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瞬殺姫〆アデッサの冒険【リメイク版】 ~漂泊者たちの聖戦編~  作者: 西れらにょむにょむ
鈍色の自由
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鈍色の自由④

「ごちそうさま! 久しぶりにお腹いっぱい食べたー! アデッサさんありがとう!」


 食事を終えたところでソイヤはとびっきりの笑顔をアデッサへむけた。

 アデッサの頬が幸せそうにゆるむ。


 ――くー、やっぱり子供は可愛いなぁ。この屈託のない笑顔がたまらない。


 そう思いつつも、頭の中ではミニ・ダフォディルが『いつまで面倒を見る気?』『その子の母親にでもなると言うの?』と、突っ込んでくる。


 だが、ソイヤの笑顔は長くはつづかなかった。

 急に暗い表情をうかべ、つぶやく。


「……いつまでも甘えてはいられないよね。アデッサさんたちがいなくなったら……またもとの生活が始まるんだ……」


 さっきのダフォディルとの話をソイヤに聞かれたのかも知れない。

 そう思い、アデッサは唇を噛んだ。

 何もこたえることができずに、沈黙の時が流れる。


 やがて、アデッサは意を決し、立ち上がった。


「ソイヤ。私を【賢者の麻薬】の売人(バイニン)のところまで連れて行ってくれ。悪い奴らがこれ以上君に関わらないよう、説得してみる」


「……アデッサさん」


「そして君はまっとうな道を(あゆ)むんだ」


 アデッサの笑顔に、ソイヤが笑顔でこたえた。



 表へ出ると、街は既に暗くなり始めていた。


 暮れてゆく鈍色(にびいろ)の空の下で、貧民街の家々が影絵のように闇に染まってゆく。その闇の中ではまるで祭りの日ように、たくさんのランプの灯りが()らめいていた。ホイサの荒れ地に自生する草からは良質の燃料油が採れる。そのおかげで、ホイサでは貧民街といえども夜には多くのランプに灯りがともるのだ。


 その幻想的な風景にアデッサはしばし見とれた。


「行こう、ソイヤ。君はちゃんとした生活を取り戻すんだ」


 ソイヤは小さく頷き、アデッサを怪しげな裏通りへと導く。



 ほどなくして、二人は三方を壁に囲まれた路地裏の空き地へといきついた。空地の中央では焚火がたかれ、周囲にたたずむ三人の男たちの影を高い壁へと投げかけている。


 男たちはアデッサたちの気配に気づくと傍らの武器へ手をかけて立ちあがった。すぐには攻撃せずに、何者かと(いぶか)しげに睨みつける。だが、相手が誰であるかがわかると驚きの声をあげた。


「ふぁ! お、オマエは!」


「ひいッ!」


「や、やいソイヤ! そいつ、あの魔王を殺した『()()()()』だそうじゃねぇか! な、なんでそんな奴を連れて来やがった! て、てめえ、俺たちを殺す気か!」


 遅ればせながら、アデッサが何者であるか調べがついているようだ。


 二人の三下(さんした)はすでに腰を抜かし、その場へ座り込んでいる。昼間、ダフォディルへ殴りかかったリーダー格の男は(ひる)みながらもその場に立ち、アデッサを睨みつけた。潰れた右の拳は粗末なボロ布で首から吊り下げられている。


「お願いがあって来たのだ」


 アデッサが前へ出ると、リーダー格の男が固唾(かたず)をのんだ。

 三下どもが距離をとりながら、おずおずと立ちあがる。


「これ以上、ソイヤには関わらないでほしい」


 アデッサが頭をさげた。


 突然の申し出に三下どもは顔を見合わせる。そして、おろおろとリーダー格の男の出方を(うかが)った。リーダー格の男も突然の話に状況を把握できていないようだったが――


「ま、まずは武器だ! 武器を捨てて膝をつきやがれ!」


 と、アデッサに命じる。


 アデッサが言われるままに【王家の剣】を脇へと放り投げ、その場に膝をつく。

 その様子を見て、ようやく三人の顔に余裕が生まれた。

 リーダー格の男はロープをソイヤへ投げ――


「おい、ソイヤ。女を後ろ手で(しば)れ」


 と、命令する。


 アデッサは一瞬、反撃をしそうになるが、踏みとどまった。いまは黙って命令に従うしかない。ソイヤは慣れた手つきでアデッサの両腕を背中で縛り上げた。アデッサの腕が縛られると、三人の男たちは勝ち誇ったかのようにゲラゲラと笑い声を上げる。


 そして、アデッサの腕を縛り終えたソイヤは――三人の男の横へと歩み寄り、アデッサを振り返ってにやりと笑う。


「――ソイヤ!?」


「あはッ、やっと気づいた? 俺はずーっと笑うのをこらえていたんだぜ、アデッサ」


 ソイヤが声を上げて笑い出す。


「俺はな、お前たちをどうやって一人ずつここに誘いだすか悩んでたんだぜ? まさか自分から来ると言いだすとはね」


 そういいながらソイヤは足下(あしもと)に転がっている棒きれを拾い上げ、腕を縛られ膝をつくアデッサに近づくと――


 ガツッ!


 と、頬を殴りつけた。アデッサがその場へ崩れ落ちる。アデッサの頬に青々とした(あざ)が浮かびあがり、割けた皮膚からは血が(したた)った。


「お、おい、ソイヤ!」


 報復を恐れたのか、三下どもが再び(あわ)てた顔をする。


「大丈夫だ、コイツは人間の男を瞬殺することはできないらしいぜ。警備隊長が言っていたんだ。それに、縛ってしまえば手も足もでやしないさ」


 ソイヤの言葉を聞き、男たちは再びニヤニヤとした笑顔を取り戻す。


「なら安心だが……コイツは高く売れる。傷を付けるな」


「ふん」


 ソイヤはつまらなそうに鼻を鳴らすと這いつくばっているアデッサの背に足を乗せ、体重をかけた。アデッサが小さくうめき声を上げる。


「俺とコイツらは元々売人仲間だ。昼間は取り分のことでちょっと()めてただけだよ」


 ソイヤは二度ほど、アデッサを足で小突いた。


「さて、『アデッサさん』にはこれからクスリを飲んでガッポリ稼いでもらわないとね。ははは! 一国の王女、魔王を討伐した勇者様を抱けるんだ、貴族どもが金をガッポリ持って行列を作るぜ! アンタが言うとおり、これでセコイ商売から足を洗ってマトモな生活ができそうだ」


 四人の笑い声が空地に響く。


「おい、暴れたら面倒だ。サッサとコイツにクスリを飲ませな。たっぷり教え込んでやれ!」

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