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2、始まってしまった日常

 天使という生物がいた。羽が生えてて、頭の上に幾何学模様の光輪を浮かべている不思議な生物。

 天使とは、一部の高位な魔術師にしかその存在を探知できない幻の存在だった。ある時、その高位魔術師の一人が天使という生物が魔物を発生させているのだと突き止めた。

 天使は街の至る所にいて、魔物を生み出す邪悪な生物だと判明した。


 その発見から程なくして天使の殲滅作戦が開始した。


 高位の魔術師しか見つけることが出来ない上位存在である天使を全滅させるなど、不可能に思われた。


 しかし先日、天使の完全駆除が完了したと知らせが入った。


 天使がいなければ魔物は発生しない。魔物が発生しないということは兵士が要らないということだ。結果、兵士だった俺の仕事はなくなり、俺は今中学生をしている。


 そう俺は、俺は中学生をしている。


 18歳の俺がだ。


なにが義務教育を終えてないからせめて中学ぐらいからやり直せだ。

 俺は18歳だぞ。せめて高校生じゃないのか?

 いや、まぁ高校に入れられたところで勉強についていけないことぐらい俺にだってわかるけどな。


「ホント、マジでクソだよな。そう思うだろ?」


 俺はギコギコと椅子を揺らしながら、後ろの席に話しかける。

 今日から中学生。

 そんな事実を押し付けられるみたいな入学式が終わった。教室で、今日から君たちはお友達だよ! みたいな自己紹介をしてる今この場所に俺の友達はこいつしか居ない。


「いや、俺は最高に楽しいとおもうんだけどな。朝から晩まで訓練をサボったって何も言われない。ギターの練習もできる。勉強だってできる。何が不満なんだ?」


 俺の後ろに座っているのはリタ。俺の幼馴染だ。保有している魔力の影響で綺麗な青色に染まった髪をしていて、四角いメガネをかけている。


「えっと勉強なんてしたくない……とか?」


 何が不満か……と聞かれると俺にも分からない。返す言葉が見つからず、モゴモゴとしてしまう。


「っていうかお前、これまで勉強なんてしてこなかっただろ?何が不満なんだ? まだ嫌いになるほど勉強してないだろ」

「まぁそうだけどさ……」

「じゃ、今は勉強しとけよ。どうせ命令のせいで俺たちは中学生なんだからよ」


 命令。

 そう言われると何も言い返せない。


 それにしてもこの俺が勉強か……勉強ねぇ……。


 俺は勉強なんてほとんどしたことがないのだが、中学生の勉強なんてできるもんなのだろうか。

 算数なら掛け算割り算ができる。あとは確率とかの計算か? それぐらいならできる。

 理科は多分得意だ。魔法を学んだ時、元素を一通り作れるように原子記号は全部覚えている。毒ガスの作り方、即席爆発物の作り方、ちょっとした薬の調合方法。一通り学んだが、多分これが理科だろう。

 社会は知らん。歴史なんて習ったことは無い。あ、中学には地理って言うのがあるのか。じゃあ攻めやすい地形や攻めにくい地形とかは分かる。そっちなら得意かもしれない。

 国語はまぁよく分からん。簡単な報告書ぐらいなら漢字で書ける。


「まぁまぁ、ほら、これとか見てみろよ。歴史ってのはなかなか面白いぜ?」


 リタは今日もらったばかりの真新しい教科書を開いて俺に見せてくる。そこには織田信長……豊臣秀吉……とか、俺でも聞いたことがある有名人が乗っていた。

 少し興味を惹かれて、少しだけ文章を読み進める。


「はー、なるほどな〜。時々名前だけは聞いたことあったけど、織田信長は火系統の対人魔術を開発した人だったのか」

「な、言ったろ? なかなか面白いって」


 少しだけ興味が湧いた。

 俺は対人魔術『ヒナワジュウ』を何千回、何万回と使ってきた。何百年前に織田信長が開発したものが今でも使われてるってことはあまりに完成度が高かったということになる。

 火系統の魔術をもっと使いやすく出来ないか? と頑張ってみたこともあったが、『ヒナワジュウ』のデッドコピーにしかならなかった。

 やはり天才はいるもんだな。いや、違う違う。話が逸れてる。


「確かにそうなんだけどさ……そうなんだけどさ……」

「あーーーー!なんなんださっきからよ。なんかよくわからん理由でうじうじしやがって。なんだ? 勉強したくねぇのか? 中学生じゃなくて高校生になりたかったみたいなそういうアレか!?」

「違う!!」


 俺はガタンと椅子を揺らして立ち上がる。

 周りの視線が一気にこっちへ向く。教室がシーンと静まる。

 そういえばここは教室だった。

 申し訳なさそうな顔つきをして、椅子に座ると周りの視線は外れていき、今自己紹介をしている女に戻っていく。

 笑いをこらえるリタを睨みつけると、手を挙げて降参のポーズ。


「で、何が違うんだ?」

「俺は、闘いてぇんだ」


 それを聞いたリタが大きくため息をつく。頭を掻きながら大きく体を反らせて元に戻して、机に肘をつきながら言う。


「戦闘狂じゃねぇかクソワロタ」


 確かにその通りだ。


「いやいや、でもさお前知ってるだろ? 俺が戦うの大好きマンだってさ!」

「知ってるけどさ」

「ホント死活問題なんだよ。戦いたい戦いたい。出来れば俺の命を賭けてギリギリ勝てるか勝てないかぐらいの敵と闘いてぇ」


 俺はリタの肩を掴んで揺らしながら言う。ガクガク首が揺れるが、軍の会議中にすら雑談をすることが出来る俺たちふたりの密談能力を持ってすれば素人中学生に見つからずにそういうことをするのは余裕だ。


「わかったわかった。模擬戦ぐらい付き合ってやるから機嫌直せよ」

「え? マジ? 超助かる」

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