からも尊敬の眼差しを向けられている。
「……あら? そういえば、アレン様の恋愛話は聞いたことがないわね?」
王子といえばもうそろそろ婚約者を決めているものだが、浮いた話は流れてこない。
王族には王族の都合があるのかと、私は深く気にせずに流した。
■
それから半年後。
アレン様を気にしてしばらくは顔を見せていなかったファルツ様が、再び学校に顔を見せるようになっていた。
校舎裏に呼び出された私は、また同じように婚姻の返事を迫られている。
どうしよう。と、悩む私は、ふと今日この日まで見続けてきたアレン様の姿を思い浮かべる。
彼の堂々とした振る舞いが、羨ましいと思った。
私は結局、妹から逃げ回っているだけの存在……。
今ここで、変わりたい。
「ファルツ様……」
「おお! やっと返事を聞かせてくれるのか!」
「婚姻の申し込み……お断りさせていただきます!」
「な、なぜだ!!」
「私はあなたに欠片も魅力を感じません。どうぞ、私の顔だけがお好きでしたら、似たような妹をお選びくださいませ!」
ファルツ様は顔を真っ赤にして、立ち去った。
ほっと、肩の荷が降りたような感覚が全身を襲う。
やれば出来るじゃない、と少し微笑んでいると、背後から拍手が聞こえた。
「やれば出来るじゃないか」
そこにいたのは、アレン様だった。
「少し、女性としては荒々しい言葉遣いだったがな」
「お、お見苦しい所をすみません……!」
「構わない。丁度君に用事があったんだ」
アレン様は私に一枚の紙を手渡す。
中身は、四ヶ月後、卒業式前日に行われる式典についてだった。
アレン様は私の一つ上。つまり、今年で卒業してしまう。
「式典の最後に、毎年下級生から魔法を披露する時間があるだろう? 君が参加してみないか?」
式典では、卒業生を祝うために選ばれた数人の学生が演目を飾る。
毎年きらびやかな魔法で象られた造形物を見るのが、学生にとっても大人にとっても楽しみの一つだった。
「で、ですが私の魔法は……」
人を巻き込まない自信が無い。
断ろうとした私に、アレン様が声をかける。
「言ったはずだ。自分の力を恐れるなと。君の魔法は、美しい」
私はグッと手を握りしめ、覚悟を決めて頷いた。
あっという間に、式典の日が来た。
ドーム型の会場には大勢の観客が押し寄せ、特等席には国王陛下の姿もある。
会場の三階席には、私の両親の姿もあった。
式典の演目を任されたと聞いて、従者も連れて見に来たのだ。勿論、傍にはアリアの姿もあった。
私と目が合ったアリアは、私を睨みつけそっぽを向く。
そして、隣にいたファルツ様にベッタリと腕を組んでいた。
アリアも両親も、まだ私がファルツ様との婚約を断ったことを知らない。
プライドの高いファルツ様のことだ、断られたなんて言えないのだろう。
豊満な胸を押し付けるアリアに、笑顔で鼻を伸ばしている。
彼が想い人をアリアに変え、口上手く婚約を申し込むのも時間の問題だろう。
「……やっぱり、最低な男ね」
私は気持ちを切り替え、来るべき瞬間に集中する。
アレン様が私を推薦したんだ。恥をかかせるわけにはいかない。
緊張を胸に舞台裏で順番を待つ私の元に、卒業生席から抜け出してきたアレン様が現れた。
「アレン様! 勝手に抜け出したら、怒られますよ!」
「構わない。君に一言だけ、エールを送ろうと思って」
何を言われるのだろう、と首を傾げていれば、アレン様は優しく微笑む。
「俺は君を信じている。君は、君を信じている俺を信じて欲しい」
あまりにも自信たっぷりに言うものだから、思わず笑ってしまった。
そのおかげで、変な緊張が抜ける。
「はい。アレン様。あなたが私に下さった勇気を、無駄にはしません」
私は会場の中心に立つ。
ついに氷魔法が見られるのかと、観客の全てが息を呑んでその瞬間を見守った。
「……卒業生の皆様。アレン様。心より祝福致します。どうか、皆様の人生に溶けることのない誇りと輝きがありますように」
両手を握り合わせ、祈るように魔法を紡ぐ。
「造形氷魔法──ベレディクトベル(祝福の鐘)」
私を中心に冷気が巻き上がり、目の前に巨大な氷の像が形成されていく。
教会の鐘を模した氷の周りには、いくつもの天使が飾られる。
湧き上がる歓声。
それに拍車をかけたのは、卒業生席から放たれた追加の魔法だった。
「光魔法──ベネディクトプリミアス(祝福の光輝)」
アレン様の魔法だった。
私の作り上げた氷の像に、光の粒子がまとわりつき、包み込む。
一層に輝きを増した像は、声を失うほど美しかった。
観客も、あまりの美しさに一瞬静寂する。が、次の瞬間大地が揺れんばかりの歓声が上がった。
出来た。やりとげることが出来た。
私の魔法は、人を傷つけず……誰かを喜ばせることが出来た。
式典は無事に終わり、私は大勢の人からの賛辞を受けながら宿舎に戻る。
宿舎の入口には、見慣れた男性が一人でたっていた。
アレン様だ。
「アレン様! 後夜祭に行かれたのでは!?」
「今から行く。でも、その前に君に伝えておこうと思って」
アレン様は私の頭を撫で、ふわりと笑った。
「今日の君は、世界で一番美しかったよ。君は誇るべき存在だ。どうか、このまま自信を持って人生を歩んで欲しい」
優しい声だった。
ドキッと、心臓が高鳴る。
「じゃ。ぜひ、明日の卒業式も見に来て欲しい」
アレン様はそんな私には気づかず、颯爽と夜道を戻って行った。
「ど、どうしましょう……私……」
相手は王子。
私は……とんでもない恋をしてしまった。
絶対に実るわけのない恋。
ああ……神様……。
やはり、氷漬けの未来は変えられないかもしれないです。
■
卒業式当日。
ついでに、私の運命の日まで残り二ヶ月を切っていた。
噂話では、今日王子の婚約相手が発表されるのではないかと言われていた。
つまり、今日が失恋の日。
憂鬱な気持ちで、私は会場を訪れる。
何故か、アリアとファルツ様の姿もあった。
彼らの用事は私にあるみたいだ。
「今日はお姉様にご報告がありましてよ!」
「アリア。今日は厳粛な卒業式よ。後で聞くわ」
「いいえ、今ここで言わせて頂きます」
アリアとファルツ様はイチャイチャとくっ付き合いながら、私に目を向ける。
「ミリナ。僕はアリアと結婚するよ」
「そうですか。おめでとうございます」
「もっとも、ファルツ様にはお姉様より私が相応しかったの! ファルツ様の目が覚めてくれて、本当に嬉しいですわ!」
どうでもいい。
はしゃぐ二人をよそ目に、私は壇上に目を向けた。
そこでは、アレン様の答辞が始まろうとしていた。
いつも通り、威風堂々と語られている。
「かっこいいなぁ……」
一瞬目が合ったのは、気のせいだろう。
言葉に耳を傾け続けていると、アレン様はふと言葉を止める。
「今日、この卒業式で俺が婚約者を発表するのではないかと……そんな噂が立っているのは知っている」
ドキッと胸がなった。不安の鼓動だ。
目に涙が浮かぶ。
ああ、でも……彼がいなければ、私は一生変われないままだった。
ただ妹と距離を置いて、前より少しだけ有意義な生活をして……それでいて、何一つ得られないままの人生だった。
周囲が沸き立つ中、アレン様は少し咳払いをして壇上を降りる。
真っ直ぐと……真っ直ぐと私の元へと歩いてきた。
え? っと思う前に、アレン様が私の前で片膝をつく。
「ミリナ・アンドール」
「は、はい……」
「俺は君を属性で好きになったわけでも、容姿で好きになったわけでもない。ただ、君が自信を持って笑う姿が美しいと思った。
どうか、俺の婚約者になってほしい」
手を取られ、指輪が差し出される。
真っ先に悲鳴をあげたのは、妹のアリアだった。
「ど、どうして!! お姉様はファルツ様と婚約するつもりじゃ……! いつの間に王子に取り入ったの!!」
「失礼な娘だな。ミリナは俺に取り入ったりしていない。ただ、俺を信じてくれただけだ」
「氷魔法なんて恐ろしい魔法を使う女なんて、王妃に相応しくなどありませんわ!!」
「……俺には君たちの方が、よっぽど醜く見える」
アリアはグッと息を呑み、涙ながらに会場を立ち去った。ファルツ様も急いで追いかけ、二人の姿は見えなくなる。
アレン様はふうっと息を吐き、私の方を向き直した。
「返事を聞かせてもらってもいいか?」
嘘だ。
信じられない。
私は喜びで溢れる心をどう言い表していいか分からなかった。
代わりに涙がこぼれ、震えた声が漏れる。
「私……ずっと、自分の未来は変えられないと思っていました……。
自分の力のせいで世界を滅ぼしてしまうと……怖かったんです。誰も信じることが出来ず、不安と孤独でいっぱいでした……」
私の言葉を、アレン様は優しい瞳で聞き続けてくれる。
「アレン様が私をお叱りくださり、励まして下さらなかったら……今日の私はいませんでした。
心の底から、感謝申し上げたいです……!」
「ミリナ。君を心から愛すると誓おう。君を愛すると言う俺を、どうか信じてくれないか?」
「はい……! もちろんです!!」
私とアレン様は正式に婚約を交わし、二ヶ月後には婚約披露パーティが開かれた。
ああ……私はこの世界が素晴らしいと感じている。愛する人と巡り会えるこの世界が、愛おしくてたまらない。
アレン様から、そっと口付けを落とされる。
その瞬間、本来鳴る時間では無い教会の鐘が響き渡り、頭の中に神様の声が流れてきた。
『おめでとう、ミリナ。世界の凍結は回避されたよ。愛に満ちたこの世界を、どうかこれからも楽しんで』
ええ、神様。
私は誰かを憎み陥れるのではなく、目の前に溢れる光を信じて進むと誓います。
fin
くうぅ、もっとミリナの氷魔法をお見せしたかった!
この作品が面白い! 楽しかった! ミリナかわええ! もっと深く広く気になる!
と思った方は、ぜひブクマ、高評価や感想を入れていただけますと幸いです。
24日 追記
ふえええ!!日間ランキング51位になってるうう!嘘、嘘!初めてランキング乗りました!!
夢だ、これは夢だ!!嬉しいい!!
応援してくださった方、本当にありがとうございます!!!もっともっと上を目指せるよう、さらなる応援心待ちにしております!
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名前:志波咲良
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