50/220

エピローグ

【高坂修斗目線】

　週末が明け、また楽しい楽しい学校生活が始まる月曜日。

　気怠い体を起こして梨音と学校へ向かった。

「何で寝起きってあんなに眠いんだろうな」

「そのくだらない質問、答えなきゃダメ？」

「できれば」

　決して夜更かしをしているわけではないのだが、朝型か夜型かと問われれば、俺は夜行性ですと答えるほどに朝は弱い。

　何時間寝ても寝足りないほどで、その睡眠量はコアラと言っても過言ではないはずだ。

　逆に梨音は毎回朝飯を作っていて慣れているのか、朝に強い。

　だからこうして会話をして、学校に着くまでに目を覚ますのを手伝ってもらっている。

「何で眠いんだと思う？」

「寝起きだからじゃない」

「なるほど深いな」

「バカでしょ」

　そうこうしていると学校へと着き、教室へ入ると土日明けぶりにうるさい奴が絡んできた。

「修斗！　待ってたぜ聞いてくれよ！」

「さっき鼓膜破れたから無理だわ」

「骨伝導でもいいから！」

　折れねーなこいつ。

　このテンションの高さ、新之助の場合は朝型夜型の概念とかなくて常にテンション高そう。

「先週、俺がユキセンに部活紹介してもらったじゃんか」

「あーそういやそんなんあったな」

　俺と梨音が生徒会室に向かう際、新之助は宇佐木先生から部活を紹介されていた。

　一体どんな部活を紹介されたというのか。

「どんな部活だったんだ？」

「逆にどんな部活だと思う？」

「彼女みたいな事言ってんじゃねーよ。はよ言え」

「それがヒデーんだよユキセン、『お前はとても面白い奴だからピッタリの部活がある』って紹介されたのが、なんと漫才部」

「別に酷くはないだろ」

「『特に顔が面白い』からって理由で紹介されたのにか？」

「間違っちゃいない」

「否定しろよ！」

　デビュー顔だからな、そこにいるだけで面白いなんてもはや特権だろ。

　思っていたよりしょうもない話だったな。

「そんなことより土曜日は楽しかったぜ」

「ああ、フットサルか？　わりーな用事があって行けなくてよ」

「元から来るつもりなかっただろ」

「いやマジで行きたかったんだって。でも妹の誕生日だったからよー、誕プレ買いたかったし普通はそっち優先するだろ？」

「なるほどそりゃそうだ」

　新之助には妹がいたのか。

　こんな奴が兄貴というのも中々可哀想ではある。

「これが結構可愛くてな、でも思春期だか何だかで結構嫌われててよ、だからプレゼントで少しでも機嫌を取ろうとだな」

「なるほど女に貢いでるわけか」

「妹へのプレゼントを貢いでるとか言うな」

　わざわざ妹にプレゼントを買いに行くなんて、案外身内想いの良い奴じゃないか。

　ぼっちでいたニノに話しかけたり、初対面の奴に水を被せられても怒らなかったり、人間性はともかくとして心の広い奴なのは間違いない。

　面倒見がいいとも言うのか。

「ちなみに何を買ってあげたんだ？」

「ふっ、そりゃもちろん下着だよ」

「えっ……」

　当たり前だろという顔をして何を言ってるんだコイツ。

　どこの世界に妹の誕生日に下着をプレゼントする兄貴がいるというんだ。

「なんだ？　なんか変なこと言ったか？」

「変なことしか言ってねーよ！」

「どこがだよ！　妹に誕生日プレゼントをあげるのは兄として当然のことだろーが！」

「下着をプレゼントするのは兄として失格だけどな！」

「ええ？　意味分からん」

　素直に疑問を抱いていやがる。

　こいつに常識ってものはないみたいだ。

「妹さんはそれを受け取ってなんて言ってたんだよ」

「『クズ兄《に》ぃさん最低』だってよ。反抗期だねぇ」

　反抗期じゃなくてデフォなんだろそれが。

　原因ハッキリしてんじゃねーか。

「……ちなみに妹はいくつ？」

「14。中二」

「………………」

　まぁ…………身内の問題だし、兄妹がいない俺がとやかく言えることじゃないよな。

　セーフかアウトかで言えばアウトなんだろうけど、デビューマンは重度のシスコンだったわけか。

「愛の形は……人それぞれだもんな」

「いやいや、兄として当たり前のことなんだから愛情とかそういうのじゃねーよ」

　本人にシスコンの自覚なし。

　よし、あんまり触《ふ》れんとこ。

「俺の中の変人ランキングが変動したわ」

「そんなものにランクインしていたこと自体納得いかないが、まぁ今の話を聞いたら俺がまともなのは伝わったみたいだな」

　いや、ブッチギリでお前1位。

　あの神奈月生徒会長を差し置いて1位だ、誇れ。

　─────────────────────

　チャイムが鳴り、5限の授業が終了した。

　今日は生徒会長選挙の演説発表。

　6限目のところに時間が設けられており、体育館でそれぞれの立候補者達が演説を行う形となっていた。

　ところが立候補者を見ると神奈月先輩以外に立候補者はいなかった。

　生徒会長といえば大学受験の内申点でも大きく評価されるため、上を目指している人ほど希望したりすると聞く。

　しかし、立候補しているのは神奈月先輩のみ。

　これがあの人が余裕を見せていた理由か？

　特に選挙活動をしている様子もなかったのは、勝ち確が分かっていたから？

　細かい理由については分からなかった。

　神奈月先輩が凛とした姿で壇上に立ち、人を惹きつける話し方で自身の人となりを話した。

　応援演説では大鳥先輩が、この2年間で神奈月先輩の行った内容を説明し、再選するにあたっての生徒に対するメリットを説明した。

　たとえ他に候補者がいたとしても、神奈月先輩の当選は揺るがなかっただろう、そう思わせるほどの演説だった。

　そして神奈月先輩は三年連続三度目の生徒会長に就任し、俺と梨音と前橋は晴れて生徒会役員になったのだった。