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新聞作成①

「おや、遅いお帰りだシュート…………顔腫れてないかい?」


「……蜂に5箇所ほど刺されまして」


 蜂は蜂でも女王蜂ですけどね! って言おうとしてやめた。

 今度は毒付きでやられそうだから。


「ちょっと修斗がやらかしまして、なんとか図書室で一部の資料を見ることは出来たんですけど、ゆっくりとはできなくて……」


「おいおい、そんな俺が悪いみたいな言い方───」


「10:0で悪いでしょ」


「おっしゃる通りで」


 ちょっとした冗談のつもりだったが梨音にキッと睨まれたので、反省している素振りを見せることにした。


「ふむ、相変わらず尻に敷かれているみたいだね」


「そうなんです。隙あらば上に乗っかってくるんです」


「ちょっ……なんなのその言い方!」


「やらしいね」


「神奈月先輩!」


 俺が責められていた状況を濁すために顔を真っ赤にして怒る梨音をイジっていたら、会計専用の部屋から前橋が出てきた。


「すまない、うるさかったかい?」


「……別に。それよりも未来さん、書類終わった」


 前橋が分厚い紙の束を神奈月先輩に渡していた。

 確か前橋が任されていたのは部活動の予算運営についての項目と、今年の部費に関する予算案だったはずだ。

 ということは俺がサッカー見ている間にどちらも終わらせたってことだよな。

 どんだけ優秀なんだよ。


「さすがキイ、早いね。後で確認するから私の机の上に置いておいてくれ」


「うん……」


「二人は生徒会新聞、そんなに急ぎでもないからゆっくりで構わないよ。そうだね……来週末ぐらいまでに完成させてくれれば」


「分かりました」


 今日が木曜日だから……実質8日間ぐらいか。

 8日もあれば完成させることぐらいわけないぜ。

 そもそも土日でも俺は梨音と話し合うことができるしな。


「会長、少しよろしいですか」


「なんだい大鳥君」


 神奈月先輩は大鳥先輩に呼ばれて移動していった。


「…………高坂」


「ん?」


「…………顔腫れてるよ」


「だってよ梨音」


「なによ」


 なによってなにさ……。

 そんな怒らなくてもいいじゃないのさ。


「……梨音、新聞はどこまで進んだの?」


「まだ何も。A3用紙は白紙のまんまだよ」


「…………私も手伝おうか?」


 心配そうにチラチラとこちらを見てくる前橋。

 見てて心配になる小動物に、逆に心配されるとは。


「そんな悪いよ。きいだって自分の仕事まだあるんじゃない?」


「ほとんどない……。未来さんに出した書類にもし訂正があったら直すぐらい」


「でも…………」


「じゃあアドバイスだけでも貰おうぜ。こういう事務作業に関しては前橋の方が詳しそうだし」


 俺が軽く提案すると、前橋の表情が明るくなった。

 前橋の顔を見た時、誰かの助けになりたいと思っているように見えたのはどうやら気のせいじゃなかったみたいだ。

 神奈月先輩の話では中学の頃から引っ込み思案であまり友達がいなかったと話していたし、誰かに頼りにされるのを待っていたとか?


「じゃあ……手伝ってもらってもいい?」


「任せて……!」


「とはいえまだ何を書くかも決まっていない状態なんだよ」


「じゃあ……最初にアドバイスすると、パソコンを使って作った方が早いよ」


「あ〜…………なるほど」


 そうか、その手があったか。

 パソコンなんて使ったことがないからその発想はなかった。

 このご時世、手書きで新聞作ったりするなんて中学生までの話だよな。

 この生徒会室にはパソコンという便利な物があるんだから、これを使わない手はないだろう。


「そういうのを作成できるアプリがあるの?」


「うん。作図とか記号を使えたりして、新聞(よう)のものを作るのに適してるのがあるよ」


「いいじゃんそれ、使おうぜ。ちなみになんだけど、描いたイラストを読み込んだりとかってできるのか?」


「スキャナーもあるからできるよ」


「いいね、そしたら仕事を振り分けるか。梨音は漫画を描い──────漫画が好きでイラストが得意だから、新聞に載せるイラストを考えてくれ」


「分かった」


 思わず漫画を描いていると言いそうになったが、梨音にきつく睨まれてなんとか訂正した。

 漫画を描いていることは俺以外には秘密にしてるんだったな。

 もし口に出していたら顔面クラッシャーじゃ済まないところだった。

 それにしても今日はよく睨まれるな。


「俺はパソコンを使って内容とレイアウトを考えるから、前橋はその使い方だったりを教えてくれよ」


「うん」


「狭い部屋だけど会計部屋、二人入れるよな?」


「えっ!? あ、あそこの部屋使うの?」


「それ以外なくね? こっちにパソコン持って来れるなら話は別だけど」


「それは無理だけど……。そう、だよね。それしかないよね……」


 そんなにプライベート空間侵食されるの嫌なのかな。

 前にちょろっと覗いたけど、ネットカフェみたいな空間になってたもんな。


「ちょっと、きいに変なことしないでよ」


「変なことってなんだよ。スカート捲ったりすることか? 安心しろ、俺は胸フェチだ」


「もうその発言が危険なのよ」


「高坂は胸フェチなんだ…………」


 あ、前橋が自分の胸を見て若干凹んでいる。

 全力でフォローしなければ……!


「違うんだ前橋。胸フェチといっても大きければ良いわけじゃない、小さくても小さいなりに良いところがあることを俺は知っているからこその胸フェチなんだ。大きいのが好きなだけの奴はただの巨乳好きだ」


「どういうフォローの仕方してるのよ最低」


「…………そうなの?」


「きい!? 騙されちゃダメだよ!?」


 ふぅ、昔からアシストするのは得意だったんだ。

 事なきを得たぜ。

 また梨音に睨まれてるけどな。

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