第一歩②
——約12時間前。
五人の少女が未知の世界へとやってきた初日の夜。
本日の調査結果を全員が話し終えたところで、進行役を務めていた深月が口を開いた。
「さて、それじゃあここからは、明日以降の予定について話していきましょう」
「〝明日以降〟って……。あんた、一体いつまでここに居座る気なの? こんな得体のしれない世界に知らない人間と長居する気なんて、あたし一切無いから」
「わかってる。私だって、早く元の日常に戻りたいと思っているわ。……だからこそ、私たちはこの世界で一体何が起こっているのか、より詳しく知る必要があるの」
暖色系の明かりに照らされ、鋭く光るシルバーフレームの眼鏡の奥で、瞳に苛立ちの色を滲ませる咲希。
そんな彼女に対し、深月は出来る限り冷静を保ったまま話を続ける。
「街から人や動物が姿を消した理由とか、どういう原理で電車が動いているだとか、そもそもどうして私たちがここにいるのかとか、そういった理屈は今はとりあえず置いておきましょう。
私たちが今できる事、——いえ、しなくてはならないのは、この未知の世界で協力し合い、生き延びる事。そのためにも、明日からは範囲を広げて調査を行っていきましょう」
そう言って深月は、四人の少女たちを静かに見回す。
不安、焦燥、恐怖、混乱、未知——。
他でもない、自分自身の瞳で確認した世界の実状。
その光景が、深月の言葉により彼女たちの脳内でより鮮明に甦る。
人のいない教室。
人のいない廊下。
人のいない食堂。
人のいない駅。
人のいない街。
そして、人のいない世界……。
彼女たちが過ごしてきた人生の中に、これほどの静寂はこれまで存在しなかった。
蝉の声すら聞こえぬ夏がこんなにも寂しく、そして恐ろしいものであると、彼女たちはこの日、初めて知ったのだった。
深月は湿気を含んだ空気を切り裂くように締めの言葉を並べる。
「そういうわけだから、明日は朝から出かけるわよ。みんな、八時半までに本館前広場の桜の下に集合してちょうだい。いいわね?」
その声に、由衣も茜音もましろも咲希も、反対の意見は上げなかった。
代わりに、彼女たちは互いの顔を見つめながらゆっくりと頷きを返したのだった。