4、模擬戦終了
少し大きな騒ぎになったが、さして問題はなかった。何やら勝手に賭けやらなんやらでわーわー騒ぐ人は大勢いたが、そんなのにはあまり絡まず遊んだ。魔法一切無しの格闘戦、お互いに使う魔法を限定しての魔法戦など、様々な対戦形式で戦って遊んだ。万が一にでもバリアーを突破してしまって人を殺してしまったなんてことにならないように細心の注意を払わなきゃいけないあたりがめんどくさかったぐらいで、それ以外はまぁいつもの模擬戦と変わらなかった。
まだ興奮冷めきらぬコロシアムのベンチに座って水分補給をしていると、女生徒が一人近づいてくる。多分背の順で並んだら一番前に行かなければいけないほど小さな女の子。髪形はボブで、かなり整った造形をしている。可愛い。
「どーもどーも。ユサさん、リタさん。私、賭博部のレイ・ギャブルスって言いますぅ」
「あ、はい」
しかし、彼女はその全てを台無しにするだけのものを持っていた。すごい。隠す気が全くない。商人でもなんでもない。ただの18歳である俺でさえ金儲けのことしか考えていないと感じることができる。
リタはトイレだ。ということは目ん玉に¥のマークが書かれているこの女を俺一人で相手にしなければいけないということだ。
「あ、これ、今回の賭けで儲けたお金の分け前、ファイトマネーってやつですぅ。まだ模擬戦するのでしたら、その儲け分も渡しますのでよろしくお願いします。ではでは〜」
「あ、はい」
色々考えていたが、俺が何か言う前にお金が入った封筒だけ渡して立ち去ってしまった。一体なんの目的だったんだろうか? とりあえず顔見知りになりたかったとか? うーん、わからんけどなんかありえそう。不意に入ってきたお金をどうしようかボケーッと考えているうちにリタが帰ってきた。
「ん?どうした?」
「これ、貰っちゃった」
「すげぇな。いくら入ってる?」
1000円札が1、2、3、4……23枚!?
「23枚入ってる」
「わお、2万3000円か!?」
「今日の晩飯代ぐらいは浮きそうだな」
貰えるもんは貰う主義なのでありがたく頂戴し、せっかくなので今夜の晩御飯を豪華にしようと心に決めた。
「このあとも模擬戦するならファイトマネー出しますよーみたいなこと言ってたけどどうする?」
「いや、今日は帰ろう。さすがにキツい」
「とはいえこんだけ人集まってるからなあ。クーリングダウンがてらステゴロ格闘限定戦だけしよ」
「ま、それぐらいならいいか」
そうしてコロシアムの舞台に再び立てば、大歓声。これを最後の1戦にしようみたいな事を言うとさらに歓声があがる。ブーイングじゃなくて良かったーと心の中で思いつつ、リタと向き合う。
もうスタートコールはいらない。初手はリタの不意打ちだ。殴る蹴るの猛烈な連打を防いで防いで躱して……。
そんな攻防のなか、俺は心の中であることを考えていた。
うわ、戦いたのしえぇ。どうすれば毎日こんなことをやれるかな? と。
模擬戦するにしても軍から抜けた俺はリタぐらいとしかまともに殴り合えない。そもそも『フライエンジン』の速度に対応できるやつは日本に何人いるのだろう? というぐらいだ。自分で言うのもなんだが、俺は天才だ。そしてリタも同じく天才だ。そうでなければ伝説の少年兵だなんだと有名になっていない。
とはいえ、リタに毎日頼むのも迷惑だろう。
どこか、思う存分暴れられるようなとこねぇかなぁ……。
とか考えていたら攻撃を読み違えてしまった。フェイントに引っかかってリタのアッパーが顎に、顎に……当たった。
それはもう気持ちがいいほどにクリーンヒット。俺の体が宙を舞う。そのままの勢いでかなり後ろに飛ばされ、そのままダウン。
すぐに起き上がったが、この一戦は俺の負けだ。
「クッソー、裏をかきすぎたか……」
「これで今日の戦績は3対7。ま、遠距離タイプの俺がバキバキ近距離タイプのユサに勝率3割ならいいほうでしょ?」
「まぁそうだな。なんだかんだ楽しかったな」
そう言って倒れた俺に手を差し伸べるリタ。俺がその手を取ると、自然と拍手が生まれた。