次元超越①
【高坂修斗目線】
体育が終わり、着替え終えてから教室に戻り、しばらくするとカド先のところへ携帯を返してもらいに行っていた新之助が帰ってきた。
「いやー怒られた怒られた。でも携帯は返してもらったからオッケー」
「反省の色なしだな」
「あるある。ほら見てみ? 俺の顔色超ブルー」
「ホントだ、顔悪」
「顔色な!?」
「飯はどうするよ。食堂に行って食うか購買で買ってくるか」
「実は今日コンビニで買ってきちまったんだよな」
「じゃあ教室で食うか。ニノはいつも通り弁当持ってきてるみたいだし、ちょっと購買行って適当に買ってくるからニノと先に食っててくれ」
「じゃあプリン買ってきてくれよ」
「焼いたやつかクリームのやつか」
「焼いてる方で」
「了解」
俺はそれほど残金の入っていない財布を握りしめ、購買に昼食を買いにいった。
購買と言っても、瑞都高校の購買はそれほど大きくない。
おにぎり、菓子パン、飲み物、プリンと言ったコンビニに置いてあるような単品商品しか置いていない。
食堂があるのでちゃんとした食事が摂りたい人はそちらを利用するのが普通だ。
そのため、購買が混んでいることは滅多にない。
「今日も相変わらず空いてら…………ん? あれは…………」
見覚えのある後ろ姿が商品棚の前に立っていた。
何を買おうか迷っている所みたいだ。
「新波先輩、こんにちわ」
「あ〜高坂君だ」
生徒会書記担当の新波翼先輩だ。
生徒会室以外で会うのは初めてかもしれない。
「新波先輩も昼飯を買いに来たんですか?」
「お昼ご飯というよりもデザートかな〜。でもどっちのプリンがいいか迷っててね、クリームが入ったプリンと焼きプリンなんだけどクリームのプリンの方が食べたいんだ〜。でもカロリーを気にするとクリームが入ったプリンの方が高カロリーだから焼きプリンにしておいた方がいいんだけど、そもそもプリンを食べる時点でどっちも同じくらいなカロリーなわけだし、ちょっとカロリー高めなクリームでも食べたい方を食べた方が幸せになれるかな〜って思ってるの。高坂君はその辺りどう思う〜?」
相変わらずよくしゃべるなぁこの人!
プリン一つ決めるだけなのに永遠と話し続けられるんじゃないか?
俺なんて30秒で買いたいもの買って帰るのに。
というか焼きプリン、あと1個じゃん。
新之助は焼きプリンがいいって言ってたけど、新波先輩がそっちを選んだら無くなるな。
ま、その時はクリームの方買っていってやるか。
あいつ、結局どっちでも食べるし。
とりあえず新波先輩が選び終えたら余った方を貰うとしよう。
〜10分後〜
「どっちがいいかな〜」
(長ぇぇぇぇ!!)
一向に決めないんだけどこの人!!
もう昼休み終わっちまうよ!!
たかだかプリン如きにこんなにも時間を掛けられるものなのか?
女子って分からん……!
「決〜めた! 焼きプリンにしよっ!」
そして焼きを持っていかれるという。
これなら最初から何個も余ってるクリームを持っていけばよかった。
「あっ、ごめんね〜高坂君。なんだかずっとプリン選びに付き合ってもらっちゃってたみたいで〜」
「いえ……いいんですよ」
そんなつもりはなかったんだけどな……!
たまたま待ってたみたいになったけど……!
新波先輩は購買のオバちゃんにお金を支払い、買ったプリンを満足そうに眺めていた。
「えへへ〜、今日のプリンは君だよ〜。美味しく食べるから待っててね〜」
こうして見ると本当に天然記念物って感じがするな。
頭は若干弱そうに見えるが誰に対しても優しく、八幡に負けない胸を持つ。
特にこのポワポワとした天然っぷりは女子はともかく男子受けは良さそうだ。
実際のところ、大鳥先輩の話では何度も告白されているようだし、男子から人気があるのは間違いない。
しかし断っている理由が未だに分からない。
新波先輩が求めているものは次元が違うと話していたが……一体どういうことなんだろうな。
「それじゃあね高坂君、また放課後〜」
「はい、お疲れ様です」
新波先輩は嬉しそうにスキップしながら戻っていった。
まぁいいさ。
とりあえず今は飯を買って教室に戻ろう。
昼休みも残り少ないし、二人はもう食べ終わってるかもしれないな。
俺は適当にパンとおにぎりと新之助のプリンを買い、教室へと戻った。
案の定、二人は既に昼食を食べ終えてしまっており、遅いだのなんだのピーチク言われたが、
無視して黙々と食事をした。




