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家庭訪問③

「このフカフカ具合……これは人をダメにするやつね」


「奇遇だな八幡、実は俺もそう思っていたんだよ」


「佐川は元からダメじゃない」


「なにそれヒドくね」


 車が発進すると凄さがなお分かる。

 車体が全く揺れないんだ。

 例えるなら新幹線に乗っている時の感覚に近い。

 コップに飲み物を注いで机の上に置いても溢れないだろう。


「ニノのご両親って何してるの?」


 梨音の質問にニノはうーんと少し首を捻った。


「何だろうね。僕もよく分からないんだ」


「親の仕事ってよく分かんねーよな。俺も親父が何してるのか分かんねーよ。サラリーマンなのは知ってるけど」


「そうか? 普通は知ってると思うけどな」


 一度は気になる話だと思うが。

 俺は昔に父さんに聞いたら銀行員だとあっさり教えてくれた。


「修斗の親父さんは何してるんだよ」


「銀行員」


「へぇ! 普段から倍返ししてんの?」


「ドラマの主人公じゃねーよ」


 土下座させるぞ大馬鹿。


「八幡は?」


「ウチも変わらないよ。営業……とは言ってたけど何の営業かは分からないかな。でも梨音の家は特殊よね」


「そうなん?」


「特殊……なのかなぁ。定食屋なんだけど」


「マジか! そりゃ特殊だな!」


「私も初めて聞いた」


「あれ? きいにも言ってなかったっけ」


「じゃあ今度みんなで食べに行くしかねーな!」


「是非もちろ───」


 と言おうとして梨音がこちらを見た。

 そうだよく気付いた。

 こいつらが来てしまった場合、それはつまり俺が梨音の家に同棲していることがバレるリスクが高まるということだ。

 むしろここまでよくバレずにこられたわけだが、逆にその期間の長さのせいで打ち明けるタイミングは完全に逸してしまっている。

 こいつら、特に新之助にでもバレでもしてみろ。

 次の日には町内放送が如く、俺達の関係性はクラスの奴らに筒抜けになっているだろう。


 そういう意味合いも込めて梨音に目配せした。


「ま、まぁタイミングが合えばだね〜。あはは」


 それとなく梨音が濁した。

 それでいい。

 くれぐれも余計なことを言って煽らないようにするんだ。


「高坂君は知ってたの?」


「当たり前だろ幼馴染なんだから」


「飯は?」


「めっちゃ美味い。俺が食ってきた飯の中でナンバーワン。俺の体の構成成分の7割は梨音の家の飯でできてる」


「絶対行こうぜ!」


 ジト目で見てくる梨音に対して俺は申し訳なさそうにしながら顔を背けた。

 だって飯の話になったらそりゃ嘘つけないじゃん。

 美味い以外の答えなんてないじゃん。

 これは煽ったわけではなくて事実を述べただけなんですぅ。


「高坂高坂」


 新之助達が梨音の家の定食の話で盛り上がっている中、前橋が俺の服の裾をちょいちょいと引っ張ってきた。

 いちいち可愛いなこいつ。


「足の具合はどう?」


 ひと月前、サッカー復帰宣言をした時から俺がリハビリを始めたことをもちろん前橋も知っている。

 前橋は俺の復帰を聞いて大層喜んでいたと神奈月先輩から聞いた。

 俺の前では無表情装っていたというのに、裏では喜んでくれてるとかツンデレにもほどがある。


「良くも悪くも普通だな。徐々に負荷をかける運動を始めちゃいるが、痛まないと言ったら嘘になる。まぁ良くなるための痛みだと思えばなんてこたないけどな」


「つまりマゾと……」


「結論が雑すぎん? もう少し答えの要約に正確性を求めたいんだが」


 誰も痛みが気持ちいいなんて言ってなくね。

 変な勘違いされるの超困る。


「リハビリの結果、あの頃と同じ状態に戻る保証なんかないけど、それでも俺は後悔したくない。リスタートに少し時間は掛かったが…………今度は折れないよ」


「…………うん。私も応援する」


 こんな俺に期待してくれてる人もいれば、見捨てた奴もいる。

 期待に応えると同時に見返してやりたい。

 俺の今の原動力の原点はこれだ。



 しばらくすると車はゆっくりと停車した。


「お疲れ様でした。到着になります」


 牧村さんの言葉と同時に車の扉が開いた。

 まさかタクシーみたいに自動仕様か!? と思ったがそうではなかった。

 外から扉を開けていたのは牧村さんとは違うタイプのフォーマルでフォーマットな格好をした女性。


 つまりはメイドだ。


「お帰りなさいませ」


 なんかここだけ世界観変わってね?

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