次元超越②
放課後、生徒会新聞の大詰めということで前橋と最後の仕上げに取り掛かった。
ここまで神奈月先輩に3回ほど見せに行き、内容を精査してもらって補足と訂正を繰り返してきた。
最後にこれを直せばオーケーだと言われたため、完成はもう間近だ。
後は梨音が描いたイラストを空けておいたスペースに貼り付ければ出来上がる。
梨音は何種類かパターンを変えた画風で生徒会メンバーのイラストを描いており、どれにしようか迷っているみたいだった。
個人的には二頭身のタイプが一番コミカルで柔らかいと思ったんだが、梨音的には描いていて楽しくなってきたのかアレコレ試行錯誤を繰り返している。
自分の特技が発揮できる場面が楽しくなる気持ちは分からんでもないし、梨音が楽しんでいるのなら俺はそれで充分だ。
「できたー!」
前橋が珍しく大きな声を上げながら、伸びをするように椅子の背もたれに体重を預けた。
基本構文が出来上がってからの補足や訂正をするのは、結局のところ前橋に任せきりにしていた。
神奈月先輩に指摘された部分を直すだけだから、パソコンの使えない俺には無理だからな。
「お疲れ。前橋がいなかったら後1ヶ月は掛かるところだったよ」
「大袈裟。慣れれば誰でもできる」
「その慣れるまでの時間が掛かるのさ。何はともあれ、生徒会としての初仕事はこれで完遂できそうだ。ありがとう前橋」
「…………うん」
さて、後は梨音のイラストをスキャナーで読み込んで新聞に貼り付けるだけだ。
俺は会計部屋から出てイラストを描いている梨音の所へ声をかけに行った。
神奈月先輩達は委員会会議があるということで梨音の他には誰もいない。
本来は会計である前橋も出る必要はあったのだが、資料は渡してあるということでこちらの方に便宜を図ってもらった形だ。
「こっちは終わったぜ。後は梨音のイラストを読み込むだけだ」
「お疲れ様。思ったよりも早いね」
「前橋がパパパーッとな」
「いくつか候補描いてみたんだけどどうかな?」
梨音に何枚か紙を渡され、描かれているイラストを確認した。
最初に見た二頭身のタイプの他に、少し少年漫画っぽいイラストや少女漫画タッチのイラスト、リアル路線等の生徒会メンバーが描かれていた。
普通に上手いと思うが、二頭身以外はちょっと恥ずかしさが増すな。
俺別にこんなに格好良くないし、これを見られたら新之助にイジられる予感しかしない。
やっぱりちょっと崩した方がいい気がする。
「俺はこれがいいと思う」
「やっぱり? 私も描いててやっぱこれかな〜って思ったんだよね」
「よし、決定だな」
「ただいま〜。進捗具合はどうだいベイビー達」
「誰がベイビーですか」
ちょうど先輩達が帰ってきた。
思ったよりも早く終わったみたいだな。
「今、イラストをこれに決めて読み込むところです」
「ふむふむ、いいじゃないか」
「リオちゃんが絵描いたの〜? 最近忙しかったから私、初めて見るかも〜」
神奈月先輩と新波先輩が梨音の描いた絵を見ていく。
これでもしリアル路線が良いとか言い始めたらどうしよう。
「僕達が次にやることは体育祭に向けてになるな。生徒会新聞が終わったら高坂達もそっちを手伝ってもらうことになるから覚えておいてくれよ」
「分かりました。確か体育祭は1ヶ月後とかですよね? 既に応援団とかでチラホラ活動してる人達が──────」
「わああああああああああ!!!!」
聞いたこともないような絶叫が生徒会室に響き渡った。
まるでゴキブリが顔に張り付いたかのような叫び声だ。
思わず前橋も部屋から出てくるぐらいの絶叫。
その声の主は予想もしてなかった人物だった。
「…………新波先輩?」
「神絵師……!」
「神絵師?」
新波先輩が梨音のイラストが描かれている紙を持って、手で顔を抑えながら天を仰いでいた。
こんな新波先輩見たことない。
「こ、これ……リオちゃんが描いたの?」
「そうですけど…………」
「尊い……!」
「尊い?」
ヤバい何を言ってるのか全然分からん。
もしかして大鳥先輩と同じく謎スイッチ入ったか?
「この画風……『俺プリ』の画風と一緒だよね!?」
「よく分かりましたね。実は参考にさせてもらったんです」
「分かるに決まってるよ〜! だって『俺プリ』は私のバイブルだもん!」
「ニーナは相変わらずの信者っぷりだね」
「梨音、『俺プリ』って何?」
さっぱり話についていけない俺は、こっそり梨音に聞いた。
「『俺プリ』は『俺がお前のプリンスだ』っていう少女漫画の略だよ。アニメにもなってる人気作で、私も全巻持ってるよ」
なるほど…………つまり新波先輩は梨音の描いたイラストが自分の好きな漫画の画風に似ていたから興奮していると。
「まさか『俺プリ』の絵を描ける人がこんなに近くにいるなんて……! もしかしてリオちゃん、龍宮寺湊様とか描けたりする!?」
「ええ、私も何回も描いてますから」
「きゃ〜すご〜い!! ちょ、ちょっと描いてもらっても……」
「良いですよ」
「やった〜!!」
新波先輩の興奮が止まらん。
なんならもうキャラに様付けしてるよ。
「…………高坂、だから前に僕は言っただろう」
「……何をですか?」
「彼女が求めているものは次元が違うと」
次元が違うってレベルの話じゃなくて二次元三次元の話かよ!!
「新波は漫画のキャラクターにガチ恋してるから何度告白されても断ってるんだよ」
「なんというか…………残念な人ですね」
天然キャラなんて霞むほどの衝撃を俺は受けた。




